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第40話 ブルートレインの時代

 ルナはあまり東京駅に来る用事は無いが、それでも東京駅の大まかな構造ぐらいは理解している。最も、東京駅にしろ、上野駅にしろ、最近はモダンな駅に改修されたのは良いが、サクラダファミリアの如く毎日のようにどこかで工事をしており、毎日のように駅の構造は変わるのだが。


 だが、山手線ホームから東海道本線のホームに向かうと、東北新幹線のホームが見当たらない。

 駅の周辺を見ても、新丸ビルや大手門タワー、大手町パークビルディングと言った高層ビルが見当たらない。

 時刻は16時。

 10番線には旅行鞄を持った旅行者や、新婚カップルのような旅客が多い。

 ATOSの自動放送が流れ、普通列車が来る。そう思った。


「まもなく10番線に―。」


 そこまでは変わらないのだが、それに続いた単語は、ルナにとって信じられない物だった。

 いや、東京駅に来れば確かにまだ聞くことは出来る単語ではあるのだが、16時過ぎに聞くものではない。

 だが、品川方向からやって来たのはEF65‐1000が牽引する14系寝台客車を連ねた長い列車。ブルートレインである。


「寝台特急「さくら」。いわゆる1列車、そして、出雲大社へ行く「出雲」やお伊勢参りの「紀伊」は、新婚さんに人気ですね。私達も、新婚旅行には、ブルートレインに乗りたいですね。」


 アイルは微笑む。が、そんなことはどうでも良い。

 目の前に居る寝台特急「さくら」の姿に目を奪われつつ、アイルの存在によるタイムスリップが、日光鬼怒川地区だけでなく、東京都内でも発生している事に恐怖を覚えていた。

 そうこうしているうちにまた、「まもなく9番線に、寝台特急「はやぶさ」西鹿児島行きがまいります。」と、ATOSの自動放送が流れ、品川方向からEF65‐1000に牽引され、24系客車を連ねたブルートレインがやって来た。


(「さくら」だけではない。「はやぶさ」も―。)


 16時30分、寝台特急「さくら」が東京駅を出て行くと、続け様に10番線に寝台特急「みずほ」が入線して来た。

 次から次へ、東京駅を発車して行く、東海道ブルートレイン。

 これは、ブルートレイン全盛期の時代の風景である。

 夢中で撮影してしまったルナ。なにしろ、このような世界は、資料の中でしか見た事のないものなのだ。


「お母様は新婚旅行に「つばめ」号の一等展望車に乗りました。ええ、私も一緒に。大阪で上方見物をして、京都を見て回り、帰りは寝台急行「銀河」でした。今でこそ、鶯色の「青大将」の列車になってしまい、全区間で電気機関車が牽引しておりますが、当時の「つばめ」は未だ、名古屋から大阪まで蒸気機関車が牽引しておりました。」


「はやぶさ」を見送りながら、アイルが言う。


「そうですか。自分は―。」


 何と答えるか迷う。

 下手に答えると、アイルが勘違いして何をするか分からないと思ったからだ。


「自分は、「北斗星」か「カシオペア」で北海道、或いは、「サンライズ出雲」で出雲大社に行きたいですね。」


 と、答える。寝台特急「北斗星」は2015年に廃止、「カシオペア」は2025年に廃車となっており、そんな物は存在しない。

「北斗星」と「カシオペア」は、牽引用にEF510電気機関車をわざわざ新製し、従来型の三電源式交直両用電気機関車EF81を置き換えたので、安泰と思われたのだが、その僅か数年後に列車自体が廃止され、EF510は皆、JR貨物へ売却されてしまったため、何のために機関車を新製したのか分からない。


 そして、EF81に牽引される形になって、団体用で残っていた「カシオペア」も廃車となってしまったため、EF81も2025年11月末に引退が決まっている。


「うーん。「北斗星」とか、「カシオペア」という列車は聞いたこと無いですが、雪の北海道を旅するのも良いですね。「ゆうづる」で青森へ行き、青函連絡船で北へ渡り、「北斗」や「おおとり」、或いは急行「ニセコ」で札幌や小樽へ行くのも良いですね。急行「ニセコ」は蒸気機関車が牽引しておりますね。それも、お父様とお母様が乗った、「つばめ」号の先頭に立っていたC62 蒸気機関車です。電気機関車やディーゼル機関車も良いですが、私は蒸気機関車が好きです。」


(愚問だった。)


 と、ルナは思う。


「北斗星」の客車は「ゆうづる」の客車を改造した物で、「ゆうづる」と「北斗星」が同じ時代に存在することは有り得ないが、アイルという異端の存在があるならば、「北斗星」と「ゆうづる」が同時に存在するのではないかと思ったのだ。


(まぁ、アイルさんの居る世界は、意味が分からないよ。でも、楽しいけど。)


 ルナは少し微笑んだ。


「なんですか?」

「いえ。アイルさんがいると面白いなと思いまして。」


 アイルはニヤリと笑った。


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