第16話 東武の蒸気機関車
スペーシアX1号は利根川を渡り、新古河駅を通過。
前回はこの直後に急激な睡魔に襲われて眠り込んでしまった。
(前回は新古河を通過したのを見た辺りから記憶が曖昧だ。橋を渡ってすぐに眠ってしまったのだろう。前回は狸に化かされたのかな?化かされるとするなら、分福茶釜の茂林寺を通る、リバティー「りょうもう」或いは、特急「りょうもう」の方だろうけど。)
そんなことを思うと、ルナは「ふふっ」と笑ってしまった。
笑っている間に、板倉東洋大前駅を通過して群馬県に入るが、次の通過駅である藤岡を通過する時には、栃木県に入っている。
渡良瀬川を渡ったら、まもなく栃木駅に到着した。
前回は記憶のある帰路で一瞬、地上駅に停まっている光景が目に入って来たが、今回はそんなことも起こらず、高架駅に停まった。そして、栃木から新鹿沼へ向かう景色は、往路と復路の違いはあるが前回と変わりない。
新鹿沼を過ぎると、進行方向右側に見えていた日光例幣使街道から離れ、山岳地帯を通る。ここまで来るともう、日光鬼怒川地区は目の前だ。
やがて、日光宇都宮道路とJR日光線と立体交差し、旧日光街道と交差したら、下今市駅に到着する。
下今市駅には3分ほど遅れて9時33分に到着したので、案の定、接続となる9時33分発のSL大樹1号に乗り換える観光客は皆、駅員やSL観光アテンダントにせっつかれながら、記念写真を撮る暇もなく、客車に押し込められてしまう。
(こうなるから次のSLにしたのさ。)
「ボォッ!」と、蒸気機関車が汽笛を鳴らし、SL大樹1号が発車する。
今日の1号を牽引するのはC11‐325号機。
国鉄時代に新潟県で活躍した後、栃木県の真岡鉄道にやって来たが、真岡鉄道での紆余曲折の末、東武鉄道にやって来た。
真岡鉄道で煮え湯を飲まされ冷や飯を食わされた挙句、追い出されるように東武へやって来た事から、「へそ曲がり機関車」とルナは密かに呼んでいる。
現在、東武鉄道は蒸気機関車を3両保有しているが、全てC11型蒸気機関車であるのに、機関車それぞれに個性がある。
「機関車には人の心が宿っている」と、機関士やSL観光アテンダントに言われた際は「何を言っているのだ?」と思ったのだが、同型機が3両もいて、それぞれの走る姿を見ている内になんとなく、機関車の個性と言う物が分かって来た。だからこそ、ルナはそれぞれにあだ名を付けている。
下今市駅にはSL大樹の機関車を収容、整備点検を行う下今市機関区が併設されており、後発のSL大樹3号を牽引するC11‐207号機が中で施行前点検を行っていた。
この207号機はSL大樹が走り始めた時からずっと、東武で走っているが、厳密に言えばこの機関車は東武の物ではない。
207号機はヘッドライトを2つ、まるでかに目のように装備している事から、「かに目」と呼ばれている。これは、霧深い北海道の日高本線等の路線で、視界を確保するために装備されたものだ。また、排雪器も大雪に備えた大型の物、回転式火の粉止を装備した大型の煙突等、どれも北海道で使用する物を備えている。
207号機は国鉄時代からJRに至るまで一貫して北海道で活躍していた機関車で、JR北海道ではSLニセコ号やSL冬の湿原号、極稀に函館にも顔を出してSL函館大沼号としても活躍していたが、JR北海道の設備更新と財政状況からJR北海道では維持不能になったところで、東武鉄道のSL復活プロジェクトが立ち上がり、JR北海道から貸与と言う形で東武鉄道にやって来たのだ。
SL大樹の運行開始当初から、東武で活躍している上、東武がSL大樹の宣伝をする際には必ずと言っていいほど、207号機が使われているからか、人気が高く、ルナは「カニ目の人気者」と呼んでいた。
もう1両の123号機は車検のため南栗橋車両管区へ行っており不在だが、こちらも北海道出身で東武鉄道初の静態保存機からの復元機で、他社からの貸与車や、以前所属していた鉄道会社との紆余曲折の絡みから、207と325は大幅な改造が出来ず、列車の運行に欠かせないATSを機関車に直接搭載できないため、機関車の後ろに車掌車を連結し、これにATSを搭載しているが、123だけは最初から東武所属となったため、車掌車を連結せず直接ATSを機関車に搭載することが出来た。
ルナは123のことを「身軽な機関車」と呼んでいる。
下今市駅の跨線橋を渡って、向かう先は下今市機関区に併設されているSL展示館と転車台広場だ。
転車台広場では、下今市機関区を出区する蒸気機関車を目の前で見学でき、年に1度、この転車台広場で蒸気機関車のお祭りも行われている。
また、SL展示館には東武博物館程では無いが、東武鉄道で現在活躍するC11蒸気機関車を中心に、東武鉄道の蒸気機関車復活プロジェクトに関する展示が行われている他、SL大樹に乗車したり、条件を満たしたりすると貰える記念品の配布も行っており、ここにもSL観光アテンダントが常駐している。
先日は時間の都合から通過してしまったが、出来る限りルナは、ここに常駐しているSL観光アテンダントに挨拶をしてから、東武の蒸気機関車を堪能するようにしており、今日も挨拶に向かうのだ。




