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王様のプロポーズ

伊豆で全てを告白した翌朝。

俺は楓の隣で目を覚ました。

差し込む朝日が彼女の穏やかな寝顔を照らしている。


夢じゃない。

この温もりも、この安らぎも、全てが現実だ。

俺は初めて心の底から満たされた朝を迎えていた。


俺たちが東京に帰る日。

旅館のスタッフ全員が玄関に並んで俺たちを見送ってくれた。

女将が楓のそばにそっと寄ると優しい声で言った。


「お客様。…いいえ、楓様。どうか、私どもの殿様を末永くよろしくお願いいたします」


楓は驚いたように目を見開いた。

そしてすぐに全てを察したように頬を赤らめながら深々と頭を下げた。

その初々しい姿に俺はどうしようもなく愛おしさが込み上げてくるのを感じた。


アマンのペントハウスに帰る車中楓はずっと外の景色を眺めていた。

俺はそんな彼女に少しだけ意地悪な質問をしてみた。


「なあ、楓」


いつの間にか敬語を使うのはやめていた。

彼女もそれを自然に受け入れてくれている。


「うん?」


「俺がとんでもない金持ちだって分かって、どう思った?」


楓は少しだけ考えるそぶりを見せた。

そしていたずらっぽく笑って答えた。


「これで、お店の家賃、払ってもらえるかなって」


「ははっ!」


俺は腹の底から笑った。

この女には敵わない。

彼女の前では俺は王でも神でもない。

ただ一人の男に戻れるのだ。


アマンのペントハウスに到着すると、楓は改めてその広さと豪華さに息を呑んだ。

ここが、これから自分の愛する男と生きていく場所になるかもしれないのだから。


俺はそんな彼女の手を取るとリビングの中央へと導いた。

そして、彼女の前でゆっくりと片膝をついた。


「…拓也さん?」


楓が驚いたように俺の名前を呼ぶ。


俺はポケットから小さなベルベットの箱を取り出した。

その中には、この日のために世界最高の職人に作らせた一点物のダイヤモンドの指輪が静かに輝いている。


「楓」


俺は彼女の目をまっすぐに見つめた。


「俺はお前と出会って初めて人間になれた気がする。金しか信じられなかった俺に金より大切なものを、教えてくれたのは、お前だ」


俺は言葉を続ける。


「これからの人生、俺の隣で一緒に歩いてくれないか。俺が創る未来を一番近くで見ていてほしい」


俺は箱を開け彼女に指輪を差し出した。


「俺と結婚してください」


楓の美しい瞳から大粒の涙がいくつも、いくつも、こぼれ落ちた。

だが、その顔は最高の笑顔だった。


彼女は何度も、何度も、小さく頷いた。


「…はい。喜んで」


俺は震える彼女の左手の薬指にそっと指輪をはめた。

その瞬間、俺の長くてクレイジーな第一章は終わりを告げた。


そして、愛する女と共に歩む本当の人生という新しい物語が、今、静かに始まろうとしていた。

王様のプロポーズは、世界一シンプルで、世界一心のこもったものだった。

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