表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
67/87

王様の誤算

美月のアナザーストーリー1話目です

銀座の夜に俺だけの女王を誕生させた、あの夜。

俺はアマンのペントハウスに帰り、一人満足感に浸っていた。

最高の育成ゲームだった。

ダイヤの原石を見つけ出し、俺の力で磨き上げ、最高の宝石へと変える。

その過程はどんなキャバクラ遊びよりも刺激的だった。


「これで、銀座のゲームも終わりだな」


俺はそう呟いた。

No.1を作ってしまった以上、もうこのゲームに続きはない。

明日からは、また、退屈な王様の日常が始まるだけだ。


そう、思っていた。

だが、その夜、俺は久しぶりに眠れなかった。

目を閉じると、あの時の美月の顔が浮かんでくるのだ。

俺が「自分を安売りするな」と言った時の、あの驚きと尊敬と、そしてほんの少しの熱を帯びた潤んだ瞳。


あの瞳は俺が今まで金で買ってきたどんな女の瞳とも違っていた。

そこには、計算も打算もなかった。

ただ、一人の男に対する純粋な魂の反応があった。


「…ちっ」


俺はベッドから起き上がると舌打ちをした。

おかしい。

俺はどこかで計算を間違えたらしい。

俺はただゲームを楽しんでいたはずだった。

駒に感情移入するなんて、王様としてあってはならないことだ。


翌日になっても、俺の頭の中から美月の存在は消えなかった。

昼間に楓のカフェに行っても、どこか心ここにあらずだった。

楓の穏やかな優しさ。

それは確かに心地よい。

だが、今の俺の心を焦がすあの熱とは種類が違った。


俺は気づいてしまった。

俺は美月というゲームに、本気でのめり込みすぎてしまったのだ。

そして、ゲームが終わった今、俺の心には虚しさだけが残されている。


その日の夜。

俺は無意識のうちにロールスロイスを銀座へと向かわせていた。

店の前まで来て、俺は自分の行動に少しだけ戸惑った。

今更どんな顔をして彼女に会えばいい?


俺が車の中で逡巡していると、店の裏口から仕事を終えた美月が一人で出てきた。

煌びやかなドレスではなく、質素な、しかし清潔なワンピース姿。

そのあまりにも無防備な姿に、俺はどうしようもなく心を奪われた。


俺は車から降りると彼女に声をかけた。


「美月」


「…!佐藤様…!」


彼女は、心底驚いた顔で俺の名前を呼んだ。

そして、その瞳が見る見るうちに潤んでいく。


「どうして…。もう、お店には来てくださらないのだと…」


「…少しな。お前に話がある」


俺たちは近くの静かなバーへと入った。

カウンター席で隣に座る。

その距離がひどくもどかしかった。


俺は彼女に単刀直入に聞いた。


「お前、本当は女優になりたいんだろ?」


「…!」


彼女は息を呑んだ。

俺がなぜそれを知っているのか、と、その顔に書いてある。


「俺の次のゲームに付き合え」


俺は彼女の目をまっすぐに見つめて言った。


「俺がお前を日本一の女優にしてやる。これはただの道楽じゃない。俺の本気のプロジェクトだ。お前はそのヒロインになれ」


俺は、もう、彼女をゲームの駒だとは思っていなかった。

俺は彼女の夢を自分の夢として、共に追いかけたくなってしまったのだ。

それは、王様の気まぐれではない。

一人の男の生まれて初めての本気の恋心だったのかもしれない。


美月はしばらく何も言えなかった。

ただ、大粒の涙をその美しい瞳からこぼしていた。

そして、震える声で、しかしはっきりと言った。


「…はい。私、あなたのヒロインになります」


俺たちの本当の物語がこの夜静かに幕を開けた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ