キングとクイーン
エリカのアナザーストーリー最終話です
私と拓也の結婚式はイタリアのコモ湖に浮かぶ古い城を貸し切って行われた。
招待客は陽介さんと健司さん、そして、私たちがビジネスの世界で築き上げてきた世界中のパートナーたちだけ。
私が自分でデザインした漆黒のマーメイドドレスは、どんな純白のドレスよりも気高く、私という女の生き様を完璧に表現していたと思う。
「誓いますか?」
神父の問いに、私たちは顔を見合わせて不敵に笑った。
「ええ、誓うわ」
「ああ、誓うよ」
私たちの誓いは神に対してではない。
互いの魂に対等なパートナーとして生涯を共に戦い抜くことを誓ったのだ。
結婚後、私たちは「佐藤ホールディングス」を正式に設立した。
それは、もはや拓也個人の資産管理会社ではない。
私と拓也、二人の帝国だった。
私たちはアマンのペントハウスを本当の意味での「城」であり「司令室」とした。
そこから、世界中に次々と新しいゲームを仕掛けていく。
AI、宇宙開発、フィンテック。
拓也がその有り余る金と直感で未来への大胆な投資を行えば、私がその冷静な分析力と嗅覚でリスクを管理し、着実に帝国を拡大させていく。
彼が「アクセル」で、私が「ブレーキ」。
そして時には二人してアクセルを踏み込み、世界の度肝を抜くような巨大な買収劇を仕掛けてみせたりもした。
世間は私たちを、畏敬とほんの少しの恐怖を込めてこう呼んだ。
「顔のないキングと、その隣に立つ美しきクイーン」と。
私はその呼び名が心の底から気に入っていた。
2034年。
拓也が予測した通りビットコインは4億円という天文学的な価格を記録した。
私たちの資産は数兆円規模へと膨れ上がり、もはや国家予算に匹敵するレベルにまで達していた。
その日の夜。
私たちはアマンのペントハウスで二人きりでささやかな祝杯をあげていた。
眼下に広がる東京の夜景。
かつて、鳥かごの中から一人で退屈そうに眺めていたこの景色が、今は全く違う色に見えた。
「…拓也」
私は彼の肩にそっと頭を乗せた。
「ん?」
「私、今、幸せよ」
「そうか」
「ええ。あなたという世界で一番退屈しない男の隣にいられるのだから」
彼は私の言葉に静かに微笑んだ。
そして、私のグラスに最高級のシャンパンを注いでくれる。
「乾杯しようぜ、エリカ」
「ええ。何に?」
彼は窓の外に広がる私たちが手に入れた王国を指差した。
「俺たちのこれから始まるもっと面白いゲームに」
私たちがグラスを合わせる。
カチン、と、心地よい音が静かな夜に響き渡った。
金で始まった私たちの、歪で奇妙な関係。
それは、いつしか、世界の誰よりも強く、そして、対等な愛の物語へと昇華されていた。
王と女王。
私たちの戦いはまだ始まったばかりだ。
この世界の全てを私たちだけの最高の遊び場に変えるための壮大なゲームが。




