第17話 踏切事故
「おはようございます。」
ルナはSL展示館の観光アテンダントに挨拶する。
今日、常駐しているのは持田というSL観光アテンダントで、ルナの事を最初に覚えて貰った。
「あぁっ。いつもありがとう。」
そんな、他愛のない会話だが、その中で9月11日にルナがSL大樹ふたら72号に乗った話をして、あの日、何か変な事が起きていないかを聞いてみる。
「あぁ、あの日ねぇ。」
持田は言う。
「スペーシアが事故って大変だったみたいだけど、君も巻き込まれたんだ。」
と言われて、ルナは動揺した。
スペーシアが9月11日に事故を起こしたというのは、初耳だったからだ。
なぜならルナは、9月11日に東武日光までスペーシアXで来た上、帰りも鬼怒川温泉からスペーシアXに乗ったのだから。
「えっと、100系スペーシアですか?」
と、ルナは聞く。
東武には「スペーシアX」の他、従来型で、スペーシアXが登場する前から活躍している100系「スペーシア」も走っており、スペーシアXではなく、従来型の100系スペーシアが、ダイヤ乱れが起きない又は一部の列車が遅れた程度のちょっとした事故を起こしたのなら、気付かなくて当然だ。
「いや違うよ。明神駅の先の踏切で、軽トラがスペーシアX5号にぶつかったの。踏切閉まっていて、しかも列車が通過中なのに、踏切に進入する神経が分からないわ。しかも、アクセル全開で、3号車と4号車の連結部に突入して、4号車が脱線して、もう大変。乗客はみんな徒歩で避難したんだけど、その時、事故のせいかどうか分からないけど、乗客が一人死んじゃってるのが見つかったの。」
「-。」
ルナは何も言えなかった。
あの日。
ルナの身の回りに、明らかに異常な事が起こった時に乗っていた「スペーシアX5号」は、東武日光に到着する事は無く、途中で脱線してしまっていたのだ。
しかし、ルナはあの日、確かに東武日光駅に着いていた。
そして、SL列車に乗って鬼怒川温泉に行き、アイルと言う紅い着物の女の子に振り回された後、鬼怒川温泉から上りの「スペーシアX10号」に乗って帰っていた。
だが、そこへ向かう時に乗っていた列車が踏切事故に遭っているならば、その旅の行程は根底から崩れてしまう。
まして、並みの踏切事故ではなく、脱線にまで至る事故であり、おまけに列車の車内で乗客が死亡したという大事故であったならば、絶対に東武日光からSL列車に乗るという事は不可能なのだ。
だが、9月11日にルナは事故の事など何も知らないで、それどころか、定刻通りに東武日光に到着して、SL「大樹ふたら72号」に乗っているのだ。




