第4話 彼女の名前
「紅い着物がお似合いですね。」
彼女に声をかけると、彼女は「紅い着物はお母様の趣味」と微笑んだ。
透けるような乳白色の肌。
黒髪を肩まで伸ばしたセミロングヘア。
蜘蛛の糸のような細い目だが、柔らかい表情を浮かべる容姿は、日本人形のようだ。
容姿端麗とはこのことだろう。
だが、ルナにそのような異性の知り合いなど居ない。
「ルナも、作務衣姿がお似合いですよ。」
(えっ?)
ルナは着ている服が、紺色の作務衣になっているのに気付いた。
(やはり、何かおかしいが、状況が掴めない。頼むから、状況が分かるまで分け分からない事起きないでくれよ。)
カメラバックからスマホを引っ張り出すと、見覚えのない連絡先が入っていた。名前は軽井沢愛瑠。アイルというのだろうか?
「軽井沢、さん?」
「アイルでいいのに。」
彼女はアイルと言う名前らしい。
「あっあぁ、行きたい温泉ね。えっとね、私が働いている温泉宿。私の婚約者って事で、話付けてあるから、日帰り貸切風呂を手配してあるから。」
確かに今回の鬼怒川温泉行きに当たり、自分で日帰り入浴が出来る宿は調べたのだが、言われたのは大戸旅館と言う、自分で調べたのとは違う旅館だ。
「どんなところか気になるでしょうけど、行ってみてのお楽しみ。私が生まれたのも、大戸旅館に所縁があるのよ。」
アイルは言う。
列車は下今市駅に停車するのだが、下今市駅も違う。
下今市駅は確かに、SL大樹運行開始に合わせ、昭和レトロな内装になった上、SL大樹で使用する機関車の整備と、客車及び列車を留置する機関区と側線があるのだが、側線の本数が多く、機関区の扇形庫も3線ではなく9線あるかなり大掛かりな物になっており、機関区に居るのはC11だけでは無く、B1型やD1型といった、現代では走っていない蒸気機関車も居た。
そして、東武日光駅から下今市駅まで来たこの列車はここで機関車を付け替えるとか言っている上、最後尾のC11が離れると、側線から別の客車を1両持って来て、それを列車の最後尾に連結する。
「はっ?」
ルナはその客車を見た。
それは、展望客車だったのだ。
「結納の後は、あれに乗りましょう。」
アイルと言う女の子が言った。




