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億り人の誠意

ミナのアナザーストーリー1話目です

2021年、初頭。

俺が宝くじを当ててから、約半年が過ぎていた。

俺は六本木ヒルズの向かいに立つ、「パークコート・六本木ヒルトップ」の賃貸マンションに住んでいる。

月額350万円。

27歳の若者が住むにはこれ以上ないほどの贅沢な城だった。


手元の現金は、友人(健司)の借金を返済したり、日々の派手な遊びで使ったりして、残り5000万円を切っていた。

俺の資産の柱は2020年の秋に仕込んだ5億円分の仮想通貨だ。


その仮想通貨市場は年末にビットコインが史上最高値を更新して以来明らかに熱を帯び始めていた。

俺が買ったSOLやSHIBも少しずつ値を上げ始めている。

まだ「爆発」には遠いが、資産は6億、7億と着実に増えていた。

来るべき熱狂のXデーは、そう遠くない。

俺には確信があった。


そんな中、俺はミナとの関係を深めていた。

彼女だけは他の女とは違う。

俺は本気でそう信じていた。


だが、最近彼女の様子が少しだけおかしかった。

完璧な笑顔の裏に隠しきれない疲労の色が浮かんでいる。

俺の前では気丈に振る舞っているが、ふとした瞬間に深い憂いを帯びた顔をする。


その日も、「Club Z」のVIP席で彼女は健気に俺のために酒を作ってくれていた。

だが、その手元はわずかに震えている。


「ミナ」


俺が声をかけると、彼女はハッとしたように顔を上げた。


「どうしたんだ、最近。何か悩み事でもあるのか?」


「…いえ!なんでもないです、拓也さん!」


彼女は慌てて笑顔を作った。

その痛々しいほどの笑顔を見て、俺は、確信した。

ミナは一人で何かとんでもないものを抱えている、と。


その日の帰り道。

俺はあの忠実な黒服にそっと声をかけた。


「ミナのことで何か知っていることはないか。最近、様子がおかしい。金の悩みか?」


黒服は少しだけ躊躇った後、意を決したように口を開いた。


「…佐藤様のお耳に入れるべきか迷っておりましたが…。実は彼女の弟さんが重い心臓の病を患っておられる、と。

海外で移植手術を受けなければ助からないらしく…その費用が、数千万円…」


俺は頭を殴られたような衝撃を受けた。

そんな大事なことを。

なぜ彼女は俺に一言も話してくれなかったのか。


翌日。

俺はミナをいつものタワマンの部屋に呼び出した。

彼女は何かを察しているのか、緊張で顔がこわばっている。


俺は単刀直入に切り出した。


「お前の弟さんのことを聞いた」


その瞬間、ミナの瞳が大きく見開かれた。

そして、次の瞬間には大粒の涙がその瞳から溢れ出していた。


「ごめんなさい…!ごめんなさい、拓也さん…!」


彼女はその場に崩れ落ち嗚咽を漏らした。


「あなたにだけは知られたくなかった…!お金目当てだなんて、思われたくなくて…!」


その健気な言葉。

俺はどうしようもなく彼女への愛おしさが込み上げてくるのを感じた。


俺は彼女の前に跪くと、その涙を指で優しく拭ってやった。


「馬鹿野郎」


俺はできるだけ優しい声で言った。


「なんで俺に話してくれなかったんだよ。俺にとって、お前はもう、ただのキャストじゃないんだぞ」


「…え?」


「お前の悩みは俺の悩みだ。違うか?」


俺はその場でスマホを取り出した。

そして、俺が個人契約している国際的な医療コンシェルジュサービスの担当者に電話をかける。


「俺だ。至急、最高の心臓外科医のチームをアメリカで探せ。小児の心臓移植だ。費用は5000万円までならすぐに用意できる。最優先で動いてくれ」


俺の真剣な指示。

電話の向こうの担当者は、「Yes, Sir」とだけ答えた。

そして、隣で全てを聞いていたミナはもはや涙も枯れ果てたのか、ただ、呆然と俺の顔を見上げているだけだった。


俺は電話を切ると、そんな彼女を優しく抱きしめた。

彼女の華奢な体は小刻みに震えていた。


「…もう、大丈夫だ」


俺は彼女の耳元で囁いた。


「お前も、お前の弟も、俺が絶対に守ってやるから」



【ミナ視点】

私は夢を見ているのだろうか。

私が人生の全てを賭けても、届かないと諦めかけていたたった一つの希望。

弟の命。

それを、この人はたった一本の電話で掴み取ろうとしてくれている。


感謝。

もちろん、ある。

でも、それ以上に、私の心を支配していたのは圧倒的な罪悪感だった。


この神様みたいに優しい人を、私は裏切っている。

私にはカイトがいる。

この人の優しさに、愛情に、私は嘘で応えている。


どうしよう。

どうすればいいの。


彼の温かい腕の中で、私はただ震えることしかできなかった。

この瞬間、私の人生の歯車は、もう、後戻りできない場所へと、大きく、そして、静かに回り始めていた。


神様の共犯者として。

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