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崩壊の序曲

月曜日の朝。

日本中が俺の仕掛けた戦争のニュースで目を覚ました。


テレビのワイドショーも、ネットのニュースサイトもトップニュースは全て同じ。

『謎の資産家サトウ氏、週刊誌に激怒!史上空前、500億円の損害賠償請求!』


コメンテーターたちが興奮した様子でまくし立てる。


「500億!これはもう、ただの名誉毀損訴訟ではありません!雑誌社を、完全に潰しにきています!」


「このサトウ氏とは、一体何者なんでしょうか!弁護団も日本最強と名高い布陣です。個人の資産家が、これほどのリーガルチームを動かすとは…」


世間の論調は完全に俺の味方だった。

ゴシップで人を貶める週刊誌とそれに立ち向かう謎の若き大富豪。

これほど分かりやすく面白い構図はない。

出版社には抗議の電話が殺到し、株価は市場が開いた瞬間にストップ安まで売り込まれた。

俺の弁護士が言った通り、彼らは法廷で戦う前にすでに社会的に殺されたのだ。


俺はアマンのペントハウスで、そんな報道をまるで他人事のように眺めていた。

陽介が興奮して叫んでいる。


「すげえ!拓也、すげえよ!お前、今や日本で一番有名な男だぞ!」


「馬鹿言え。顔も出してねえのに、有名もクソもあるか」


「それが、また謎めいててカッコいいんじゃねえか!」


俺はそんな陽介の隣で静かにパソコンの画面を見つめている健司に声をかけた。


「健司。首謀者の黒田の件、どうなった?」


健司は俺の視線に気づくと静かに頷いた。


「ああ。リストアップした取引先への圧力は順調に進んでいる。黒田の会社はもう資金繰りがショート寸前のはずだ」


健司の目は数年前までのただの気弱なサラリーマンの目ではなかった。

俺という王の冷徹な懐刀として静かに、しかし確実に敵の息の根を止める。

彼もまたこの戦争の中で新しい自分を見つけたのかもしれない。


その頃、六本木のどこかのバーでは俺に牙を剥いたオーナーたちが絶望の淵に立たされていた。


「どうなってやがる…!」


クラブ「L」のオーナーが、テーブルを叩きつけた。


「うちのエースが、昨日、Zに移籍しやがった!給料3倍出すって言われたら断れるわけねえだろ!」


「うちもだ!銀行が急に追加の担保を要求してきやがった。まるで俺たちが潰れるのを見越してるみたいに…」


彼らの店は俺が仕掛けたキャストの引き抜きと、健司が裏で進めている経済的な圧力によってもはや壊滅状態だった。


そこに、一番の古株である黒田が血の気の引いた顔で現れた。


「…おい。お前たちのところにも、来たか?」


「何がだよ…」


「国税だ。今朝、俺の会社に、マルサが乗り込んできた」


その一言に、部屋は水を打ったように静まり返った。

国税庁査察部、通称マルサ。

それが何を意味するのかこの世界の住人なら誰もが知っている。

社会的な死、そのものだ。


「なんで、今なんだ…!サトウの仕業か!?」


「分からん!だが、タイミングが良すぎる!」


彼らは完全にパニックに陥っていた。

自分たちが、法で、経済で、そして裏社会で完璧に包囲されていることにようやく気づいたのだ。


黒田は震える手で携帯電話を取り出した。


「…おい。伊豆の件は、どうなってる。例のブツはもう動かしたのか」


電話の向こうの、反社会的勢力であろう部下からの返答に、黒田は今度こそ完全に顔面蒼白になった。


「…なんだと?警察が別荘の周りを嗅ぎ回り始めた…?馬鹿野郎!早くしろ!」


黒田は、電話に向かって怒鳴っている。


だが、もう遅い。

伊豆の旅館の女将から、黒田と反社との繋がりの情報はすでに興信所を通して警察庁の上層部に届けられている。

彼らが動くのは時間の問題だ。


俺が仕掛けた静かな殲滅戦。

その包囲網は、ゆっくりと、しかし確実に獲物の息の根を止めようとしていた。

チェックメイトは、もうすぐそこだった。

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