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第41話 ルナの家

 ルナの家は、上野駅に近く、岩倉高校の隣と言ってもいいような位置にある安アパートだ。

 間取りは1LDK。

 元々、岩倉高校等の学生向けのアパートで、家賃も安い。


 岩倉高校と言えば、昭和鉄道高校と並んで有名な鉄道学校で、鉄道マニアでもあるルナは当初、岩倉高校に入ろうとしたのだが、天文学への興味もあったため、当時の中学の担任から「鉄道に特化し過ぎるより、天文の分野に視野を広げろ」と言われ、悩んだ末に天文も学べるとして、浅草に近い高校に入った。その選択は、当初は正しい物であり、東京天文大学の教授と出会って、将来的にはJAXAや宇宙関連企業を経て、宇宙飛行士や天文学者となる事を志した。だが、経済的事情と奨学金制度の改変、更に特待生制度の廃止という、ルナの手ではどうすることも出来ない事態により、その夢が潰えて皮肉にも鉄道関連企業に入る事になったならば、岩倉高校に入った方が良かったとルナは後悔している。


「でも、当時はそれが一番の選択だったのよ。特待生や奨学金は―。残念だったけど―。」


 アイルは励ますように微笑んだ。

 上野駅構内のスーパーマーケットで夕食の買い物をし、アパートに入る。3階の部屋の窓からは、上野駅の地平ホームから出て来る線路や、待避線に停泊している特急車両が見える。

 窓を開けると、上野駅を発着する列車の音が部屋に入って来る。


「日光から湯波も持ってきておりますし、夕食は湯波を使うとしましょう。」


 アイルは言うが、まだ夕食には早い時間だ。

 最も、ルナの夕食はレトルトの丼ものか、カップ麺で済ませる。

 自炊する事もあるにはあるが、バイトが遅くまでかかると、自炊する時間も無いので、レトルト食品やカップ麺、運が良い時にはスーパーで閉店値引きの総菜や弁当にありつけると言う具合だ。

 コップに水道水を入れて、肴にと安物のスナック菓子を並べていると、ルナのスマホに着信。見ると、公衆電話からだった。


「ああ、ルナ。」

「里緒菜さん?」


 相手は里緒菜だった。


「筑波山観測所の霧積博士と私の旦那が、ルナが観測したというオーロラ爆発の記録を見たいって。」

「ああ―。しかし、明日は月曜日ですので学校があります。今、アイルさんと一緒に家におります。家に、記録はありますので、印刷してアイルさんに持たせると言う形でもよろしいでしょうか?」


 ルナの家には一応A4までは印刷できるプリンターと、ノートパソコンはある。USBメモリーではなく、印刷という形を取ったのは、アイルの世界にUSBやSDカードと言った記録媒体で持って行ったところで、それからデータを出力する事が出来ないと考えたからだ。

 また、フロッピーディスクはルナの持っているパソコンで入力することは出来ない。最も、今はフロッピーディスクなど、秋葉原の裏通りに行っても入手は困難だろう。


「では、よろしくお願いします。」


 里緒菜が言って、ルナは電話が切れると、7月20日の太陽フレア及び、7月23日のオーロラ爆発の記録をまとめたレポートを印刷する。

 プリンターの音が無ければ、無機質な都会の喧騒の他は何も聞こえない殺風景な部屋。しかし、そこに、アイルという異質な存在がある。

 ルナはそれが、気味が悪くも思え、同時に、新鮮に感じていた。



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