王様の親友
陽介のサイドストーリー1話目です
俺の人生は拓也があの宝くじを当てる前と後で天国と地獄くらい変わっちまった。
いや、地獄だったのが天国になったと言うべきか。
俺、相田陽介は、昔から良くも悪くもただの「陽介」だった。
クラスの中心にいる人気者ってわけじゃないけど、いつも誰かとつるんでバカやって笑ってるそんなポジション。
拓也と健司とは高校からの付き合いだ。
真面目だけど少し根暗な拓也と、気弱だけど優しい健司。
そんな二人とお調子者の俺。
不思議と俺たち三人のバランスは最高だった。
社会人になってもそれは変わらなかった。
安物のスーツを着て安物の居酒屋で会社の上司の悪口を言い合う。
そんなどこにでもあるしょーもない日常。
でも、俺はそんな毎日が結構好きだった。
あの日、拓也がグループLINEに、あの「6億円」の画像を貼り付けるまでは。
正直、最初は信じられなかった。
でも、拓也が予約した叙々苑の一番高いコースを食わされた時、俺は理解した。
俺たちの日常はもう終わったんだ、と。
そこからの毎日はマジで夢のようだった。
会社を辞め、六本木の高級キャバクラで今まで雑誌でしか見たことないような美女たちと朝まで飲み明かす。
拓也がプレゼントしてくれた、パテック・フィリップの腕時計は、俺のアパートの家賃の100倍以上の値段がした。
伊豆の旅館を貸し切り、沖縄のプライベートビーチでパーティ。
拓也の隣にいれば俺は何もせずとも王様の生活を享受できた。
俺は最高の気分だった。
拓也は最高の親友だ。
あいつが神なら、俺はその一番近くで仕える大天使ってとこか。
俺は本気でそう思っていた。
♢
拓也が仮想通貨で資産を1000億円にしたあの日。
俺は初めて、ほんの少しだけ「恐怖」を感じた。
6億でもすでに天文学的な数字だった。
だが、1000億は、もはや現実感がなさすぎた。
拓也が本当に人間じゃないどこか遠い世界の存在になってしまったような気がして少しだけ怖くなったんだ。
でも、あいつは変わらなかった。
俺たちを昔と同じように「ダチ」として扱ってくれた。
銀座で俺をビビらせるような遊びにも連れて行ってくれた。
だが、俺の心の中にはいつしか小さな黒い感情が芽生え始めていた。
劣等感。
そして、焦り。
拓也は俺に最高の贅沢をさせてくれる。
健司には借金を返済してやった。
俺たちは拓也から与えられてばっかりだ。
俺は拓也に何かを返せているだろうか。
ただの「お調子者の金魚のフン」になってはいないだろうか。
拓也が六本木の競合店との戦争を始めた時、俺の無力感は頂点に達した。
健司は持ち前の真面目さで、敵の会社の財務状況を分析し、拓也の「懐刀」として立派に戦っていた。
俺は?
俺にできることは、ただ、拓也の隣で「すげえ!」「やっちまえ!」と、無責任に騒ぐことだけ。
拓也はそんな俺を気にもしていないようだった。
でも、俺は俺自身が許せなかった。
その日の夜、俺は拓也に生まれて初めて真剣な顔で頭を下げた。
「拓也。俺に何か仕事をさせてくれ」
「…仕事?」
拓也はきょとんとした顔で俺を見た。
「ああ。健司みたいに頭脳労働はできねえけど、俺にも何かできることがあるはずだ。お前に与えられてばっかりの人生はもう嫌なんだよ」
俺の必死の訴え。
拓也はしばらく黙って俺の顔を見ていた。
そして、やがて、ニヤリと笑った。
「…面白いじゃねえか、陽介」
彼は俺に一つの「指令」を与えた。
それは、健司とは全く違う俺にしかできない最高の仕事。
「お前は、俺の『顔』になれ」
「…顔?」
「ああ。俺は表舞台には出ない。だから、お前が俺の代わりにこの夜の世界の新しい王になれ。最高の遊びを考え最高のイベントを企画し最高の熱狂をこの街に作り出せ。それが、お前の仕事だ」
俺は震えた。
恐怖ではない。
武者震いだ。
拓也は俺のことをちゃんと見ていてくれた。
俺だけの、俺にしかできない役割を与えてくれたんだ。
「…おう。任せとけ、拓也!」
俺は人生で一番力強くそう答えた。
俺の本当の人生がこの瞬間から始まる。
ただの「王様の親友」じゃない。
王の右腕として、この世界に俺だけの足跡を刻みつけてやるんだ。




