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王の右腕

陽介のサイドストーリー2話目です

拓也から「俺の『顔』になれ」と言われた、あの夜から。

俺の人生は第二の、そして本当の意味でのスタートを切った。


俺はもうただの「拓也のダチ」じゃない。

佐藤拓也という顔のない王の意を汲みその帝国を地上で動かす唯一の代理人。

その事実は俺の背筋を伸ばし、同時にとんでもないプレッシャーとなって両肩にのしかかってきた。


最初の仕事は、拓也がオーナーとなった「Club Z」を名実ともに六本木の頂点に君臨させることだった。

金なら、ある。

拓也から渡された法人カードは、まさに無限の打ち出の小槌だった。


俺は、まず、毎週金曜の夜を「サトウ・ナイト」と名付けた狂ったイベントを企画した。

その夜はVIP席以外の客の会計が全て無料になる。

もちろん、その数千万円、時には億を超える赤字は全て拓也のポケットマネーから補填される。


噂は瞬く間に広まった。

六本木中の遊び人たちが、金曜の夜になるとZに押し寄せてくる。

店内は毎週末入場規制がかかるほどの熱狂的なお祭り騒ぎとなった。

俺はその熱狂の中心に立ち、マイクを握り、DJブースから客を煽った。


「今夜は王からのプレゼントだ!最高の夜を楽しんでいけ!」


俺は水を得た魚のようだった。

人を楽しませること、場を盛り上げること。

それは、昔から俺が唯一得意としてきたことだったからだ。


だが、光が強ければ影もまた色濃くなる。

俺の派手なやり方を快く思わない連中も当然いた。

特に俺たちのやり方でシマを荒らされた他の店のオーナーたちからの風当たりは日に日に強くなっていった。


ある日の夜、店の裏口で俺は数人のいかにもな男たちに囲まれた。

それは、俺たちが叩き潰した黒田の息のかかった連中だった。


「よう、陽介さんよぉ」

「最近、随分と派手なご活躍じゃねえか」


男たちは下卑た笑みを浮かべながら、じりじりと俺との距離を詰めてくる。

まずい、と思った。

健司のように頭が切れるわけでもなく、拓也のように金の力で全てを解決できるわけでもない。

俺にあるのはこの口と体一つだけだ。


絶体絶命。

そう思った、その時だった。


「――何か、うちの陽介に御用ですか?」


静かだが、有無を言わせない声。

気づけば、俺の後ろにZの黒服たちが、十数人、壁のように立ちはだかっていた。

その中心にいるのは、元オーナーであり、今は拓也に忠誠を誓うあの店長だった。


店長はチンピラたちを一瞥すると静かに言った。


「ここは、佐藤様の城だ。そして、陽介様はその城の代行人でいらっしゃる。陽介様に手を出すということは、王に弓を引くのと同じこと。…その意味、お分かりかな?」


その、静かな脅し。

男たちは顔を見合わせると捨て台詞を吐いて、すごすごと去っていった。


俺は助けてくれた店長と黒服たちに頭を下げた。


「…すまん。助かった」


店長は静かに首を横に振った。


「滅相もございません。我々は王の命令に従ったまでです。『陽介の身に何かあればお前たちの首が飛ぶと思え』と、固く言いつかっておりますので」


俺は何も言えなかった。

結局、俺は拓也の威光に守られているだけじゃないか。

俺自身の力で成し遂げたことなど何一つない。

悔しさと、そして、拓也の変わらない友情への感謝で胸が熱くなった。


その夜、俺は拓也に電話をかけた。


「拓也。俺、もっと強くなるわ」


『…なんだよ、急に』


「お前の『顔』として、恥ずかしくない男になる。お前の金や力に頼るだけじゃなく、俺自身の力でこの街の連中を認めさせてみせる」


電話の向こうで、拓也が少しだけ楽しそうに笑ったのが分かった。


『面白いじゃねえか、陽介。期待してるぜ』


その日から俺の本当の戦いが始まった。

俺は六本木中のありとあらゆる人間と酒を酌み交わした。

店のオーナー、黒服、情報屋、果ては裏社会の人間とも。

拓也の金を使うのは最後の切り札。

俺は俺自身の人間力とコミュニケーション能力だけで、この街に俺だけのネットワークを築き上げていった。


いつか拓也が本当に助けを必要とした時。

金だけでは解決できない問題にぶち当たった時。

その時に、最高の「ダチ」として、最高の「右腕」として、あいつの隣に立っているために。


俺の本当の「キャバクラ三昧」は、ただの遊びじゃない。

この街の全てを手に入れるための、俺だけの静かな戦争だったのだ。

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