第57話 クリスマス真っ只中の夜行列車
クリスマス真っ只中の東京都内。
しかし、ルナには無縁だ。
ルナはクリスマスも忙しくバイトをして小金を稼いでいたが、とうとう、クリスマスの町もまた、アイルの世界に飲み込まれてしまったらしく、古ぼけた東京を路面電車がサンタクロースの装飾をして走っているし、東京メトロ銀座線も相変わらず昔の電車が走っている。
タクシーも主流となったJPNタクシーや、ワゴン車タイプのタクシーは無く、殆どが、旧型の日産セドリックと言ったセダンタイプで、しかもトランスミッションはコラムシフトMTのようだ。
しかし、アイルの世界に飲み込まれた事は決してルナにとって悪いことだけでは無かった。
バイトが終わった時間に上野駅に行くと、特に地平ホームはクリスマスとは無縁の賑わいを見せていた。
そこには、583系電車の寝台特急「はくつる」や、EF80が牽引するブルートレインの寝台特急「ゆうづる」。そして、EF58が牽引するごちゃ混ぜの客車列車の夜行急行列車がいて、ルナの目を楽しませた。
今日は高崎線から上越線経由で北陸地方へ行く夜行急行「能登」まで見送る。
EF58がスハ43系客車や10系客車、スロ62型客車の混結編成を牽引する列車だ。
下りの急行「能登」は大宮や熊谷のような大きな駅の他、桶川と言った駅にも停まるため、時折、上野辺りで呑んだ帰りに乗る人も居るらしいが、寝過ごしたら大変な事になるだろう。なぜなら急行「能登」の終着は金沢で、気が付いた時には高崎線から遠く離れた北陸本線を走っているという事になってしまうからだ。
(それを考えると、南栗橋まで寝過ごしたとか、大月まで寝過ごしたが可愛い物だと思えてしまうな。)
と、ルナは笑った。
尚、急行「能登」は1982年ダイヤ改正で上越新幹線開通に伴い、1997年の長野新幹線(北陸新幹線)開業までの間、信越本線経由に運行経路が変わり、その間はEF63型電気機関車の助けを借りて碓氷峠を越えていた。
アイルの世界に飲み込まれたルナにとって、過去の夜行列車を眺める事は楽しいが、同時にそれは今自分が居る世界の時代や世界観を調べる事も兼ねていた。だが、アイルの世界においては、スマートフォンがあるのにスペースシャトルが無かったり、GPSはあるのにISSは無かったりと、不可解な事が多いため、列車を見てその列車の編成から時代を見ようとしても無駄に終わりそうだが。
それでも、何もしないよりはマシだった。
翌日もルナはバイトの後に列車を見に行く。
今度は東京駅だ。
アイルが東京へ来た時、アイルが特急「つばめ」が存在することを示唆する発言をしていた。
なので、そのことを調べに行く。
ホームの時刻表を見るとブルートレインの他、朝の時間に特急「つばめ」や「はと」の名前があった。そして、東京駅の構造も先日、アイルが来た時よりも変化した。上野東京ラインも存在せず、更には東北新幹線のホームが無く、そこにも在来線ホームがあるのだ。
まもなく、16時30分発の寝台特急「さくら」が入線してくる。
「あっ!」
ルナは思わず声を上げた。
先日のブルートレインではない。
長大編成を牽引するのはのっぺらぼうのようなEF65‐1000ではない。
流線形に無骨な武闘派な顔を持つ電気機関車。
EF66だった。
チラリと10番線ホームのポスターを見る。
「国鉄マンモス機関車、いよいよ寝台特急に投入!」と書かれ、EF66の姿が描かれていた。
16時45分発の寝台特急「はやぶさ」もやって来たが、こちらにもEF66の姿がある。
ルナは東海道本線のブルートレイン中でも、これぞ東海ブルトレと言うべき存在の列車まで待つ。
それは、寝台特急「あさかぜ」。日本で初めてデビューしたブルートレインである。時刻表には、「あさかぜ1号」と「あさかぜ3号」とあった。
すっかり夜の帳が降りて来た頃、寝台特急「あさかぜ1号」がやはりEF66に牽引されて姿を見せた。
「あっ!」
思わずルナが声を上げたのは、使用されている24系客車には金帯が巻かれ、編成中間部にはA寝台個室はもちろん、ミニロビー付き2人用B寝台個室「デュエット」、4人用B寝台個室「カルテット」、オリエント調内装の食堂車が連結されていた。20系寝台車以来の豪華設備を兼ね備えた姿で、後の「北斗星」の礎を築いた姿だったのだ。
(里緒菜さんが、遠くまで行く列車で旅をしたいって気持ち分かる。俺も鉄道マニアだから。こんなに沢山、ブルートレインが走っている世界なら、どこまでも旅をしていたい。)
思いながらホームから空を見上げると星が見えた。
(宇宙には行けなくとも、この世界で生きるのはありかな。でも、この世界の事は知らない事ばかり。これを色気で誤魔化される事は嫌だ。)
ルナは思いながら、寝台特急「あさかぜ1号」を見送った。




