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預言の成就、最後のゲーム

楓と結婚してからの数年間は、まるで嵐の後の凪のように穏やかに過ぎていった。

俺は夜の世界から完全に足を洗った。

六本木の「Club Z」も、銀座のクラブも全て陽介と健司に任せ、俺は一切、経営には口を出さなかった。


俺の生活の中心は常に楓だった。

二人で世界中を旅した。

プライベートジェットで巡る観光客のいない静かな絶景。

誰も知らない小さな田舎町の美味しいレストラン。

俺は楓と共に過ごす時間の中で、金では決して買えない本当の豊かさを少しずつ学んでいった。


そして、運命の年、2034年がやってきた。

41歳。

世界は俺が予測した通りに動いていた。


ブロックチェーン技術は、社会のインフラとして当たり前のものとなっていた。

そして、その基軸となるデジタルゴールド、ビットコインの価値は機関投資家や国家さえも巻き込みながら天井知らずの高騰を続けていた。


その日の午後。

俺はアマンのペントハウスの書斎で楓の淹れてくれたコーヒーを飲みながら、静かにその瞬間を待っていた。

隣では楓が俺が今一番気に入っている古い小説を読んでいる。

穏やかで完璧な、日常。


ピコン、とノートパソコンから小さな通知音が鳴った。

俺が設定していたアラートだ。


俺はゆっくりと画面に目をやった。

そこに表示されていたのは、一つのシンプルな事実。

1BTC = 400,000,000 JPY


2022年に俺が立てた預言。

それが寸分の狂いもなく現実となった瞬間だった。


俺が保有する、約4,091 BTC。

その資産価値は、今、この瞬間、約1兆6364億円に達した。

インデックス投資の資産や、不動産、その他の現金を合わせれば俺の個人資産は、優に2兆円を超えている。

もはや、一個人が持つには滑稽なほどの金額だ。


「…拓也さん?」


俺がじっと画面を見つめているのに気づき、楓が心配そうに顔を上げた。


「どうしたんですか?」


「いや…」


俺は彼女に向かって穏やかに微笑んだ。


「少しだけ、昔のゲームが終わっただけだよ」


その日の夜。

俺は陽介と健司をミッドタウンにある俺のプライベートオフィスに呼び出した。

そこは俺が水面下で進めていた最後の計画のための秘密基地だった。


「拓也、どうしたんだよ、急に。改まって」


陽介が不思議そうな顔をしている。


俺は二人の前に一枚の企画書を置いた。

その表紙にはこう書かれていた。


【佐藤ホールディングス設立計画書】


「…これは」


健司が息を呑んだ。


俺は静かに告げた。


「俺の最後のゲームを始める」


俺は二人に自分の計画の全貌を話した。

もはや俺の興味は個人として遊ぶことにはない。

この有り余る金を使い日本の、いや、世界の未来に投資をする。

AI、宇宙開発、核融合、次世代のエネルギー。

金がなくて才能を燻らせている世界中の天才たちを支援し彼らが夢見る未来を俺の金で現実にする。


それはもはやビジネスではない。

神の視点から行う世界の再創造。

壮大でクレイジーで、そして、最高に面白いゲームだ。


「…お前、マジかよ」


陽介が興奮で声を震わせている。


「俺たちに手伝えって言うのか?そんな、デカすぎる話…」


「当たり前だろ」


俺は、二人の目を見て言った。


「陽介。お前は、その人脈と行動力で世界中から最高の才能を探し出してこい」


「健司。お前は、その真面目さと誠実さでこの巨大な帝国の金庫番になれ」


俺は立ち上がった。

そして、窓の外に広がる東京の夜景を指差した。


「俺は金で全てを手に入れた。だが、それは全て過去だ。これからは、俺たちがこの金でまだ誰も見たことのない未来を創るんだ」


俺の言葉に陽介と健司の目にかつてないほどの熱い光が宿った。

彼らもまたこの壮大なゲームのプレイヤーになる覚悟を決めたのだ。


宝くじ一枚から始まった、俺の物語。

それは夜の世界の王として君臨し、やがて、本当の愛を知る物語だった。

そして、今。

全てを手に入れた男は、最後に未来そのものを自分の手で創り出すという神の領域へと足を踏み入れようとしていた。

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