第49話 わたらせ渓谷鐡道より日足トンネル
赤城駅の改札口を出ると、駅前広場からは赤城山が見えるが、堪能することも無くタクシーに飛び乗り、ワンメーターの距離にある、わたらせ渓谷鐡道の大間々駅まで行き、大間々駅の改札を抜けるとWKT‐550型気動車の2連という短い列車がやって来た。
土日を中心に運行されるトロッコ列車「トロッコわっしー1号」に乗車する。
大間々駅の側線には、12系客車と京王5000系電車を改造したトロッコ客車と銅色のDE10ディーゼル機関車の姿もある。わたらせ渓谷鐡道では機関車が牽引するスタイルのトロッコ列車も以前から走っているが、わたらせ渓谷鐡道の始発駅の桐生駅と終点の間藤駅には機回し線が無く、機関車の付け替え作業が出来ないため、側線が多数ある大間々駅から足尾駅までの区間でしか走れないため、JR線やルナのように東武線でやって来た観光客は乗車に難儀する。
それを解消するために登場したのが、このWKT‐550型気動車を使用したトロッコ列車「わっしー号」で、気動車のため機関車の付け替え作業が不要になり、桐生から間藤までの全区間を走れるようになったのだ。
トロッコわっしー号に揺られて、渡良瀬川の景色を眺めるが、時折、車の流れの多い道路も見える。東京から蓮田や羽生を通り日光へ至る国道122号線。通称銅街道だ。
水沼駅に停車。
ここには駅に温泉があるのだが、東武ワールドスクウェア程では無いが、明らかに足元を見ているような料金設定でルナは敬遠する。以前の料金を知る地元住民はまったく寄り付かないらしい。
(駅に温泉があるのは珍しいけど、2000円近い料金はさすがに取り過ぎだ。東武ワールドスクウェアの料金は分かるけどさ。)
ルナは横目で見ながら思う。
観光列車であるだけあって、トロッコわっしー号の車内は観光客の姿がまばらにあるが、まだ10時前で、水沼駅に降りて風呂に入る乗客の姿など無かった。
外国人がコウベと間違えたという逸話のある駅、神戸駅に停車。駅では、近くの草木ダムのダム湖畔にある草木ドライブインで製造販売している「よもぎ饅頭」を売っていたので、停車時間を利用してバラ売りしていた物を1つ買い、神戸駅の先にあるトンネルの中で温かいお茶を飲みながら食べる。変に拘った饅頭でもなく、かといって特徴も無いように思えたが、生地によもぎが使われているだけあって、何となく葉の苦みを感じる。
(これはお茶が合うな。)とルナは思いながら、お茶を飲むと列車はトンネルを抜けて沢入駅を過ぎ、栃木県に入った。
足尾の町に入ると景色が一転し、禿山になってしまった山や工場の廃墟が増えた。ここはかつての足尾銅山。
わたらせ渓谷鐡道は元々、国鉄足尾線で足尾銅山から出る銅を輸送するために敷設されたが、足尾銅山の閉山後は人と貨物が激減し、今は、貨物輸送は行っておらず、僅かな観光輸送と僅かな沿線住民の足として運行しているが、今にも廃線になりそうな状態だ。
足尾銅山観光の起点、通洞駅でまばらな観光客の大半が下車し、終点、間藤で降りたのはルナ一人だ。
「余程のバカでなければ、こんなクソみてえな大回りルートで日光に行こうなんて思わねえよ。」
ルナは吐き捨てるように言いながら、やって来た日光行きの日光市営バスに乗るが、その車内もまるで旅客の姿はない。
沿線を見ても、住宅があるように見えたが、廃墟だったり、空っぽの公営住宅だったり、そもそも、歩いている人の姿も無い。
日光と足尾の間に立ちはだかる細尾峠を越える日足トンネルに入る辺りに来ると、住宅も何もない。
(酷ぇな。まぁ、それもそうだ。観光客であれ、僅かな住民であれ、車があったら、みんな車で行くよこんなルートは。何も好き好んでこんな本数も無く、今回の「わっしー号」は偶然にもうまく接続出来たが、その他は接続時間もバラバラで、おまけに時間のかかる交通機関なんか利用しないよ。)
アイルの世界を避けようとして通った、大回りのルートは、アイルやアイルの世界の干渉は避けられたのだが、同時に、ルナに現代の地方交通の現状を見せ付けたのだった。




