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王様の勅命

俺が「戦争」を宣言した電話からわずか数時間。

俺の軍団は驚くべき速度で動き始めていた。


アマンのペントハウスのリビングは、今や即席の作戦司令室と化していた。

巨大なモニターには、六本木の地図とターゲットである競合店のオーナーたちの顔写真そして関連する情報がリアルタイムで更新されていく。


最初に動いたのは弁護士の「悪魔」だった。

彼は、俺から送られてきた資料を元にわずか半日で訴状を作成。

翌日の月曜、裁判所の開門と同時に、出版社とオーナーたち個人に対する500億円の名誉毀損訴訟を東京地裁に提出した。


「佐藤様」


弁護士は電話の向こうで楽しそうに言った。


『マスコミにはすでに情報をリーク済みです。明日の朝にはテレビやネットで大々的に報道されるでしょう。「宝くじ成金、ゴシップ誌に激怒!空前の500億訴訟!」…見出しはこんなところですかね』


「ああ。派手にやってくれ」


『お任せを。法廷という名のリングで彼らが二度と立ち上がれないように完璧に叩きのめしますので』


次に動いたのは、興信所の所長だった。

彼の手腕は、まさに「闇の仕事人」という言葉がふさわしい。

彼の部下たちはゴキブリのように街の闇に紛れ込み、オーナーたちの金の流れ、女関係、あらゆるスキャンダルを一夜にして丸裸にしていった。


「佐藤様」


深夜、所長から短い報告が入る。


「ビンゴですよ。ターゲットの一人、クラブ『L』のオーナー。あんたの前の女、ミナの今のパトロンでもあります。こいつは店の売上を誤魔化して、海外の口座に資産を隠しているようですな。完璧な脱税の証拠です」


「そうか」


「いつでも国税庁の友人たちにこの情報をプレゼントできますが…いかがなさいますか?」


「まだだ。泳がせておけ。最高のタイミングで、首を掻き切ってやる」


俺の冷たい指示に、所長は「承知いたしました」と満足そうに答えた。


そして俺が密かに期待していた伊豆からの連絡も入った。

電話の相手はあの旅館の女将だ。

彼女の声は少しだけ震えていた。


『佐藤様。お申し付けの件、地元の者を使って探りを入れさせておりました』


「何か、分かったか」


『はい…。ターゲットの古株オーナー、名前を黒田と申しますが、彼はこの伊豆の別荘で良からぬことをしている、と』


女将の話は、衝撃的なものだった。

黒田は、伊豆の別荘を隠れ家として海外の反社会的勢力と頻繁に接触している。

そして、彼らと共に金の密輸…いわゆるマネーロンダリングに深く関わっているというのだ。


「…裏は取れているのか」


『はい。私の旅館の板前の一人が、昔、黒田の別荘で働いておりまして。その男が全てを見ておりました』


最高のカードが手に入った。

脱税や女関係のスキャンダルとはわけが違う。

これは一発で相手を社会的に抹殺できる致命的な弾丸だ。


「女将、よくやった。礼は、必ずする」


俺は電話を切るとモニターに映る黒田の顔を睨みつけた。

こいつが今回の戦争の首謀者。

ならば見せしめとして最も惨めな死に方をしてもらう必要がある。


俺は健司を呼び寄せた。


「健司。お前に仕事を頼みたい」


「…なんだ?」


「黒田が経営している全ての会社の財務状況を調べろ。金の力で買収できる弱小の取引先を全てリストアップしろ。俺はあいつの会社の息の根を経済的に完全に止める」


俺の容赦のない命令。

健司は一瞬だけ躊躇うような顔を見せた。

だが、すぐに覚悟を決めた目で力強く頷いた。


「…分かった。やってやるよ」


弁護士は、法で。

興信所は、裏社会で。

伊豆の人脈は、地方で。

そして、健司と俺の資産は、経済で。


俺が張り巡らせた完璧な包囲網が、今まさに獲物の首を絞め上げようとしていた。

戦争のゴングは、もう鳴らされている。

一方的な、殲滅戦の始まりだ。

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