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デスタウン  作者: 天園風太郎
第1章 自由の夜明け
4/13

第4話 囁き

心の準備はよろしいですか?

それでは、どうぞ。

 侵入者の正体は、「どろぼうさん」でも、「おばけ」でもなかった。

 もちろん、まさかのリリディアでもない。

 トゥルーデが一目見て心惹かれてしまったある女性が、その侵入者だったのだ。

 だが、あの時、サイラスはその女性のことを「悪魔」と呼んだ。

 トゥルーデが理由をきくと、サイラスは簡単に説明した。

 写真に写っている彼女は、トゥルーデから見ていとこ大叔母にあたる女性ルシファー・キルス。

 彼女は皆から愛されるタイプで、演技の天才で、彼女のいとこ達と同じ特殊能力者でもあった。

 周囲は彼女のことを誇りに思っていたが、ある日突然彼女は皆を裏切り、行方不明になってしまったという。

 その上、彼女はある理由からトゥルーデの大伯父ジョシュアを逆恨みしており、彼と、彼が愛する家族を全員「消す」つもりとのことである。

 トゥルーデはその話を聞いて、彼女がとてもそんなことをする人物とは思えないと感じていた。

 だが、トゥルーデはまだ知らない。人は、見た目通りの性格とは限らないと。



 「え?ルシファー・・・・・・さん?」


 トゥルーデは目の前に現れた侵入者の正体にとても驚いてしまった。

 写真でしか見たことがなかった彼女が侵入者だったこともそうだが、彼女は写真のまま若々しく、まるでアルバムから出てきたかのようだったのだ。

 あの写真が撮られた日付は『2/11/1965』。撮影されてから27年経っているはずなのに。

 違う点があるとすれば、その眼差しだ。

 氷のように冷たく、人としての温かみを感じられない。


 「報いだと?」


 サイラスは呆れたように言った。


 「逆恨みも大概にしろ。ジョシュア伯父さんに相手にされなかったからって」

 「お黙りなさい」


 ルシファーは懐から光線銃を出した。

 カラフルな色で、拳銃のように片手で持つことができる小型のものだ。


 「なっ!?」


 サイラスはその形から拳銃だと思い、一瞬金属バットを振り上げた。

 しかし、拳銃ではないことがわかると、金属バットをゆっくり下に下ろした。


 「何の悪ふざけだ?」

 「ふざけているのはそっちでしょ?私は使命のために我慢して猶予をあげようとしたのに、あんた達は取引を断った。もうこうするしかないわ」

 「取引・・・・・・?あっ!」


 サイラスは心当たりがあったようだ。


 「あの迷惑な連中を工場に行かせたのは、お前だったのか!仕事を妨害するなんて!」

 

 トゥルーデはそれを聞いて思い出した。

 1か月前、工場におかしな集団がやって来て大変だったと両親が愚痴を言っていたことを。


 「もう仕事の心配をする必要はないでしょ?今夜、あんた達は3人とも、別の世界へ行くんだから」


 ルシファーは花のように美しい微笑みを浮かべて言った。

 しかし、表情とは反対に、口から出た言葉は死刑宣告そのものであった。

 サイラスは勢いよく金属バットを構えた。


 「やっぱり、逆恨みで殺す気か!聞いてた通り、悪魔だな!」

 「・・・・・・あんたの方こそ、父親のサイモンにそっくり。自分が一番まともだって顔をして、内心周りを見下している。サイモンもそうだった。だから、あいつはつまらない死に方をしたの」


 ルシファーはトゥルーデの祖父サイモンのことを侮辱しながら、指を動かして光線銃の側面の赤いボタンを3回連打した。

 すると、光線銃が不気味な緑色の光を放ち始めた。

 ルシファーは続けて言った。


 「今夜、あんたも同じ運命をたどるわ。もちろん、ベッドの後ろに隠れているそこの2人もね」


 それを聞いて、サイラスが黙っている訳がない。


 「お前・・・・・・!」


 彼はゆっくりと歩き始めた。

 

 カタンッ。


 破られたドアが横に倒れたタイミングで、サイラスはルシファーに向かって走り出した。


 「ここから、出て行け!」


 サイラスは一瞬でルシファーの間合いに入り、彼女の頭に金属バットを素早く振り下ろした。

 ルシファーは少々驚いたものの、冷静に片手で金属バットを受け止めた。

 だが、受け止めても、サイラスは力を緩めない。それどころか、どんどん金属バットに力を入れ続けている。


 「何て奴・・・・・」


 ルシファーの腕から痛々しい音が鳴る。

 サイラスの力は、予想以上だったようだ。


 「俺は家族を守るっ!!お前みたいな奴に負けてたまるかぁああーっ!!」


 サイラスは叫びながら全体重をかけ、金属バットに全ての力を入れていく。

 重くなっていく金属バットに冷や汗をかいたルシファーはもう片方の手に持った光線銃でとっさにサイラスの腹部を狙った。


 「調子に乗るな。虫ケラが・・・・・・!」


 ルシファーは引き金を引いた。


 ピューンッ!!


 一瞬寝室が緑色の光に包まれ、奇妙な音が鳴り響いた。

 その直後、金属バットがカランッと床に落ちた。

 サイラスは突然動かなくなり、彼の体からボトボトッと血が流れる音がした。

 トゥルーデは嫌な予感がした。


 「とう・・・・・・さん?」


 トゥルーデが小声で呼ぶと、サイラスはゆっくりと振り返った。


 「トゥルー・・・・・・デ」


 サイラスは愛娘の名前をつぶやくと、吐血してその場に倒れこんだ。

 トゥルーデはそれを見てパニックになり、泣き叫びながら父のもとへ向かおうとした。

 しかし、セシリアは鍵をかけるようにトゥルーデをガシッとバックハグしたまま離さない。


 「ごめん、ダーリン」


 セシリアの頬を涙がつたう。


 「さてと。2人とも、大人しく出て来なさい。せめてもの慈悲で、頭を撃ち抜いてあげる」


 ルシファーはベッドの方を向き、勝ち誇った笑みを浮かべた。

 やはり、気づいていやがる。


 「ク・・・・・・ッ!」


 セシリアはトゥルーデと頭を引っこめると、片手で素早く枕を取った。

 ルシファーはそれを見て、首をかしげた。

 セシリアはその隙をつき、再び顔を出してルシファーの顔面に枕を投げつけた。

 ルシファーは一瞬固まったが、すぐに枕を払いのけた。


 「フンッ!」


 しかし、払いのけた直後、ルシファーの目の前にはトゥルーデを抱えたセシリアが迫っていた。


 「食らえ、膝蹴り!」


 セシリアはベッドに飛び乗り、勢いよくルシファーの顔面に膝蹴りを入れた。

 ルシファーの美しい顔は一瞬苦痛に歪む。


 「うげぇえっ!!」

 「今!」


 セシリアはルシファーが痛がっている間にベッドを降り、出口へ走った。

 だが、ルシファーは彼女達を逃がすつもりはない。

 また寝室が緑色の光に包まれ、あの奇妙な音が鳴り響いた。


 ピューンッ!!


 セシリアは徐々に走る速度が遅くなり、しばらくしてその場に倒れてしまった。

 倒れる瞬間仰向けになることで、トゥルーデが下敷きになることは防いだが、このままではトゥルーデまで撃たれてしまう。

 セシリアの体に空いた穴からは血が流れ、床は赤く染まっていく。


 「かあ・・・・・・さん?かあさん。かあさん!」


 トゥルーデは目の前の現実を受け入れられず、セシリアを揺さぶった。

 セシリアはトゥルーデの方を向いた。


 「逃げ・・・・・・、トゥルーデ」


 セシリアの身体は早くも限界に近づいていた。

 更にタイミングの悪いことに、ルシファーがトゥルーデの背後に近づいてきた。


 「鬼ごっこはもうおしまいよ。これで今度こそ、サイモンの血を引く連中は死に絶える」


 血も涙もないような嫌な言葉。

 トゥルーデは恐る恐る振り向くと、そこには顔を片手で押さえながら、指の隙間から冷たい眼差しをこちらに向ける「悪魔」が立っていた。


 「蹴られちゃったせいで、頭がクラクラするわ。うっかりお腹に穴を空けてしまったじゃない。運が悪かったわね」


 ルシファーはもう片方の手に持った光線銃でトゥルーデの眉間を狙った。


 「今度こそ、楽に殺してあげる。さようなら、サイモンの孫娘」


 彼女はにんまりと笑って引き金を引こうとした。

 その時!


 「やめ、ろぉおーっ!!」


 ルシファーの背後から、倒れていたはずのサイラスが覆い被さってきた。

 サイラスは元々タフな方だ。

 ルシファー本人がサイラスのタフさを侮り、死亡を確認しなかったことが彼にチャンスを与えたのだ。


 「な・・・・・・!?」


 ルシファーはサイラスの底力に恐怖し、必死に振り払おうとした。

 しかし、サイラスの体重はゆっくりとルシファーにかかっていく。


 「今の内、逃げ、ろ」


 サイラスは血まみれになりながらルシファーを羽交い締めして言った。

 トゥルーデは首を振った。


 「いやだ!いやだよ!3にんでにげよう?」


 こんな状態の両親を置いて自分だけ逃げるなんて、トゥルーデにはできない。

 しかし、その優しさは、2人を救えない。


 「ゾンビもどきが、私に触れるな・・・・・・!」


 ルシファーは汚い言葉を使うと、震えながらサイラスの顎に光線銃を突きつけた。


 「トゥルーデ、はや」

 「消えなさい」


 サイラスは何かを言おうとしたが、ルシファーはそれを待たずに引き金を引いた。

 緑色の光が寝室を包み、あの奇妙な音が鳴り響いた。


 ピューンッ!!


 それとほぼ同時に、サイラスの頭の中身が寝室の天井に飛び散った。

 そして、サイラスの身体はバタリと倒れ、頭からは血があふれ出した。

 トゥルーデはその悪夢のような光景を目にして、再び泣き叫んだ。


 「いやあああああああぁぁぁーっ!!!!」


 だが、これが現実だ。

 父は、もう二度と戻ってこない。


 「うるさいなぁ。次はあんたの番だから、落ち着いて?」


 ルシファーは、またトゥルーデの眉間に狙いを定めた。

 しかし、その時、パトカーのサイレン音が近づいてきた。


 「チッ」


 ルシファーは低く舌打ちをすると、光線銃をしまった。


 「そこの2人が暴れたせいで時間切れだわ。私って、いつもついてない」


 不快な言葉を吐き続けるルシファーをよそに、トゥルーデは泣き崩れた。

 父が目の前で殺されたショックと悲しさで、気が狂いそうだった。

 ルシファーはそんな彼女のそばに来て膝をつくと、耳元で囁いた。


 「また来るわね♡」


 ルシファーはそれだけ言うと、立ち上がって寝室から出て行った。

 残されたトゥルーデはわずかな希望にすがり、セシリアの腹部に空いた穴を必死に押さえたが、既に手遅れだった。

 トゥルーデは、セシリアの目から光が消えていくのをただ見ていることしかできなかった。

まだ悲劇は続きます。

トゥルーデは、果たして乗り越えられるでしょうか?

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