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罪と純情

ミナのアナザーストーリー2話目です

拓也さんがユウタの命を救ってくれた。

その日から、私の人生は良くも悪くも一変した。


彼は私にもう夜の仕事は必要ないと言って、六本木のあのタワーマンションの一室を正式に私に与えてくれた。

クローゼットには、私一人では持ちきれないほどの美しい服やバッグが並べられていく。

毎月、私の個人口座には使い切れないほどの大金が無言で振り込まれた。


私はもう、ただのキャストじゃない。

佐藤拓也という王様の唯一の恋人。

それが私の新しい肩書きになった。


でも、その肩書きは、重い、重い鎖となって私の心に絡みついていた。

私にはカイトがいる。

メジャーデビューを果たした彼は、最近少しずつ人気が出てきていた。

でも、その成功も元はと言えば拓也さんの金のおかげだ。

その事実が私とカイトの関係を少しずつ歪なものに変えていた。


「なあ、ミナ。次のライブ、もっとデカい箱でやりてえんだけど。パトロンに頼んでくんねえかな」


電話の向こうで、カイトが当たり前のようにそう言う。

昔はあんなにハングリーで純粋だった彼。

でも、今は簡単に手に入る成功に少しだけ魂を食われているようだった。


私は断れなかった。

拓也さんを裏切っている罪悪感。

そして、カイトを失うことへの恐怖。

その二つが私をがんじがらめにして身動きを取れなくしていた。


私は拓也さんに甘えた声で嘘を重ねる。


「拓也さん。私、音楽が好きだから、若い才能を応援するチャリティーみたいなことをしてみたいな…」


そんな私の嘘を、拓也さんは一度も疑わなかった。

彼はいつだって私を信じきった純粋な目でこう言ってくれる。


「ミナは優しいな。いいぜ、好きなだけやってみろよ。金ならいくらでも出してやる」


彼は私を通してカイトのバンドの最大のスポンサーになった。

カイトはますます人気者になっていく。

そして、私はますます嘘の沼の奥深くへと沈んでいった。


2022年の春。

桜が満開のある日の夜だった。

拓也さんは、私を貸し切りのフレンチレストランに連れて行ってくれた。

そして、そのデザートの皿の上で小さな箱を私に差し出した。


「ミナ」


彼は少しだけ緊張した声で言った。


「俺と結婚してください」


箱の中には、見たこともないほど大きなダイヤモンドの指輪が輝いていた。

私は息ができなかった。

嬉しい、とか、そういう感情じゃない。

ただ、恐怖だけが私の心を支配していた。


結婚。

この神様みたいに優しい人を、私は一生騙し続けるというのか。


断らなければ。

今、全てを話して謝らなければ。

そう頭では分かっていた。

でも、私の口から出たのは全く逆の言葉だった。


「…はい。喜んで」


涙が溢れてきた。

それは嬉し涙ではない。

もう、後戻りはできない、という、絶望の涙だった。

拓也さんはそんな私の涙を彼を愛するが故の喜びの涙だと信じきっているようだった。

彼は優しく私の涙を拭うと、その指輪を私の左手の薬指にそっとはめてくれた。


その瞬間、私は悪魔に魂を売ったのだ。


ごめんなさい、拓也さん。

ごめんなさい。


あなたのあまりに純粋な愛情が、私を怪物に変えていく。

私はあなたという神様を裏切り、恋人という道化を操る最低の嘘つき女だ。


でも、もうやめられない。

この天国のような地獄から抜け出すことはできない。


もし、いつかこの罪があなたにバレる日が来たら。

その時は、どうか私を軽蔑してください。

憎んでください。


そして、できることなら、あなたの手で私を終わらせてください。


指輪の冷たい感触だけが、私の唯一の現実だった。

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