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第56話 ウララの伝令

 白百合麗は無事に、栃木に着いた。


 庄屋に帰宅すると、姉の鉾根がものすごい勢いで出て来て麗に抱き着いた。


「勝手にどこかへ行くのは勘弁してね。」


 後ろから里緒菜が言った。

 里緒菜の後ろには、普段は電算室に籠り切りの人物。里緒菜の夫だ。


「それで、ルナに会った感想は?」


 鉾根が聞く。


「エレナさんに似た人物でした。」

「アイルを泣かせた件は?」

「よく分からない言葉がありましたが、要点は分かりました。ルナにとって、勝手知ったる日光鬼怒川地区が、突如、変な世界に変わってしまった事で、そこは未知なる世界になってしまって不安になり、それを何とかしようと情報を集め、それらの対策をして安全を確保しようとしているにも関わらず、それに対する回答が色気で誤魔化すというアイルさんの態度で、ルナの怒りに火を付けてしまったと。」

「-。」

「私的には、確かに怒鳴り散らしたルナも大人気ないと思います。しかし、その発端は、アイルさんにあるとも思います。」

「-。そう。分かった。ありがとう。」


 里緒菜が言ったその後ろで、里緒菜の夫は「けっ」と舌打ちして、また電算室に籠ろうとした。


(そうだ。知らない事が恐怖なのだよ。知っていれば、それに対する対策を練られる。アメリカ空軍ジョセフ・W・キッティンジャー大尉が、宇宙ロケットからの緊急脱出を想定した実験の際、大尉本人は「知らない事がどれだけ起こるかが最大の恐怖だ」と言っていた。その答えが色気ではな。)


「エレナ。」


 里緒菜に呼び止められる。


「里緒菜さん。自分は里緒菜さんに感化され、科学者になりました。ルナの全てにおいて論理的でなければならないというのは、少々極端ではあると思います。しかし、ルナ側の立場に立って考えると、ルナの気持ちも分からなくはありません。」

「しかし―。」

「正直に言いますと、自分は、このまま強引にルナとアイルを結婚させることに少々疑問を持ってました。理由として、今までは現実を見ていないと思っていたルナは、実は現実を見ていないと言うより、事実を受け止めようとして、それに対する疑問点や不安な点を探り、それらを解決しようとしているのではと思ったのです。そして、ウララちゃんの伝令で、それが確信になりました。故に、このまま強引にルナとアイルを結婚させるという事は、ルナにとっては目的も無く宇宙に放り出されるようなものです。ルナは「スペースシャトルで月に行く」と例えてますが、自分にしてみればそれ以上に深刻な、例えるなら「スペースシャトルで木星、或いは太陽、いや、ボイジャー宇宙船を追跡しに行く」と言う物にも見えます。」

「しかし、私達もルナの疑問点を解消する手立ては無いです。」

「だからと言って、それを色気で誤魔化すのは、人間として間違いです。分からないならば「私達も分かりません」と言う事実を言うべきです。自分は、ルナの疑問点にルナの視点から立って考えながら、ルナと共に解決策を探り、ルナの不安を少しずつ解消してやるべきと考えます。自分も、まだこの世界の事が分からないのですから。それでも強引にルナとアイルを結婚させると言うならば、自分はそのような結婚式に出たくないです。かなり前にこの世界に来た自分だって、未だこの世界の事で分からない事が多いのですから。」


 里緒菜の夫、横川エレナ。

 里緒菜と結婚した事で、苗字が軽井沢となったが、彼の正体は里緒菜とアイルと、白百合姉妹の他に知る者は無い。




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