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デスタウン  作者: 天園風太郎
第1章 自由の夜明け
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第8話 姉妹の約束

邪魔してきたゾンビ達を止めてくれた聖人ジョシュア様と付き人ミハイル。

ヨハンナ達は2人に支えられながら、自分の足でアイビー公園へ向かいます!

 ジョシュアに無事かきかれたヨハンナはコクリとうなずいた。


 「は、はい。ありがとうございます。でも、どうしてここに?」

 「警察との取引で来たのだよ。今朝のニュースを聞いてトゥルーデのもとへ行こうとしたのだが、警察と管理局に止められてしまってね。だが、そのタイミングで研究員がゾンビ化したという報告が入って、警察側は態度を一転して我々に協力を依頼したという訳だ」

 「あいつら、マジでクズですね」


 ジョシュア達が住むソドム区は、キルス教徒が多数派で、中心には、キルス教の大聖堂『ロン大聖堂』がある、キルス教の自治区のような地区だ。

 だが、1991年に現在の市長の代になると突然ソドム区を囲む壁が築かれ、キルス教徒の住民はそれまで以上に厳しい監視下に置かれた。

 壁の外に出るためには何週間もかかる手続きをするか、賄賂を渡すかのどちらかしかない。

 両親を亡くした幼い子供に寄り添おうとする者に対しても、例外なく二択を迫るようだ。


 「意外とそこまででもない。駆けつけた先でヨハンナ達のピンチを知ることができたのだから。ところで、どこへ行く気かね?警察署は反対側だぞ?」

 「実は・・・・・・」


 ヨハンナは事情を全て話した。


 「まずいではないか・・・・・・!ここはわしらに任せて、早くアイビー公園へ行きなさい」

 「良いんですか?」

 「当たり前だ。トゥルーデは今すごく不安なはず。すぐ行って、安心させてあげなさい。ヨハンナならできる」


 ジョシュアはそう言うと、ダニエルズ父娘にも声をかけた。


 「ブライアン、シャーロット。ヨハンナに力を貸してくれてありがとう。ここから先も頼む」

 「お任せを」

 「はーい!!」


 ダニエルズ父娘は大きくうなずいた。

 ヨハンナ達は立ち上がり、ジョシュアとミハイルに別れの挨拶をしてからアイビー公園のある方へ走った。

 ジョシュアはヨハンナ達の方を向くことはなかったが、遠ざかる足音を聞いて、静かに微笑んだ。





 アイビー公園では、Z警報を聞いた市民が出口に殺到し、大混乱になっていた。

 その少し前のタイミングでマルクスとトガワは入っていたが、その状況を見てすぐに列の整理を始めた。


 「こんな時にぃ!ゾンビって奴は!」

 「仕方ないじゃないか。さっさと終わらせて、トゥルーデ様をまた探すぞ」


 差別されている立場だが、宗教を理由に一般市民を見捨てれば、自分達を迫害してきた連中と同類になる。

 また、警官として、市民を助けるという信念もある。

 2人は複雑な気持ちを抱えながらも、列を整理し続けた。

 木の上に登ってその様子を見たトゥルーデは、ため息をついた。


 「あのひとたち、わるものじゃなかったんだ。ひどいことしちゃったな・・・・・・」


 トゥルーデはアイビー公園に向かう途中で視線を感じ、その方を向いたら2人と目が合ってしまった。

 それで慌てて目的地のここへ走った訳だが、あの警官コンビは他の警官達と違い、本気で市民を助けようとしている。

 無意識に悪い連中と思い込んでしまった自分が恥ずかしかった。

 これでは、キルス家を一方的に迫害してきた意地悪な連中と同じだ。

 トゥルーデは少し反省した。

 その時、突然お腹が鳴った。


 クーーーッ!!


 「お嬢様」の前で鳴った時より、音が大きい。

 ベンチでチョコクッキーを食べようとしていたが、座ってすぐに逃げてしまったため、結局食べていないままだ。

 暗い気持ちの時でも、お腹は空くものなのか。

 トゥルーデは不思議に思った。

 そして、小袋を開けると、チョコクッキーを1枚取ってかじってみた。


 「んーーっ!!」


 トゥルーデは喜びの声を上げた。

 とろけたチョコレートの味と、クッキーの食感のバランスが最高だ。

 さすが、高級!

 こんな状況だが、チョコクッキーのおかげで暗くなりすぎずに済みそうである。





 ヨハンナは走りながら、ジョシュアに言われたことを考えていた。


 ―― 当たり前だ。トゥルーデは今すごく不安なはず。すぐ行って、安心させてあげなさい。ヨハンナならできる。


 本当にそうだろうか?

 ヨハンナはセシリアのことはよく知っていても、トゥルーデのことはあまり知らなかった。

 アイビー公園への思いを知らなかったことがその例だ。

 それも、無理はない。

 セシリアとは10年以上姉妹として付き合ってきたが、トゥルーデとは数回しか会ったことがないのだ。

 それでも、ヨハンナはトゥルーデを探して、保護したかった。





 約2年半間。

 ヨハンナは、トゥルーデの育児に大忙しのキルス一家の家を訪れた。

 妹夫婦を助けるつもりで、ベビー用品を持って来たのだ。

 2人は大喜びだった。

 数時間おきに泣かれたり、壁を汚されたりするので、なかなか買い物に行くタイミングがなかったのだ。

 その際、セシリアが抱っこしている赤ん坊の頃のトゥルーデと会った。

 トゥルーデと会うのは、セシリアが出産して以来だった。

 前に会った時よりも大きくなっており、可愛いらしさが増していた。

 セシリアによると、他の子よりも成長が早いらしく、言葉もある程度喋れるとのことだった。

 ヨハンナはなかなか信じられなかったが、セシリアは笑顔でトゥルーデに話しかけた。


 「ほーら、トゥルーデ。ヨハンナ姉さんだよ」

 「ヨハンナ、ねえちゃん」

 「マジか」


 ヨハンナは驚いた。

 確かに喋った。普通は「パパ、ママ」位だろう。

 だが、両親以外の家族の名前を呼ぶなんて。

 これは、信じるしかない。

 しかし、その後に呆れてしまった。


 「あなた、私を『ヨハンナねえさん』って呼ばせているの?ダメよ。私は伯母さん!呼び方が変だと、その子に良くないわ」

 「何で?私にとって、ヨハンナ姉さんはヨハンナ姉さんだもの。ねえ?トゥルーデ」


 セシリアが明るくきくと、トゥルーデも元気に「うー!」と返事をした。

 まるで太陽が2つあるように、2人がまぶしく見えた。


 (やっぱり、この子はセシリアの子なんだな)


 ヨハンナは微笑みながらそう思った。

 セシリアが妹になってから10年以上経つと、街の外に引っ越したいと思うことは無くなっていた。

 この明るく、お人好しな妹が心配で、愛おしかったから。

 だからその後、


 「ねえ、ヨハンナ姉さん。この後、少し真面目な話して良い?」


 と突然きかれても、うなずいてしまったのだ。



 セシリアはトゥルーデをサイラスに預けると、ヨハンナにとんでもないことを頼んできた。


 「ヨハンナ姉さん、私とサイラスが死んだら、トゥルーデを引き取ってくれないかな?」


 まさかの不吉な頼みに、ヨハンナは唖然とした。


 「な、何をバカなことを。子供を産んだばかりなのに!」

 「ごめんね。でも、私は本気」

 「何で?何でそんなことを頼むの!?」

 「この街がデスタウンだからだよ」


 セシリアはヨハンナの目をまっすぐ見て言った。


 「私達はもうすぐ工場の経営者を任される。妬んだ奴や権利を奪おうとする奴が私達の命を狙うかもしれない。その上、私達は迫害される対象のキルス家。ね?殺されるリスクが高いでしょ?」

 「・・・・・・!」


 ヨハンナはショックを受け、うつむいた。

 一瞬4人で逃げようという考えが頭をよぎったが、セシリアの決意の固さを考えると、それは不可能だった。

 セシリアはヨハンナの手にそっと手を重ねた。


 「お願い、ヨハンナ姉さん。ヨハンナ姉さんに頼みたいの。初めて会ったあの日から、ヨハンナ姉さんは私の光だから」

 「セシリア・・・・・・!」


 ヨハンナは顔を上げた。

 愛する妹にそこまで言われてしまっては断れなかった。

 ヨハンナはセシリアの手を握った。


 「わかった。あなた達にもしものことがあったら、私がトゥルーデを引き取る。でも、本当に死んだら、私はあなた達を永遠に許さないから。死なない努力をしてちょうだい。約束だよ?」

 「うん!ありがとう、ヨハンナ姉さん」


 セシリアは明るい笑顔を見せた。

 それを見て、ヨハンナは既に自分も落ちていることに気づいてしまった。





 そして現在、あの約束が現実のものになろうとしている。

 とりあえず、最初はトゥルーデと会って、話をして寄り添ってから色々と進めるつもりだった。

 また、トゥルーデにはジョシュアをはじめとした親戚もおり、誰のもとへ行くかを本人に確認する必要もあった。

 だが、デスタウン市警の()()()()トゥルーデにも危険が迫っていることを知ることになり、彼女が望むなら今すぐにでも保護をすると決めたのだ。

 もちろん、トゥルーデがジョシュア達のもとへ行くことを選んだとしても、それを尊重する。

 その場合でも、自分の全ての力を使って陰からトゥルーデを守る。

 知る時間が足りないため、安心させてあげられるかはわからない。

 だが、どちらを選択しても、トゥルーデの安全と幸せは絶対守る覚悟だ。



 走り出してから15分後、ヨハンナ達はやっとアイビー公園へ着いた。

 その時には既にZ警報は解除されており、公園の中は静かになっていた。

 ヨハンナ達はトゥルーデがもう公園に入ったと判断し、一緒に公園の隅から隅まで歩いて探したが、どこにもトゥルーデの姿はない。

 向かう途中で迷子になったのかと思った3人だったが、その時、シャーロットがあることを思い出した。


 「きのうえ!」

 「え?」

 「トゥルーデ、きのぼりとくい!はじめてあったときものぼってた!」

 「あ!そういえば、木の上は探してなかった。ありがとう、シャーロット!さすが名探偵の娘!」

 

 ヨハンナ達は今度は木を見上げて探してみることにした。

 すると、すぐに木の上でチョコクッキーを食べているトゥルーデを見つけた。

 ヨハンナは胸をなで下ろすと、トゥルーデに声をかけた。


 「トゥルーデ!!」

 「ヨハンナねえさん!?ブライアンさんとシャーロットも!?」


 トゥルーデは木の下を見て、手を止めた。

 ヨハンナは言った。


 「トゥルーデ、無事で本当に良かったよ!今登るから、そこで待ってて!」


 トゥルーデは一瞬微笑みかけたが、すぐ暗い表情に戻ってしまった。

 ヨハンナ達と会えたのはとても嬉しい。

 だが、一緒に行けば、またあの警察署に戻ることになるかもしれない。

 恐ろしいあの場所へ。

 それは絶対嫌だ。

次回、トゥルーデを保護するため、4人の話し合いが始まります!

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