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王様のオモチャ

「――Jリーグの、チームを買う」


俺の唐突な宣言に、陽介と健司はしばらくの間、開いた口が塞がらなかった。


「いや、拓也、買うって…」


健司がようやく声を絞り出す。


「スポンサーとかじゃなくて、チームを丸ごとか?」


「ああ。その方が面白そうだろ」


俺はあっけらかんと言った。

健司は頭痛をこらえるようにこめかみを押さえている。


「…どこのチームを買うか、とか考えてるのか?」


「ああ。俺の地元で、今、J2でくすぶってるあの弱小チームでいい」


俺の言葉に今度は陽介が目を輝かせた。


「マジかよ!あそこ、俺たちが子供の頃、よく見に行ってたチームじゃねえか!」


「そうだ。あの頃は、弱くても夢があった」


俺は少しだけ遠い目をした。


「俺がもう一度、あのチームに夢を見せてやる。俺の金でな」


その日から俺の新しい「遊び」が始まった。

健司が俺の代理人としてチームの運営会社と接触する。

相手は長年の赤字経営に苦しんでいた。

そこに個人資産400億を持つ男からの買収の提案。

断る理由などどこにもなかった。


交渉は一週間もかからずに終わった。

俺は数十億円でJリーグチームの株式の過半数を取得。

晴れてプロサッカーチームの「オーナー」となった。


そのニュースは日本のスポーツ界を震撼させた。

『謎の個人投資家、J2クラブを買収!』

メディアは俺の正体を探ろうと必死だったが、俺は一切表舞台には出なかった。


俺はただ最高の環境を用意するだけだ。

健司をチームの代表取締役として送り込み、陽介を広報兼お祭り担当役員としてチームに常駐させた。


「健司。練習場もクラブハウスも全て世界最高のものに作り替えろ。金の心配はするな」


「陽介。お前はスタジアムを満員にしろ。イベントでも無料招待でも何でもやれ。最高の雰囲気を作るんだ」


そして俺は自らヨーロッパへ飛んだ。

目的は、ただ一つ。

俺の「オモチャ」を、最強にするための、最高の「部品」を買い集めるためだ。


数週間後。

日本のサッカーファンは、信じられないようなニュースの連続に度肝を抜かれることになる。


『元ブラジル代表の10番、日本のJ2クラブへ、電撃移籍!』

『欧州得点王のストライカー、年俸30億でJ2へ!』

『世界最高の守備的MFも、日本の弱小クラブに加入!』


俺は全盛期を過ぎたとはいえ、世界的なビッグネームたちを札束で文字通り買い漁った。

彼らが要求する数十億円の年俸も俺にとっては誤差の範囲でしかない。


世界中が俺の気狂いじみた金満補強を「愚行だ」と笑った。

だが、結果はすぐに出た。


俺のチームは、J2でありえないほどの強さで勝ち続けた。

毎試合がお祭りのようだった。

スタジアムは常に満員。

陽介が企画した派手なイベントも大成功を収めていた。


その年のオフ。

俺のチームは圧倒的な成績でJ2優勝を決め、J1への昇格を決めた。

優勝セレモニーの日。

俺は初めてスタジアムのVIPルームからその光景を眺めていた。

ピッチで健司と陽介が選手たちに胴上げされている。

サポーターたちの地鳴りのような歓声がスタジアムを揺らしていた。


それは俺が金で作り上げた熱狂の光景。

俺は満足げにその光景を見下ろしていた。


その時だった。

俺のスマホに楓からメッセージが届いた。


『拓也さん。今、テレビでサッカー見てます。地元のチームが優勝したって商店街のみんなも喜んでますよ』

『なんだか、私も嬉しくなりました』


その何気ないメッセージ。

俺はその文面を何度も何度も読み返した。


スタジアムの熱狂よりも、

J1昇格という栄光よりも、

彼女からのたった一言の「嬉しい」という言葉が俺の心をずっとずっと強く揺さぶっていた。


俺は気づき始めていた。

俺が本当に手に入れたいものは、この熱狂のもっと別の場所にあるのかもしれないということに。

王様の遊びにもそろそろ終わりが近づいているのかもしれない。

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