王様の真実
ミナのアナザーストーリー5話目です
希望が3歳になったある日のことだった。
その日は、息子の誕生日を祝うために、拓也さんは仕事を全て休みにしてくれていた。
三人でテーマパークへ行き、夜はアマンでささやかなパーティーを開く。
完璧な家族の一日になるはずだった。
だが、その日の午後。
拓也さんの元に一本の電話が入った。
健司さんからだった。
何か緊急のトラブルがあったらしく、拓也さんは険しい顔でしばらくの間話し込んでいた。
電話を終えた彼は申し訳なさそうな顔で私に言った。
「…ミナ、すまん。どうしても今からオフィスに行かなきゃならなくなった」
「え…」
「すぐに戻る。パーティーが始まるまでには、必ず。だから、先に希望とプレゼントを開けていてやってくれ」
彼はそう言うと、息子の頭を優しく撫で慌ただしくペントハウスを出ていった。
残されたのは、私と希望、そして、テーブルの上に置かれたたくさんのプレゼントの箱。
私は息子を膝に乗せ、一つずつその箱を開けていった。
最高級のオモチャ、デザイナーズの子供服。
その全てが拓也さんの息子への愛情の証だった。
その時、ふと、一つの小さな質素な封筒が、プレゼントの山の中に紛れているのに私は気づいた。
宛名はない。
私は不思議に思いながらその封筒を開けた。
中に入っていたのは一枚のUSBメモリだけだった。
私は何かに導かれるように、そのUSBをリビングのノートパソコンに差し込んだ。
画面に表示されたのは、一つの動画ファイル。
再生ボタンを押した瞬間、私の時間は完全に止まった。
そこに映っていたのは、下北沢のあの薄暗いアパートの部屋。
そして、ソファの上で私に罵声を浴びせ金を無心する、かつての恋人カイトの姿だった。
隠し撮りされた数か月前の映像。
『だからよぉ、ミナ!次のアルバムの制作費、あと2000万は必要だって言ってんだろ!お前の旦那に、うまく言っとけよ!』
映像の中のカイトは、見る影もなく落ちぶれ、ギャンブルに溺れ、多額の借金を抱えているようだった。
映像はまだ続く。
カイトが去った後、今度は画面に拓也さんと興信所の人物らしき人が現れた。
どうやらこの部屋には無数の隠しカメラが仕掛けられていたらしい。
興信所の人物が、拓也さんに深々と頭を下げている。
『佐藤様。これで、よろしかったのでしょうか』
『ああ』
拓也さんの静かな声が響く。
『カイトくんの借金はこれで完済。海外での新しい生活も全て手配しておいた。もう二度と彼がミナの前に現れることはない』
『…しかし。奥様は…』
『ああ』
拓也さんは、静かに、しかし、はっきりと言った。
『ミナはまだ何も知らない。これは、俺とあいつだけの問題だ』
映像はそこで終わっていた。
私は声も出せずに、ただ、画面を見つめていた。
私の醜い秘密。
私の最後の罪。
その全てを、この人は最初から知っていたのだ。
私がカイトに金を渡し続けていたことも。
そのカイトがどうしようもないクズになってしまったことも。
そして、何より。
希望が自分の本当の子ではない、という残酷な事実さえも。
彼は全てを知った上で、それでも私を愛し息子を愛しこの偽りの家族を守り続けてくれていた。
そのあまりに深く、そして、あまりに孤独な愛情を前にして、私は立っていることさえできなかった。
その時、ガチャリとリビングのドアが開く音がした。
拓也さんが帰ってきたのだ。
彼は私の様子とパソコンの画面を見て、全てを察したようだった。
彼は何も言わずに私の前に静かに立った。
審判の時が来たのだ。
私がこの神様に最後の答えを示す時が。




