一番になれない女
エリカのサイドストーリー1話目です
私の人生はいつだって「二番手」だった。
生まれつき恵まれた容姿のおかげで、欲しいものはだいたい手に入った。
男たちは面白いように私に貢いでくれたし、夜の世界でもすぐにそこそこの地位を築くことができた。
でも、一番にはなれなかった。
私の前にはいつだって私より少しだけ可愛くて少しだけ愛嬌のある小動物みたいな女がいた。
男たちは結局私のような「強い女」よりも、守ってあげたくなるような「か弱い女」を選ぶのだ。
佐藤拓也が現れた時、私は最初彼をただの成金だと侮っていた。
六本木の夜にぽっと出で現れて、金の力でミナをトップに押し上げた運の良い男。
だが、同時に嫉妬もしていた。
なぜ、ミナなの?
私の方がよっぽどあなたを楽しませてあげられるのに。
だから、私は彼を誘惑した。
自分の持てる全ての武器を使って、彼の視線をミナから奪い取ろうとした。
計画はうまくいった。
彼は私をアフターに誘い、私にミナと同じようにタワマンの一室と無限に使える金を与えてくれた。
私は勝ったと思った。
初めて一番になれた、と。
だが、それは勘違いだった。
彼の隣にいても、彼の心はどこか遠い場所にあるのが分かった。
彼は私を通していつもミナを見ていた。
あるいは、ミナを通してさえもっと別の何かを。
その頃だ。
別の店の、IT長者の男が私に猛烈なアプローチをかけてきたのは。
彼は拓也ほどではないが、金を持っていた。
そして何より、彼は、私だけを「一番だ」と言ってくれた。
私は拓也への当てつけと、ほんの少しの寂しさからその男とも関係を持ってしまった。
それが私の犯した最大の過ちだった。
♢
西麻布の、あの夜。
拓也が鬼のような形相で私の前に現れた時。
私は全てが終わった、と思った。
だが、彼の行動は私の想像を遥かに超えていた。
彼は私を罵倒するでも、殴るでもなく、ただ、圧倒的な金の力で私をモノのようにもう一人の男から「奪い取った」のだ。
『お前の値段は俺が決める』
あの時の彼の冷たい瞳。
私は生涯忘れることはないだろう。
私は人間じゃない。
彼のコレクションの一つなのだと思い知らされた。
それからの日々。
私は彼が用意したタワマンで、ただ、彼からの連絡を待つだけになった。
彼は以前よりもさらに気まぐれにしか私の部屋を訪れない。
最高の贅沢は与えられた。
だが、そこには心がなかった。
私は美しい鳥かごに入れられたただの鳥。
彼の孤独をほんの少しだけ紛らわすための美しい置物だった。
不思議とそれは苦痛ではなかった。
むしろ奇妙な安心感があった。
もう誰かと競う必要はない。
一番を目指す必要もない。
ただ、この絶対的な王の所有物として生きていけばいいのだから。
拓也がミナを追放した日。
私は心の底から歓喜した。
これで私が名実ともに彼の隣に立つ唯一の女になれる、と。
だが、私の期待はすぐに打ち砕かれた。
彼はミナがいなくなっても私をそれ以上求めることはなかった。
それどころか、彼は夜の世界そのものに興味を失っていくように見えた。
そして、彼は銀座で新しい「オモチャ」を見つけた。
美月とかいう田舎から出てきたばかりの地味な新人。
かつてのミナと同じタイプの男が守ってあげたくなるような、か弱い女。
ああ、そうか。
結局、私はどうやったって彼の本当の一番にはなれないのだ。
その事実を悟った時、私の心は初めて静かに折れた。
金も美貌もプライドもこの男の前では何の意味もなさない。
ならば、私はこれからどうやって生きていけばいいのだろう。
王の鳥かごの中で私は初めて自分の未来について本気で考え始めていた。




