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第22話 鬼怒川温泉駅からの打電

 駅の切符売り場には自動券売機が並んでいる。それが当たり前のはずだった。

 だが、横目で切符売り場を見ると、自動券売機など無い。

 全て、有人の出札窓口だった。

 そして、その一つに並んで切符の変更を申し込む。


「下今市から最終の浅草行きの特急券を―。」


 窓口で言っていると横から、


「3人分で、2人は栃木までです。」


 と、里緒菜が財布を出しながら言う。


「いや、切符代は―。」

「いいのですよ。」


 里緒菜は微笑んだ。

 渡された紙の切符には、最終の浅草行き特急「きぬ156号」と書かれていた。

 特急「きぬ」は、従来型の100系スペーシアが使用されている。


(またもダウングレードじゃねえか。しかも、今回はスペーシアXから、従来型のスペーシアって、車両までダウングレードだぞ。)


 ルナは不満に思うが、いずれ従来型の100系スペーシアは引退すると思われるので、1回多く乗れたと思う事にした。


「下今市駅のお店の時間までまだ時間がありますので、駅前の喫茶店でコーヒーでもどうですか?」


 アイルは言う。


(あまり、駅直結の東武資本が入ったカフェは好きではないが、晩飯奢って貰えるしそれに―。カフェを見る事で、今、鬼怒川温泉駅周りがどうなっているか見られるだろう。)


 ルナは頷いた。


「では、行きましょう。」


 だが、アイルに手を引かれて駅の外へ連れて行かれる。

 駅舎を出た時、ルナは振り返って駅を見るが、そこに東武資本の入った駅直結のカフェなど無く、あるのは古ぼけた駅舎だった。

 駅前広場の外れに転車台広場はあったが、寂れ帰っている。

 足湯に入っている観光客の姿もあったが、皆和服姿。

 ルナも、着ている衣服が和服になっていた。

 だが、スマホやデジタル一眼レフカメラはそのままだ。

 振り向きざまに、一枚、スマホで駅舎の写真を撮って、プラレール運転会のグルプLINEに送信した。


(どう見えているかによるが―。これが過去の鬼怒川温泉駅の写真として皆に見られているならば、問題は無い。俺が見ているのは現実。だが、今の駅舎の写真にしか見えないなら、俺が見ているのは幻か、或いは、変な世界に迷い込んでいるとなる。)


 カフェでお茶を飲むが、ルナはコーヒーでは無く紅茶を嗜む。


「里緒菜と、里緒菜の旦那と同じね。」


 里緒菜と一緒に来た女性が言う。名前は鉾根ホコネと言い、妹にウララがいるらしい。


「ホコネさんは、お母様と一緒に栃木の大問屋を営んでいるの。元は庄屋で、お母様は経理と副社長をしながら、天文台で天文観測をしているの。」


 アイルはコーヒーカップを口に運びながら言った。


「好きな茶葉は何?私は、アールグレイが好き。」


 里緒菜。ルナはシュガーキャンディーを一つ紅茶の中に落として紅茶を口に運ぶ。

 

「茶葉の好みは無いです。」

「あらま。それじゃ、紅茶好きと言いきれないよ。」


(うるさい。)と、ルナは思う。



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