第59話 行けば分かる
翌朝、ルナはアイルに身体を撫で回されて目を覚ました。
上野駅に到着する夜行列車を窓越しに眺めながら、ルナはアイルが持ってきた紅茶を淹れ、その隣でアイルはホットケーキを作る。
朝食を食べ終えた時、ルナのスマホが鳴った。
里緒菜からだった。
「アイルを出して欲しい」と言うので、アイルに渡す。
「予定通り準備はしている。」「ちょっと早いけど私が待ちきれない」と言う、断片的な会話だけが聞こえて、ルナは要領を得なかった。
適当な時刻、ルナはアイルに手を引かれて自宅を出る。上野駅から東京メトロ銀座線に乗り、浅草駅へ。特急「スペーシアX5号」は既に、専用ホームへ入線していた。
「栃木に行ったら、何をするのですか?」
ルナは疑問をそのままぶつけた。
「行けば分かります。」
アイルは微笑む。しかし、ルナにとってその言葉はろくでもない事が起こる前兆にしか聞こえなかった。
中学のスキー合宿の際、ルナのクラスの男子が女子の部屋に入り、ルナのクラス全員が呼び出されて説教を受けたことがあった。ルナのクラスの男子が女子部屋に入ったと言うその時間、ルナは宿の非常階段から冬の星座を見ていたため、関係はなかった。しかし、関係ないルナも巻き込まれ、怒鳴られ、反省文を書かされた。そのとき、学年主任から言われたのはただ一言、「来れば分かる」。
「来れば分かる」と言われたところで、ルナには関係ないはずだったのに、何が起きたのかも分からず、連帯責任か何か知らないが、ただ怒鳴り回され、反省文を書かされ、せっかくのスキー合宿が台無しにされてしまった。その時の反省文には、星座観測記録を書いて提出してまた怒られたが「関係ないから知らねえよ馬鹿野郎!」などと逆ギレした。
それ以来、ルナはスキー合宿や修学旅行や遠足には仮病を使って、絶対に参加しなくなった。高校に入ってからは修学旅行の間、糸川教授の助手をしたり、一人で日光鬼怒川地区へ行ってSL大樹に乗ったりしていた。
だからこそ、アイルの言う「行けば分かる」はロクでもないことの前兆にしか聞こえない。
それが、仮にスペーシアXの最高グレードのコックピットスイートに乗れたとしても。




