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第36話 帰宅・再訪問

 目を覚ますと、特急「スペーシアX10号」は北千住駅を発車したところだ。

 並走するJR常磐線の線路を、E531系の普通列車が走っていた。

 E531系が居るという事は、もうアイルの居る世界からルナの現実世界へ戻って来たのだろう。

 北千住駅を出て直ぐに踏切を通過。北千住駅前にある日本交通グループの、すばる交通北千住営業所のタクシーが踏切待ちをしている。車種はTOYOTAジャパンタクシー。

 堀切で首都高6号向島線を潜った。

 車窓は夜の帳が降りて来ている。


(アイルさん、人形のように可愛らしい方だった。だけど、出会いから今までが―。それが無ければ、お付き合いしたいとまではならずとも、仲良くなりたいとは思える。)


 ルナはそんなことを思った。

 東向島駅を通過し、隅田川を渡る。

 東京スカイツリーを見上げると、月が見えるのに、どういうわけか上の方が霞んで見えていた。


 浅草駅に着くと、地下鉄に乗り換えて自宅に帰る。

 そして翌日の日曜日、午前中の単発バイトを終えると、その足で東向島の東武博物館へ向かい、見て来たものと資料を見比べてみる。


 特に、「スペーシアX10号」として現れた車両は外観しか見ていなかったため、そのあたりを詳しく見るとともに、歴代の特急車両の資料を見て、今後、アイルが現れた時、どの列車に使用される車両が何になるかを予測しつつ、何かの法則が無いかを探る事で、アイルの居る世界を知ろうというのだ。


 東武博物館に行くと、ちょうど、東武日光線を走った歴代の特急列車の企画展示を行っており、今、ルナが知りたい歴代特急車両の資料をより詳しく見られそうだ。


(アイルさんの世界では、100系スペーシアが1720型デラックスロマンスカーに化け、リバティーは5700系ネコひげに化け、そして、スペーシアXがデハ10系に化けた。JR線直通の253系は乗らないけどもし化けて現れるとしたら―。)


 企画展の資料を見ながら思う。


(253系は1700系―。)


 と、ルナが思った時、見たことも無い車両の資料にぶつかった。


 それは、客車だった。

 展望車だ。

 それも、SL大樹に連結されている12系客車を改造した物でもない。

 戦前から戦後。東海道新幹線が出来る前の時代。 

 東海道本線が特急街道であった時に活躍した超特急「つばめ」に連結されていたような展望車だ。


 SL大樹の展望車は、客車編成の中間車両として連結されているが、この資料にある展望車は超特急「つばめ」や特急「富士」のように、列車の最後尾に連結されて運用されている物で、列車の後方へ流れて行く景色を眺められる構造になっている他、車内は定員8名のオープンデッキの展望室兼食堂に加え、定員8人の随員室、料理室、ボーイ室を備えた、最大20人乗りという豪華車両だ。


「気になるかい?」


 と、学芸員に声をかけられた。

 振り返ると、先日、アイルの居る世界の写真を見せた学芸員が居た。


「ええ。この客車?について―。」




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