第26話 帰りの列車
1720系デラックスロマンスカーを何故か使用している特急「きぬ156号」は、快調に走っている。
デラックスロマンスカーの座席は普通車でありながら、国鉄のグリーン車と同等の三段ロック式リクライニングシートとフットレストを装備。ボックスシートにして使用してもテーブルが使用可能なように、窓側に折りたたみ式テーブル。貫通路には、日本の鉄道車両としては初めての自動ドアを導入している。
全7両編成の2号車と5号車にはビュッフェ、4号車にはサロンルームが設置され、かなり豪華な仕様である。
「国鉄との羅権争いがあって、こんな豪華列車に安く乗れる。」
と、里緒菜が言う。
里緒菜の言う通りだ。
東武の特急列車の大半が、豪華設備の割に格安で利用できるのは、かつて、国鉄と東武が日光鬼怒川地区の観光開発の羅権争いをして、乗客の取り合い合戦をしており、私鉄の東武は税金を湯水の如く投入する国鉄に対抗するため、豪華設備を低料金で、更に、宇都宮駅でのスイッチバックを経由しなければ日光に行けない国鉄路線に対して、直接日光に行けるという地の利を生かして、スピードでも対抗し、結果、東武がこの争いに勝利したのだ。
「それが今や、JRと相互直通運転。スペーシアや元成田エクスプレスの253系が―。先日は上野駅からスペーシアが―。」
ルナは言うが、里緒菜と鉾根は首を傾げた。
どうやら、彼女達の世界にはJR新宿発のスペーシアや、253系のJR相互直通列車と言う物はないらしい。
「成田エクスプレスとは?」と、鉾根が言ったり、「成田空港とは計画中の新東京国際空港ですね。」と、里緒菜が言ったりする辺り、JRの特急「成田エクスプレス」や成田空港も無いらしい。
(時代感は成田空港闘争の頃か?)
ルナは思う。
里緒菜は下今市駅前の居酒屋でまた酔っぱらっていたが、変な甘え癖を出すことも無く、真面目な顔のまま。
「でもね。里緒菜がお酒を控える事なんて無いのよ。」
鉾根は苦笑い。
「えへぇーっ」急に里緒菜が砕けるのを横目に、ルナは急激な睡魔に襲われ始めた。
「あら?眠いのですか?」
里緒菜が覗き込む。
「寝てて構いませんよ。可愛らしい寝顔を見せてくださいな。」
里緒菜は言いながら、ルナの瞼を閉じてしまった。




