第12話 ぶどう色の電車
切符を買って改札を抜ける。
しかし、高架線のホームに入って来たのは、見たことも無い、ぶどう色の全金属製車両だった。
(はっ?)
ルナはスマホでその電車の写真を撮る。
「ふふふ。アイルから聞いた通り、本当に電車がお好きなのですね。私を介して知り合ったようですが、私も、そこまでは分かりませんでした。」
眼鏡を掛けた女性は微笑みながら言う。
そのセリフの中に「アイル」と言う人物の名前があった。
(あの旅で出会った、アイルって言う紅い着物の女の子―。その知り合いか!?)
ルナは思う。
そして、アイルとその関係者と一緒に居る時、ルナの周りでは、電車が古い物になり、景色もその電車が走っていた時代の物になると分かった。
だが、今回は景色までは変わっていない。
車内に入り、しっかりこの電車を見てみる。
(これは、東武7800系?)
ルナは思う。
「えっと、お姉さん。」
「あら。私は相当、若く見えるのですね。うれしいですが、お姉さんは止めてくださいな。」
「では―。」
「お母様でも良いですし、里緒菜さんでも良いです。お姉さんはちょっと―。」
里緒菜と名乗った眼鏡を掛けた女性は照れながら言った。
(リオナさんと言ったな。SL観光アテンダントのお姉さんにこんな感じの方が居たが―。)
「あっ、軽井沢さんと呼ぶのはよしてくださいな。」
(ああ、SL観光アテンダントのお姉さんではない。あの人は漢字二文字のどこにでもある苗字だったと思う。それにしても、軽井沢って言う苗字に聞き覚えが?)
ルナは思いながら、窓の外の東京スカイツリーを見上げる。
旧型電車と東京スカイツリーという時代を越えた光景が外から見えるだろう。
(あっ!)
ルナはスマホを取り出し、連絡先を見てみる。
そこにはアイルの連絡先が本名で入っており、改めてそれを見てみると軽井沢愛瑠とあったのだ。
(という事は、この人。里緒菜さんは、アイルのお姉さん?或いはお母さん?)
「東京天文台帰りの出張授業をする母に付き合った娘が一目惚れするなんて、貴方の学校の教授にも感謝しないとね。」
里緒菜が言い、里緒菜はアイルの母親だと認識した。
そして、里緒菜とアイルの言い分では、ルナとアイルは、ルナの高校の夏休み中、ルナの高校の教授に用があって東京に出て来た里緒菜に付き合って東京に来た際、ルナとアイルが廊下で鉢合わせになって出会ったと言うらしい。
確かに、高校のクーリエのバイトをしていた際、太陽望遠鏡で太陽フレアの観測をしていた教授の手伝いをして小金を稼いでもいたし、その際、爆発的な太陽フレアの発生を目撃したが、アイルのような女の子と出会った覚えはない。
浅草駅に着いた。
浅草駅から浅草寺の雷門の方へ向かって少し歩いたところに、古ぼけた天ぷら屋があり、里緒菜はそこがお気に入りだという。
だが、ルナは(こんなところに天ぷら屋なんてあっただろうか?)と首を傾げる。ここは、カラオケ店のある場所で、学校の連中が時折遊んでいるが、ルナには無縁な場所だった。
最も、無縁な場所だから気が付かなかっただけかもしれないが。
「私が奢りますので。遠慮はいりませんよ。」
里緒菜は言うが、見ず知らずの女性に奢られるのは嫌だった。
「こんなクソガキ口説いても―。」
「あら?私の娘を一目惚れさせておいて?」
(知るか!テメェの顔切り刻んで、吾妻橋から隅田川に沈めんぞこの野郎!)
ルナは思う。
里緒菜の娘というアイルがルナに一目惚れしたというが、ルナはそれに一切関与していない上、アイルという女の子を始めて見たのは先日、SL大樹ふたら72号に乗車した際で、その時からアイルは意味不明な事を言ってきたのだ。
(いい加減にしねえと、本気で怒るぞこの野郎。)
ルナは少しへそを曲げたが、奢られる事を受け入れた。
悔しいが、夕食代を浮かせられると思ったからだ。




