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最初の共同作業

エリカのアナザーストーリー3話目です

俺にビジネスパートナーとして認められてからというもの、エリカの毎日は戦場そのものだった。

彼女は俺が与えた軍資金300億円を元手に、水を得た魚のように世界の市場を駆け巡っていた。

その瞳にはもはや夜の世界の女の影はなく、獲物を狙う孤高の女王の光だけが宿っている。


俺はそんな彼女の姿をアマンのペントハウスから満足げに眺めていた。

俺がやっていることは、かつて銀座で美月を育てた「育成ゲーム」に似ている。

美月が俺が与えた光を反射する月だったとすれば、エリカは自ら燃え盛る太陽のような女だった。


そんなある日。

エリカが珍しく真剣な顔で俺に一つの企画書を提出してきた。


「拓也。次のターゲットはこれよ」


彼女が指差したのは、かつて一世を風靡した日本の老舗アパレルブランド「FLEURフルール」の経営状況に関する資料だった。

時代の変化についていけず、今は経営難に陥り身売り寸前だという。


「なぜ、ここなんだ?」


俺の問いにエリカは挑戦的な笑みを浮かべた。


「面白いじゃない。夜の世界でのし上がった私が今度は昼の世界の一番華やかな場所で戦う。それに…」


彼女は少しだけ遠い目をした。


「このブランドは、私がまだ何も知らなかった頃に憧れていた最初の夢だったから」


俺は二つ返事でその提案を承認した。

翌週には俺たちは「FLEUR」の新しいオーナーとなっていた。

買収にかかった費用は200億円。

俺にとってはただの数字の遊びだ。

だが、エリカにとっては自分の夢とプライドの全てを賭けた、最初の大きな戦いが始まろうとしていた。


俺たちは二人で再建計画を練った。

俺が資金調達と経営戦略という大局を見る。

そして、エリカがデザインの刷新やブランドのイメージ戦略という現場の指揮を執る。


エリカの才能は本物だった。

彼女は夜の世界で培った、時代の空気を読む嗅覚をいかんなく発揮した。

古いデザインは大胆に切り捨て、若者たちの心を掴む新しくそして挑発的なデザインを次々と打ち出していく。

俺は彼女が望むだけの最高のデザイナーチームを世界中から引き抜き彼女の指揮下に置いた。


数ヶ月後。

新生「FLEUR」の、最初のコレクションが発表された。

それは、ファッション業界に大きな衝撃を与えた。

かつての上品だが退屈なイメージは完全に覆され、そこには、強く自立した現代の女性のための戦闘服があった。


ショーは大成功。

ブランドの売り上げはV字回復を遂げた。

エリカは夜の世界の女王から、今や、ファッション業界の新しいカリスマとして注目を浴びる存在となっていた。


その成功を祝うささやかなパーティーをペントハウスで開いていた、ある夜。

エリカはシャンパングラスを片手に静かに俺に言った。


「…ありがとう、拓也。あなたがいなければ、私、ここまで…」


「俺は何もしていない。全てお前の力だ」


俺がそう言うと、彼女は少しだけ潤んだ瞳で俺を見つめた。

その瞳には、もう、かつてのような野心や打算の色はなかった。

ただ、一人の男に対する純粋な尊敬と、そして、それ以上の何かが宿っているのを俺は感じていた。


俺たちの関係は、もう、ただのビジネスパートナーではなかった。

同じ夢を見て、共に戦う唯一無二の「戦友」。

俺はそんな彼女の存在を、どうしようもなく愛おしいと感じ始めていた。


だが、俺たちの前には、まだ最後の試練が待ち受けていた。


俺たちの築き上げたこの小さな王国を破壊しようと、静かにその牙を研いでいる見えない敵がいることを、この時の俺たちはまだ知る由もなかった。

そして、それは俺たちの想像よりもずっと早く、そしてずっと卑劣な形で始まろうとしていた。

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