第24話 夕食会
列車は下今市駅に到着した。
下今市駅の構内は、先日、アイルに連れ回された時と同じく、側線の本数が多く、機関区の扇形庫も3線ではなく9線あるかなり大掛かりな物になっており、機関区に居るのはC11だけでは無く、B1型やD1型といった、現代では走っていない蒸気機関車の姿もあった。
この列車は、ここから先、栃木まで行く「ハイカラ急行」となるらしいが、その真相を見る事は出来ず、アイル達に連れられて、ルナは下今市駅の改札を抜けると、下今市駅近くの居酒屋に連れ込まれる。
向かっている「婦美のや」と言う居酒屋は、ルナのいる世界にあったか分からないので、帰りの道すがら、確認してみる事にして、駅から居酒屋までの道と、居酒屋と駅の位置関係、街並みを確認する。
「アイルさん、里緒菜さん!お待ちしておりました!あら?今日は鉾根さんも一緒ですね!」
女将とアイル達は顔馴染みらしい。
そして、女将に「私の婚約者さんです。」と、アイルはルナを紹介する。
「まぁ!お月様の名前を冠した素敵な方ですね!」
等と会話しているが、ルナは「知るかボケ!」と思う。
宴会セットが用意され、酒や飲み物が運ばれてくると「では乾杯!」と、里緒菜が乾杯の音頭を取る。ルナは引っ込みながらそれに参戦する。
肉鍋が運ばれてきて、鍋を突き、「これはアイルちゃんの婚約祝い」と鮪の刺身が運ばれてくる。
(いっぱい食べられていいのだけど―。)
ルナは思う。
「婚礼の日取りですが、ルナが高校を卒業してすぐにしたいです。本当は、今すぐにでもしたいのですが―。」
アイルはナイフのように冷たく細い唇に指をあてながら言う。
「それもさることながら、自分はSL大樹関連の仕事ですが、研修期間中は南栗橋車両管区の東武鉄道能力開発センターの寮生活になるかと思われます。また、近いうちに入社前説明会及び、入社前研修がありますので、その際、詳しい日取りが分かりますので、それを待ってからにしてください。それから、この辺りで住むアパート等の確保もしなければなりません。」
ルナは冷静に言う。
「では、それらが分かりましたら、連絡してくださいな。ああ、住む場所は私の家にしませんか?私は下今市駅近くに住んでおります故、ルナの通勤にはなんら支障は無いかと思いますよ。」
アイルは細い目をルナに向け、微笑むが、まるで獲物を捕捉した肉食動物のような目つきだった。
「アイル。あまりがっついては、逃げられてしまいますよ。」
里緒菜が言うが「里緒菜もエレナをどうした?」と、鉾根に突っ込まれる。
ルナは夕食会の他愛ない会話から、この世界。つまり、アイルが居る世界と自分の居る世界の繋がりを探ろうとしたのだが、結局は分からなかった。
そこで、ルナが注文したコーラを持ってきた女将に、
「9月11日に何か変わった事はありませんでしたか?」
と、聞いてみる。
9月11日。つまり、ルナが認識している、アイルと出会った日であり、日光鬼怒川地区へ向かっている際に乗っていた「スペーシアX5号」が踏切事故に遭遇した日の事だ。
「そうねぇ。」
女将は考えるが、
「何も無かったわ。」
と、答えた。
「本当に何も無かったのですか?例えば、列車が―。「スペーシアX」が事故を起こしたとか、列車のダイヤが大幅に乱れたとか―。」
「何もなく、いつもの日常でしたわよ。」
女将は(何を聞いているのだろう?)と首を傾げる。
「何もなかったではないですか?」
横からアイルに、耳元で言われて「ギャッ!」と悲鳴を上げる。
「ふふっ。エレナにそっくり。」
それを見た里緒菜は微笑んだ。
(この世界では、事故は起こっていない?持田さんは嘘を言った?そんなばかな。で、あるならば―。)
ルナは自分のスマホで「スペーシアX5号」が9月11日に事故に遭遇したかどうかを調べるという事を失念していた。
事故が起きたか起きていないかなど、調べればすぐに出て来る事だが、どこか怖かったのだ。
調べてみると、直ぐに「東武特急「スペーシアX」が脱線!」という大きな見出しのニュースに出くわした。
―2025年9月11日。東武日光線明神―下今市間の遮断機の下りた踏切に軽トラックが冒進、突入し、走行中の特急「スペーシアX5号」に衝突。軽トラックは大破しドライバーは重症だが、命に別状無し。衝突された「スペーシアX5号」は、3号車と4号車が脱線し、4号車が架線柱に衝突。4号車の乗客20人が重軽傷。重軽症者は直ちに病院へ搬送された他、乗客は明神駅まで徒歩避難の後、バスで下今市駅へ向かった。東武日光線はこの事故の影響で終日運転見合わせとなった。軽トラックの運転手の呼気からは基準値を大幅に上回るアルコールが検出され、警察は飲酒運転の疑いもあると見て、運転手を逮捕し捜査している。尚、「スペーシアX5号」の4号車の乗客1名の死亡が確認されるも、事故との関連は不明―




