第28話 太陽フレア観測記録
月詠ルナは高校の昼休みに、夏休み中に太陽観測を手伝った教授の元へ向かった。
糸川教授は、普段は東京天文大学で、天文学を教えている大学教授だが、ルナの高校にも講師としてやって来る事があり、天文部の顧問でもある。
ルナも一応は天文部員であるのだが、バイトのせいでほとんど部活に顔を出せない幽霊部員だ。幽霊部員でもいいから所属しろとルナに言ったのは教授の方で、教授は大学入試で推薦入試やAO入試を受ける足しにと考えたのだが、東京天文大学への入試は出来ても学費を捻出出来ず、給付型奨学金の条件を満たす成績を収め、給付型奨学金を受けるための学力試験にも合格していたにもかかわらず、突如として給付型奨学金は全て外国人留学生向けのみになってしまった事で、給付型を受けることが出来なくなってしまったため、やむを得ず、受験を諦めたのだ。
貸付型奨学金もあるにはあったが、将来的な返済のこともあり、ルナは貸付型を嫌がってしまった。最も、貸付型奨学金も給付型奨学金と同じく、外国人留学生を優先的に対応した物になってしまったため、仮にルナが、貸付型でも良いと言っても無駄だったが。
「どうして日本の学生では無く、外国人学生ばかり優遇するのだろうか。そのためにルナの芽が摘まれてしまった。」
と、糸川教授はルナの決断を聞いた時、肩を落としていた。
ルナは夏休みに教授と観測した太陽フレアのデータを求める。
「7月20日の17時の太陽フレアだと?」
7月20日。夏休みが始まったばかりだったが、ルナは学校に来て、糸川教授を手伝っていた。
そして、17時ちょうど。
糸川教授が目を離し、ルナが太陽望遠鏡を覗いた時、突如、太陽が増光した。
太陽表面付近に存在する磁場によって引き起こされる爆発的な増光現象。いわゆる、太陽フレアだったのだ。
それも、地球方向へ向かって、かなり大規模な物が起こったので、教授は直ちに宇宙天気予報へ情報提供。フレア観測から8分。電磁波(X線)が地球に到達。一部の通信機器や電子機器の運用障害が発生。20分後に高エネルギー粒子が地球に到達。
そして、3日後。
ルナは糸川教授と共に、埼玉県ときがわ町の堂平山天文台へ登ったところ、関東地方上空に赤色の帯のような物が光っているのを観測。
いわゆる、低緯度オーロラだ。
そして、またしても糸川教授が目を離したその隙に、低緯度オーロラは瞬間的に増光し、赤色のオーロラが一挙にエメラルドグリーンの灯りになり、ルナを包み込むように空から降りて来るように見え、ルナはそれを撮影に成功。日本でオーロラ爆発を撮影した前例のない事例となって、世界の天文学会を驚かせた。
これが決め手となって、給付型奨学金を受けられるはずだったのだが、学会に提出した直後に、制度が突如変わってしまった。失望したルナは、就職活動を開始した結果、どういうわけか、とんとん拍子に話が進んで、東武鉄道関連企業でSL大樹に関連する仕事をすることになったのだ。
ルナは観測記録を元に、あの日、9月11日のSL旅で起こった不可解な事、そして、里緒菜の出現や先日の旅の事について、関連が無いかを調べるのだ。
だが、調べ始めて10分もしないで「何を考えているのだ」と溜め息を吐いた。
もし太陽フレアによる磁気嵐によって、どこか別の世界か、或いは脳波に混乱が起こって、ありもしない世界を認識してしまっているのなら、それはルナだけではなく、世界各国でそのような事が起こっていなければならない。なぜなら、太陽フレアの影響は、観測していた本人だけではなく、地球全体に及ぶからだ。
また、仮に太陽フレアによる磁気嵐に、9月11日に乗っていた「スペーシアX5号」が巻き込まれて次元転移したとしても、ルナだけが次元転移したのではなく、列車丸ごと転移するだろうし、そんなことになったなら、踏切事故に遭う事は無い。
(しかし。だとしたらなぜ、俺は踏切事故を認識せず、更に、事故に遭った列車に乗っていたにも関わらず、予定通りの旅をしていたのか?そして、アイルという紅い着物の女の子に会ったのか?)
と、ルナはまたも同じ問題の出発点に戻ってしまうのだった。




