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第10話 プラレール運転会

 今日も同じ日常だ。

 今日は学校の後、バイトがある。


 ポスティングのバイトは稼ぎが良く、少しでも手取りを増やして生活を楽にしようと、新聞配達やポスティングと言ったバイトをやっているが、今月は夏休み期間に稼いだ分も相まって手取りが多く、今月中にもう一度、日光・鬼怒川へ行けるだろう。


 しかし、心配性でもあるルナは、出来る限り稼げる時に稼ぐのだ。

 今日は金曜日で、明日は土曜日。第1土曜日と第3土曜日はバイトも無い。


 明日は第1土曜日でバイトは無いが、予定がある。

 所属しているプラレールのサークルの集まりで、プラレールを用いて実際の鉄道路線を再現した上、実際のダイヤをアレンジした運行ダイヤを組んで、プラレールを走らせるのだ。

 二日間に渡るこの集まり。今回は東武博物館の博物館ホール全面貸切で、東武スカイツリーライン、伊勢崎線、日光線はもちろん、佐野線、小泉線、桐生線と言った盲腸線に加え、東武東上線や野田線等、東武の主軸路線と離れた場所にある路線、更には甲種輸送のルートである秩父鉄道の一部区間までも再現するというのだ。

 更に今回は東武鉄道のYouTubeチャンネルの取材もある、大規模な物だ。


「前回の津軽海峡24時の時、ルナ凄かったなぁ。」


 主催者のヤスが言う。


「そうそう。YouTubeの動画で「津軽海峡に轟くルナの絶叫」なんてね。」


 メンバーのマツが笑いながら言い、ルナも釣られて笑いながら、レールを敷設する。


 前回、鉄道博物館で津軽海峡線を再現した際、五稜郭駅の列車の取り扱いを担当したルナは、特に寝台特急の扱いに苦戦し、函館まで行く「カシオペア」を「トワイライトエクスプレス」と誤認し、誤って五稜郭で停めてしまい、後続の「トワイライトエクスプレス」を追突させたり、札幌行きの「はまなす」を異線進入させそうになったりと、テンヤワンヤの状態だった。

 そんな事を思い出しながら、自分の受け持つ区間の設営を終え、午後はフリー運転として、ダイヤは組んであるが、適当な車両を走らせて練習する。


 ルナの受け持ちは、東武鬼怒川線と日光線が分岐する下今市駅だ。

 下今市駅は2面4線のホームと、北側に2本の留置線、南側に2本の留置線の他、北側には下今市機関区を有する複雑な駅だ。

 ルナはフリー運転中、面白半分にSL大樹を浅草まで送ってやろうとしたのだが、機関区からホームへの入換作業中に相方のミスで、ポイントが切り替わっておらず、新栃木行きの8000系が、SL大樹が停車している上りホームの3番線に突入して追突する事件が起きてまたルナが悲鳴を上げて、「まぁたやったぞ!」と、周囲に爆笑の渦を起こした。


 初日を終えて、翌日の本運転。

 まずは練習ダイヤだ。

 練習ダイヤでは、やはりあちらこちらで変なミスが起き、ミスがミスを呼び、ルナはミスを犯さなかったにも関らず、とばっちりを喰らう格好になった。どういうわけか、下今市担当のルナのところに「よく分からない所属不明の20400系を一旦留め置いて!」と言われたが、それの扱いをどうすればいいかの伝達が来ず、ルナが「輸送司令!!」とまた絶叫。

 更に、SL「大樹ふたら71号」の入換中、蒸気機関車と客車を繋ぐ連結器が壊れて機関車だけがホームに入りかけ「輸送司令!今度はSL連結器がぁーっ!」とまた絶叫。

「えっと、DL!DLを前に!」

「71号はウヤですか?」

「無理だろ!とりあえず、DL前に入換して、72は下今市から特発で―」

「いや、分け分からねえ20400が止まってて機回しできねえ!こいつ退かせ!」

「転車台を介してやれよ馬鹿!」

 等と滅茶苦茶なやり取り。

 終電時刻になっても、路線全体に波及したダイヤ乱れで、列車が車庫に帰れなくなる中、「これは何?」と、下りホームに何故かやって来た秩父鉄道7500系を指す。


「なんで秩父鉄道がこんなとこ来てんだよ!」


 と、絶叫しながら不意に妙な視線を感じた。

 ギャラリーも自由に見られるようにした今回の運転会。

 そのギャラリーからの視線だろうか?

 ふと、目を上げると、何故か鬼怒川線から1720系デラックスロマンスカーがやって来た。


「おい鬼怒川!テメふざけて何走らせてんだこの野郎!フリー運転じゃねえんだぞ!いや、新栃木!違う、南栗橋!」

「落ち着けルナ!」

「1720誰が持ち込んだ!?」

「一旦落ち着け!」


 練習ダイヤはいつも、あちらこちらでこんな事になっているが、リアクションの大きなルナはかなり目立ち、YouTubeの動画では格好の笑いのタネになる。

 ギャラリーもルナを見て笑い転げているし、一緒にやっているメンバーも笑い転げるが、一人だけ、眼鏡を掛けた女性はじっと、ルナを見つめている割に、「やれやれ」と溜息を吐いていた。


 まるで、ルナを知っているかのように。



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