第50話 東武ワールドスクウェアへの列車
日光市営バスは5分程遅れて、東武日光駅に到着した。
これは日光の神橋付近の渋滞による遅延だ。
(公道を走る以上、いろいろな交通事情もあるから、遅れるのは当然だ。ただ、カロリーゼロ理論のような自己中心的で自己完結的なクソ理論ブチかますだけのジジイやババアや、挙句の果てには市役所勤めの公務員が腐るほどいると聞く。公共交通の三猿。「案内を、見ザル、聞かザル、でも文句は言うサル」だな。)
ルナは自分で笑いながら、東武日光駅前の土産物屋の食堂で昼食にする。ここはアイルと出会った店でもあるが今日は何もない。
東武ワールドスクウェアには、東武日光駅からSL大樹ふたら72号で行く。
今日は滅多にない「SL大樹」と「SL大樹ふたら」が両方走るダイヤで、土日に東武日光で蒸気機関車を見られる珍しいダイヤだ。
改札を抜けると、既にSL大樹ふたら72号は入線していた。
今日は車検を終えたばかりのC11‐123と、JR北海道で寝台特急を牽引したDD51のカラーリングを身に纏うDE10‐1109のプッシュプルで、客車は青色と茶色の混結編成で、2号車が茶色の客車だ。
ルナは変わらず2号車の12系客車改造の展望車に乗る。
最初はDE10ディーゼル機関車の牽引で東武日光駅を出る。
顔見知りのSL観光アテンダントと少々お喋りしている間に、日光だいや川公園を通過し、下今市駅に到着。ここでかなりの観光客が乗車してきて車内は一気に賑やかになる。
わたらせ渓谷鐡道のトロッコわっしー号の乗車率は多く見積もって60%程度だったのに対し、こちらは85%~90%なのは、圧倒的なアクセスの良さと、圧倒的な東武の資本力を用いた宣伝効果や観光開発の結果だろう。
(結局、世の中は金だよ金!)
鼻で笑いながら、展望デッキに行くとSL観光アテンダントとぶつかってしまった。相手は、持田というアテンダントだ。
「あっごめんなさい。」
ルナの方から謝るが、(おやっ?)とルナは首を傾げた。
SL観光アテンダントの制服がヴェージュを基調としたものから、和服姿に変わったように見えたのだ。
「あら?今日は遊び?」
持田に言われる。
「ええ。ワールドスクウェアでプラレール運転会です。」
「あぁ、東武博物館でやってたやつね。」
そんな話をするが、やはりSL観光アテンダントの制服は変わってしまったようだ。なので、それを言うと「あら?ずっとこれだよ?」と、持田は首を傾げた。
C11‐123号機が汽笛を鳴らして下今市駅を出る。
スイッチバックをする形で鬼怒川温泉に向かう。
展望デッキは混雑していたので、自分の席に座り窓を開ける。が、今日の123号機のナンバープレートが緑色だった事を思い出した。緑色のナンバープレートを付けている蒸気機関車は、燃料にバイオコークスを使用している。バイオコークスはあまり煙が出ない割に、煤が多く飛んでくる。なので、あまり窓に顔を近づけないようにしたのだが、煤の一つがルナの目に飛び込んで来た。
「ちっ。」
ルナは舌打ちしながら目を擦る。
「ダメですよ。トイレの洗面台に行きましょう?」
目を開くとそこに、紅い着物を身に纏うアイルの姿があった。
「-。」
周辺を見回す。車内はSL大樹のままだが、車窓はアイルの世界になっている。
(無駄な事をしたな。)
ルナは思う。
「ワールドスクウェアのプラレール運転会ですってね。仕事の時は、私は干渉しないようにしましたが、今回はご一緒させてくださいな。あぁ、幹部の方にも許可取っておりますので。」
「はっ?」
ルナは慌てて、プラレール運転会のメンバーのグループLINEを通じて、プラレール運転会の幹事に連絡を入れる。
「ルナの彼女さんだろう?関係者の知り合いなら、設営からの見学大歓迎さ。」
と言う内容。
「俺、聞いてないぞ。」
「言わないでと言われたので。」
(クソ。あいつら事情を知らねえからな。)
ルナは舌打ちした。
「ルナは私の家で宿泊とも伝えております。」
(どうせ、俺が取った宿は勝手にキャンセルされているだろう。)
案の定だ。
下今市駅から歩いて5分程。日光例幣使街道と日光街道が合流する交差点にあるホテルを確保したのだが、見事にキャンセルしたことになっていた。
「駅前の飲み屋でバカ騒ぎすると思いますが―。」
「構いません。むしろ、そこは付き合わせてくださいな。」
「オタクの話に付いて行けなくて、ゲロ吐いても責任取りませんからね。」
大きく溜め息を吐いたルナを尻目に、SL大樹ふたら72号は、鬼怒川橋梁を渡って新高徳駅を通過。
ルナは車内販売でバニラ味の黒いアイスを買い食いする。
「珍しいですね。」
「頭使うので例の運転会は。」
ルナはアイルの頭を指でコツンと叩く。
「今のは、私の頭の中が空っぽという事ですか?」
「空っぽだったらもっといい音がしますよ痛ってぇ。」
自分でやっておいて、アイルの頭が意外な程に石頭で指を痛めた。
アイスを食べ終えると、東武ワールドスクウェアまでの短い時間、車窓を楽しむことも無く、事前に送られて来た資料を見返し、東武ワールドスクウェア駅にアイルと二人並んで下車した。




