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デスタウン  作者: 天園風太郎
第1章 自由の夜明け
7/13

第7話 聖人

トゥルーデを探しに行くヨハンナ達。

しかし、早速それを邪魔する「存在」が現れます。

彼らを止められるのは・・・・・・?

 トゥルーデがアイビー公園に入ってしまった頃、ヨハンナはどこにいるのかというと、ライト区付近の交差点で渋滞に巻き込まれていた。

 トゥルーデを探しに行った途端にこれである。

 悪いことばかり続く日だ。

 しかし、ヨハンナは独りではなかった。

 ヨハンナの車の後ろには、心強い父娘の車が続いている。

 彼らと協力することになったのは、警察署を出てすぐのタイミングだった。





 ヨハンナは近くの駐車場に行き、自分の車の鍵を開けようとしたが、その時、とある父娘に呼び止められた。

 振り向くと、そこには先程窓口の前で鋭い指摘をしていた父娘がいた。

 わざわざついて来たようだ。


 「失礼ですが、どこかでお会いしました?」


 ヨハンナがきくと、父親の方が名刺を渡してきた。


 「申し遅れました。先月、デスタウンに事務所を移しました、探偵のブライアン・ダニエルズです。以後お見知り置きを」


 ヨハンナは名刺を確認した。

 名刺には、


 『ダニエルズ探偵事務所 社長 ブライアン・ダニエルズ あなたのお悩み、まずは私にご相談を』


 と書かれている。

 更に文章の下には事務所の住所や電話番号が書かれていたが、ヨハンナが注目したのは彼の名前と職業の方だ。


 「ブライアン・・・・・・、探偵・・・・・・。はっ!!」


 ヨハンナはセシリアが話していた探偵のことを思い出した。


 「セシリアが話していた探偵って、あなただったんですね!」


 ヨハンナが顔を上げると、ブライアンは大きくうなずいた。


 「はい。隣の娘も含め、色々と助けていただきました。ほら、シャーロット。ご挨拶を」

 「はい!せかいいちのめいたんていのむすめで、トゥルーデのだいしんゆうのシャーロットです!よろしく、グレゴリーさん!」

 「ヨハンナで良いよ」


 ヨハンナはしゃがんで言った。

 セシリアが生前、「トゥルーデに初めて友達ができた!」と嬉しそうに話していたのを思い出す。

 どうやら、この子のことらしい。


 「トゥルーデと仲良くしてくれて、ありがとう」

 「だ、だいしんゆうだから」


 シャーロットはヨハンナに見つめられて、少し照れてしまった。


 「グレゴリーさん、早速本題に入ってよろしいでしょうか?」

 「ブライアンさんも、ヨハンナで良いですよ」


 ヨハンナは立った。


 「それで、何のご用ですか?」

 「ヨハンナさんはこれから、トゥルーデを探しに行くのですよね?よろしければ、私達と一緒に行動しませんか?1人では犯罪者やゾンビと遭遇した時危険です」


 ブライアンはそう提案した。

 ヨハンナは驚いた。


 「良いんですか?依頼でもないのに」

 「依頼ではなくても、私はトゥルーデを助けたいのです。大切なお隣さんですから」

 「アタシも、そうおもう!」


 ブライアンとシャーロットはまっすぐな眼差しでヨハンナに言った。

 キルス一家を大切に思っているこの2人なら、信用できるかもしれない。

 ヨハンナは提案を受け入れ、3人でトゥルーデを探しに行くことにした。





 ブライアンは車に乗る前、予想を話していた。


 ――トゥルーデはアイビー公園に向かったはずです。ご両親との思い出の場所ですから。それなら、あの家に行くことも可能性としてありますが、ご両親が殺害された現場でもあるので、まずありえないでしょう。


 そこで、車でアイビー公園付近に先回りして、公園に向かうトゥルーデを徹底的に探そうという話になったのだが、出発してすぐにこの通り、巻き込まれてしまったのである。

 これでは動けないまま夕方を迎えてしまう。

 ヨハンナは状況を詳しく確認するため、車の窓を開けて、顔を出した。

 その直後、横を生首が飛んでいった。

 生首の血がヨハンナの頬にかかり、彼女は青ざめた。


 「は?は・・・・・・!??」


 生首が飛んできた車列の前の方からは、悲鳴と肉が裂ける音が聞こえる。

 ヨハンナは慌てて顔を引っ込めると、深呼吸してどうにか落ち着いた。

 そして、今回の渋滞はあの存在が出没したのが原因だと、この時、気づいた。

 しばらくして、不快な警報音が鳴り響いた。


 ヴォーーーン、ヴォーーーン、ヴォーーーン。


 それに続き、恐ろしい知らせが来る。


 『Z警報!Z警報!ゾンビ出没!ゾンビネズミに噛まれた研究員が護送中に脱走し、ゾンビ化したとのことです!血まみれの白衣の男を見かけても近づかず、すぐに警察へ通報して下さい!また、外出されている方は、付近の建物へ直ちに避難して下さい!』


 Z警報は、ゾンビの出没が確認された時に出される警報だ。


 (多分前にいる奴のことだよね?まずいことになったな)


 デスタウンの市民にとっては聞き慣れた警報だが、今回のヨハンナ達にとっては最悪な知らせだ。

 渋滞に巻き込まれているため、車では逃げられないのだ。

 車がないと、この街では移動の際のリスクが高くなってしまう。

 だが、


 「シャーッ!!」


 とゾンビが威嚇する声が響くと、ヨハンナは覚悟を決めた。


 「こんな所で、死ねないっ!!」


 ヨハンナは周囲を確認し、車を降りた。

 後ろの車を見ると、ちょうどダニエルズ父娘も車を降りていた。

 ブライアンはシャーロットを抱き抱え、ヨハンナのもとに駆け寄った。


 「ヨハンナさん、良かった!ちょうど声をかけようとしていたところです。残念ですが、車をここに置いて一旦歩道へ逃げましょう」

 「そうですね。トゥルーデを探すためにも、私達は生き残らなきゃ」


 ヨハンナはうなずいて言った。

 その直後、突然大きな奇声が、道路を揺らした。


 「ヴァああアアアアアァァッ!!!!」


 ヨハンナ達は驚いてその声がした方を向くと、そこには血まみれの白衣の男がこちらを見て笑っていた。

 警報通りの特徴で、更に、皮膚は生きている人間とは思えない程青白い。

 彼が、ゾンビだ。


 「ウゥうう??」

 「じゃヒャヒャヒャヒャ!!」


 そのゾンビの後ろには、他のゾンビが9体も続いている。

 身体にはあの白衣ゾンビがつけたと思われる噛み跡がある。

 ゾンビに噛まれた者は、ゾンビになってしまう。

 何故なら、ゾンビの体内にあるウイルス――ニューボーンウイルスが傷口から入って感染することにより、脳に異常が起きて理性を無くし、やがて人肉を食らう欲求に支配されるようになるからだ。

 その時には既に人間らしい部分などほとんどなく、病気になったというより、凶暴な魔物――ゾンビと化したと表現した方が正確だった。

 感染力も侮れず、時間に個人差はあっても、傷口に接触しただけでその日の内に「ゾンビ化」する。

 つまり、仮にゾンビに噛まれたり、傷をつけられたりすれば、せっかく食べられずに逃れられても、人間として存在できなくなってしまうのだ。

 シャーロットはゾンビ達を見て、震え出した。


 「パ、パ、パパ?」

 「大丈夫。パパが守るから。ヨハンナさん、ゾンビを分散させるため、一度バラバラに――」

 「いや、一緒に行くよ!」


 ヨハンナはブライアンの手を引いて、3人一緒にゾンビ達から逃げる道を選んだ。

 ゾンビは人間が目の前にいる限り、どこまでも追いかけるが、足が速い訳ではない。

 全力で走れば、逃げ切ることは可能だ。

 サイラスとセシリアの結婚式の日にゾンビに襲われかけ、そのことをジョシュア・キルスに相談した際、彼がそうアドバイスしてくれた。

 ジョシュアはキルス教のトップである一方、息子のリリディアと同様に『ゾンビキング』の能力を持つ者であり、ゾンビとの戦いのプロでもあったので、そのアドバイスは信用できた。

 アドバイスの通り走り出すと、白衣ゾンビを筆頭としたゾンビ集団は追いつけないまま距離が離れていった。


 「やった!」


 ヨハンナはもう片方の手で軽くガッツポーズをした。

 しかし、喜んだのも束の間。

 白衣ゾンビが再び奇声を上げた。


 「ヴあぁぁぁああああぃぃいいいい!!!!」


 先程とは少し違う叫び声。

 ヨハンナは嫌な予感がした。


 「まさか、合図!?」


 アドバイスの後、ジョシュアが、「ゾンビは人間だった頃の記憶の一部は持ち続けている」という豆知識を披露していたのを思い出した。

 時々人間時代に得意だったことを活かして襲ってくることがあるのがその証拠だと。

 この白衣ゾンビの場合、得意だったのはゾンビの研究。つまり、他のゾンビを利用した作戦を考えられるタイプだ。

 理性を失っても、記憶の一部があるため、ある程度の悪知恵が働く個体もいるのである。

 白衣ゾンビが叫んだ直後、ヨハンナ達が走る先の車の陰から別のゾンビが飛びかかってきた。


 「ヴァロロロロッ!!!!」


 嫌な予感が当たってしまった。

 絶体絶命のピンチ。

 だが、その時横から力強い声が聞こえた。


 「伏せろっ!!」


 ヨハンナとブライアンはその声に従い、とっさに伏せた。

 すると、その次の瞬間、槍が頭上を飛び、前にいたゾンビの胸に突き刺さった。

 ゾンビは血を吹き、喚きながら倒れたが、しばらくして動かなくなった。

 ヨハンナとブライアン、シャーロットの3人が驚きながら槍が飛んできた方を向くと、そこには無精髭の男性が立っていた。


 「フウ・・・・・・。間に合って良かった」


 ヨハンナは彼を知っていた。ジョシュアの付き人で、確か「ミハイル」と呼ばれていた。

 そして、ミハイルの背後からあの人物も現れた。


 「よくやってくれた、ミハイル。後はわしに任せてくれ」


 黒髪に、青い瞳。鋭い目つき。立派な口髭とシルクハットが目立つが、内面は誰よりも純粋な男性。

 髪の色とファッションセンスを除けば、リリディアに似ている。

 間違いない。ジョシュアだ。


 「ガァアアアアアアアぁアアアアアアアッ!!!!」


 策が失敗して怒り狂い、ゾンビ達を連れてヨハンナ達とジョシュア達に向かってくる白衣ゾンビ。

 だが、ジョシュアは冷静なまま白衣ゾンビの前に出た。


 「やれやれ・・・・・・。止まれ」


 ジョシュアがそう言うと、彼の瞳が光る。

 すると、ゾンビ達は時が止まったように動かなくなった。

 これが、ゾンビを操れる特殊能力『ゾンビキング』。


 「無事かね?ヨハンナ」


 ジョシュアは能力を使ったままきいた。

 目はこちらに向けなかったが、彼の穏やかな声からは気遣ってくれているのがわかる。

 まるで聖人だ。

ヨハンナ達を助けてくれたのは、何とジョシュアとミハイルでした!

『黎明の魔王』の頃から読んで下さっている方は懐かしく感じたのではないでしょうか?

さて、次回はついにヨハンナ達もアイビー公園へ入ります!

引き続き、ぜひお読み下さい。

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