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私の値段

エリカのサイドストーリー最終話です

拓也が銀座の美月という女にご執心になってから、私は彼が与えてくれた六本木のタワマンで一人過ごす時間が増えた。

彼はもうほとんど私を呼ばなくなった。

ただ、何不自由ない生活だけがそこにあった。

金は無限にある。

時間は永遠にある。

だが、その二つを持て余した女はただゆっくりと心を腐らせていくだけだった。


私は何のために生きているのだろう。

拓也の美しいコレクションの一つとしてただ飾られているだけ。

そんな人生に何の意味があるというのか。


そんなある日、拓也から本当に久しぶりに連絡があった。

アマンのペントハウスに呼び出された。

私はこれが最後のチャンスかもしれないと、持っている中で一番美しいドレスを着て彼の城へと向かった。


だが、そこで彼が告げたのは、私にとってあまりにも残酷な現実だった。

彼は楓さんと結婚するという。


「…そうですか。おめでとう、ございます」


私は必死で笑顔を作った。

ここで泣いたりみっともない姿を見せたりするのは私のプライドが許さなかった。


ミナでも、美月でも、そして、私でさえも決して彼に与えることのできなかった本当の安らぎ。

それを、この夜の世界とは無縁のごく普通の女性が彼に与えていたのだ。

私は初めて女として完全に敗北した。


私はただ深々と頭を下げた。

ありがとう、とも、さようなら、とも言えなかった。



彼らの結婚式は伊豆の旅館でささやかに行われた。

私は呼ばれなかった。

当然だ。


その日から、拓也は完全に夜の世界から姿を消した。

六本木の「Club Z」も、銀座の店も全て陽介さんや健司さんに任せ、彼は楓さんと共に穏やかな時間を過ごしているのだという。


私は鳥かごに完全に一人取り残された。

もう王はここには帰ってこない。


私は決心した。

この居心地の良い金の鳥かごから自分の意志で飛び立とう、と。


私は拓也に一通だけメッセージを送った。

『今まで、ありがとうございました。私は、私の力で生きていってみようと思います』


彼から返信はなかった。

だが、それで良かった。


私は彼が与えてくれたタワマンを出て、彼が買い与えてくれたブランド品を全て売り払った。

手元には数億円の現金が残った。

これは私が彼との歪な関係の中で、唯一、自分の力で手に入れた軍資金だ。


私はその金を元手に小さなファッションブランドを立ち上げた。

夜の世界で誰よりも美しく強く見せるために私がずっと研究し続けてきた服飾のデザイン。

それが私の唯一の武器だった。


もちろん現実は甘くなかった。

何度も失敗し、裏切られ、一人で泣いた夜もあった。

だが、不思議と辛くはなかった。

誰かに値段をつけられるのではなく、自分で自分の価値を証明していく。

その戦いは充実感に満ちていた。


数年後。

私のブランドは夜の世界で働く女性たちを中心に絶大な支持を得るようになっていた。

かつて私がそうであったように、強く、美しくありたいと願う女たちのための戦闘服。

それが私のブランドのコンセプトだ。


ある日の夜、私は自分でデザインしたドレスを身にまとい、銀座の自分の店に立っていた。

そこへ、一人の懐かしい客が訪れた。

陽介さんだった。


「よう、エリカ。…いや、社長、と呼ぶべきか。立派になったじゃねえか」


彼は昔と変わらない、人懐っこい笑顔で言った。


「拓也も、喜んでるぜ。お前のこと陰ながらずっと応援してたからな」


「…そう」


私は素っ気なくそう答えた。

でも、胸の奥が少しだけ温かくなった。


私はもう王の寵愛を求める鳥ではない。

私は私自身の小さな王国の女王になったのだ。


私の人生の値段はもう誰もつけることはできない。

その価値を決めるのは世界でただ一人。

私だけなのだから。


私は胸を張って、店のショーウィンドウに映る自分の姿を見つめた。

そこにいたのは、誰かに媚びる「二番手」の女ではない。

自分の足で立つ、誇り高い一人の女の顔だった。

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