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第33話 不動産屋

 東武日光駅近くのユースホステルに入る前に、夕食を食べようと考えた。

 だが、駅前の土産物屋の食堂は既に閉まっていた。

 駅から少しばかり歩けば、ファミリーレストランもあるが、24時間営業ではなく、今から行っても閉店時間を過ぎてしまう。

 仕方なしに、コンビニに行くも、コンビニ弁当は殆ど売り切れており、パンとお茶だけ買い込んでユースホステルに向かった。


(このタイミングで、現れて欲しい。)


 ルナはアイルを思う。


 だが、アイルが現れる事も無く、街並みも変わることなく、ユースホステルに入り、割安な料金を払って、寝床に入る前にコンビニで買ったパンとお茶を腹に入れ、シャワーだけ浴びて、寝床に入ろうとしたが、夜半過ぎてもインバウンド客がバカ騒ぎしており、まるで眠れたものでは無かった。


 結局、寝不足のまま、翌朝を迎えると、20040系の普通列車で下今市駅に向かい、駅近くの不動産屋に行く。


 いきなり日光鬼怒川地区へ飛び出したが、ただ闇雲に飛び出しても無駄足になりかねないので、就職が決まったこの地域で住むアパートやマンションの内覧と見積もりも一緒に出してもらうのだ。

 下今市駅近くや鬼怒川温泉近くのアパートやマンションを見、そして、見積もりを出して貰う。3件程、これはと言う物があった。


(勤務地は下今市駅だしな。鬼怒川温泉にする必要はないな。車持ってないし。免許も無いし。)


 と、ルナは思う。


 不動産見物をしている間に、昼を過ぎてしまった。


 SL大樹5号を牽引する蒸気機関車C11‐325号機が、下今市機関区から出庫して行くのを横目に、踏切を渡ってバイパス道路に出るとファストフード店に入り、昼食にする。

 500円のハンバーガーとポテトと飲み物のセットを頼む。

 何の素っ気も無い素のハンバーガーでは、力が出ないかもしれないが、かといって、日光名物などこちらに就職すれば飽きるまで食べることが出来るだろう。最も、日光の人は湯波しか食べないと考えている人などいないだろうが。


 踏切に戻って来た時、下今市駅を覗くと、アイルの居る世界では無く、現実世界の下今市駅だった。

 ルナは一瞬、鬼怒川温泉に行くのをためらったが、身体は自然と、鬼怒川温泉へ向かう普通列車に向かっていた。



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