第58話 栃木への切符
ルナにとって無縁のイベント。クリスマス。
だが、今年は奇妙な世界に吸い込まれた結果、トナカイが引っ張るサンタクロースを乗せたソリのように、電気機関車に引かれ、夜の線路をひたすらに走る夜行列車の姿をいくつも目にすることができた。
現実でも、東京駅からは「サンライズエクスプレス」が唯一の定期寝台特急として発着しているが、アイルの世界では、次から次へと流星群のように夜行列車が東京駅や上野駅を発ち、遠く離れた町へ向かっていく。
(そういえば―。)
ふと、ルナは思い出した。明日は、ふたご座流星群の極大期であること。そして、今年の極大期は12月24日のクリスマスイブの夜だという。
東京天文大学の糸川教授にも連絡し、観測に行こうとしたのだが、教授は別部門の研究で手が離せないと言っていた。
24日から1月3日までの間、ルナはバイトも入れず、学生最後の冬休みと言う物を満喫しながら、ふたご座流星群の観測記録を作り、最後の天文観測の記録を学会に提出して少しでも爪痕を残そうと考えていた。
しかし、糸川教授が観測に参加しないとなれば、どうにもならない。
バイト終わりの夜遊びがてら、上野駅で夜行列車を見送ったルナが自宅に帰宅すると、紅い着物の女の子の姿があった。
「夜遊びですか?大概にしてくださいな。女の子のお店に行ったのであるなら、お仕置きが必要ですね。」
「-。」
ルナは冷たい目でアイルを見やり、
「何でもかんでも女の子のお店と言うのは短絡的で単細胞生物のようですね。」
と、吐き捨てるように言った。
「先日は失礼しました。お詫びと言っては何ですが、明日24日から3日までお休みであるなら、私と栃木に来てください。」
アイルは先日、ルナを怒らせた件について一言だけ謝罪したが、それを口実に自分について来いと言う。
「切符は確保してあります。」
アイルは切符を見せる。それは、特急「スペーシアX5号」の6号車のコンパートメントの物だった。
だが、その裏に何かがあるとルナは思った。
「とりあえず、入れてくださいな。寒いです。」
「そう、ですね。」
微笑むアイルとは対照的に、ルナは溜め息交じりに言いながらアイルを家に入れる。なぜなら、夜行列車を見ていたがために帰宅が遅くなり、今から浅草駅に追い返したところで、アイルを下今市へ送り返す列車が無いのだ。
「夕食は―。」
「上野駅の立ち食いそば屋で済ませました。アイルさんは?」
「私も上野駅の食堂です。」
ささっと、ルナはシャワーを浴びて、もう寝る体制に入る。
「私と来ますか?」
「下今市ですか?」
「いいえ。栃木に。あぁ、年越しは下今市ですが―。」
「ああ、まぁ、どうせ暇ですから行きます。」
ルナの態度は、どこか投げやりだった。
僅かな親戚とも最近は疎遠で、高校進学後はまったく連絡も取っていない。
アイルがなぜ栃木に誘うのか疑問に思う。
しかし、栃木にはアイルの実家があり、里緒菜や先日、「スペーシアX」の車内で話をした麗も居る。
彼女達と会えば、アイルの世界の事、そして、今、ルナが置かれているルナは死んだという事実について何か分かるかもしれない。
そう考えながら、ルナは明日に備えて眠りについた。




