第37話 悪魔が生まれた日
ルシファーは静かなままです。
何故でしょうか・・・・・・?
「いつかあの災いが起きると予想していたからだ」
ジョシュアから特殊能力についてきかれたアースマンはそう言った。
使命を果たすために父親達から与えられたものなのではないかと疑っていたジョシュアは、目を丸くした。
「え??」
アースマンは自分達が与えたとあっさり認めたが、理由は違っていた。
「どういうこと?あの災いって、この前のあれか!?」
「そうだ。私達以外の種族もこの惑星に来ているから、いつかあのウイルスが持ち込まれてあんなことになるのではないかと予想した。だから、遺伝子操作して2人に特殊能力を与えた」
アースマンがそう言うと、ダークンが言った。
「ルシファーのは私が」
ジョシュアとサイモンは更に驚いてしまった。
当時はまだ遺伝子操技術が発展する前の時代。
そんな時代に遺伝子操作をしていたと言われるのだから、当然である。
アースマンは詳しい説明をした。
「地球人は自分達と見た目が違う存在を怖がると聞いていたから、遺伝子を掛け合わせた後、見た目を地球人・・・・・・、レイラやローレルに似せた。その際に兄からあのウイルスの話を聞いたのだ。それで、災いを予想した私達は君達に特殊能力を与えた。3人の能力には、それぞれ名前があってね・・・・・・」
彼の説明によると、遺伝子操作でジョシュア達に与えられた特殊能力は、それぞれ以下の名前のようだ。
〇『ゾンビキング』・・・・・・ジョシュアの特殊能力。ゾンビを操る力。
〇『グレートウォーリアー』・・・・・・サイモンの特殊能力。自分の身体能力を強化することができる力。
〇『エンプレス』・・・・・・ルシファーの特殊能力。自然血族以外の人間を精神操作で操る力。
それらの大きな力を、使命のためではなく、別の理由で与えたというのか?
説明を聞いた後、ジョシュアはきいた。
「使命のためではないってこと?」
「当たり前だ!君達に生きてほしいからやった!」
ジョシュアはアースマンの言葉を聞いて、胸を打たれた。
「ほ、本当に?」
「本当だ。私と兄は、使命を果たす『選ばれし子ら』を創造するためにレイラとローレルに近づいたが、彼女達と過ごす内に、彼女達のことも、この惑星のことも、君達のことも愛おしくなってしまったのだ。だから、こうした」
アースマンはジョシュアの目をまっすぐ見てきた。
彼の言葉に嘘はなかった。
しかし、サイモンは納得できなかったようで、厳しい質問をした。
「じゃあ、何で今まで助けてくれなかった?」
アースマンは静かに答えた。
「皇帝陛下からあまり干渉するなと命令されたからだ」
「皇帝?」
サイモンは目を丸くした。
「皇帝って、あなたの故郷の?」
「いいや。私の故郷を征服して植民地にしたお方だ」
「え!?」
「私達兄弟は王家の血を引いていたからすぐに殺されるはずだった。だが、陛下は私達を殺さず、故郷に高度な自治権を与えてほしければ、地球を征服せよと使命を与えた」
アースマン達は好きでこんなことをしている訳ではなかった。
そのことを知ったジョシュア達は、黙ってしまった。
加害者側の市長達と取引をしたばかりだったからだ。
アースマン達にも、そうしなければいけない事情があったのだ。
アースマンはため息をついた。
「私も、本当は君達を助けに行きたかった。しかし、この宇宙では、陛下の命令は絶対だ。逆らえば、どんな恐ろしいことが待っているかわからん。君達をこれ以上酷い目に遭わせないためにも、遠くから見守ることしかできなかった」
「・・・・・・」
「でも、あの最悪な流行が始まった途端に、何故か『使命のために子供達に接触しろ』と許可が出た。こんな話をいきなりするなんて、私もどうかと思う。だが、この地球を、愛する人達が住むこの星を、私達の故郷と同じような地獄にしないためにも、君達に頼みを聞いてもらうしかなかった。本当にすまない」
サイモンはしばらくして口を開いた。
「やっぱり、あなたのことは許せない」
「サイモン」
ジョシュアは止めようとしたが、サイモンは罵ろうとした訳ではなかった。
サイモンは言った。
「でも、事情はわかった。安心して。僕達も大切な人達が住むこの惑星のために全力を尽くす」
「サイモン・・・・・・!」
アースマンは涙を浮かべていた。
その後、ジョシュア、サイモン、ルシファーの3人へ、1人1冊ずつアルバムが渡された。
青い表紙のアルバムで、『我が一族のアルバム』という共通したタイトルがあり、その後ろには、それぞれのファーストネームのイニシャルも書かれている。
それを開くと、写真は貼られておらず、真っ白だった。
アースマンは、「これから思い出を増やしていこう」と言っていた。
ジョシュアは複雑な気持ちだった。
ロンの手伝いがあるため、教会の後ろに降ろしてもらったジョシュア達は息をついた。
「上手くいったな。サイモン」
「うん」
「・・・・・・」
ジョシュアとサイモンは笑顔で話をしたが、ルシファーはずっと暗い顔で黙ったままだった。
ジョシュアはそれに気づくと、ルシファーにきいた。
「ルシファー、大丈夫か?」
「大丈夫・・・・・・じゃないかも」
「え?」
「私、お母様達を守れるかな?」
「もちろんだ。ルシファーは、ルシファーが思っている以上にすごい奴だからな!自信を持て!」
「う、うん!」
ルシファーはやっと笑顔を見せた。
ジョシュア達3人は、教会に入った。
その頃、デスタウンが政府と取引したことにより、捕まったゾンビ達は、ジョシュア達が拘束した者達も含めて全員政府に渡され、デビルズランドから軍は撤退していた。
デスタウンの市民達は大喜びしたが、まだ問題が残っていた。
それは、キルス教徒やソドム区住民への迫害が中止されるかどうかだった。
結論から言うと、迫害は止まらなかった。
それまで行われていた進学や就職の制限はなくなり、本当に迫害が中止されるかと思われたが、「ゾンビを生み出したのはキルス教かキルス家だったのではないか」という陰謀論が広がったことで、違った形での迫害が続いたのだ。
嫌がらせ、差別的な暴言、暴力。
それらの行為がずっとキルス教徒やソドム区住民を苦しめ続けた。
更に、ウイルスが流行した際にゾンビの体をかじっていたネズミや犬がゾンビ化し、ゾンビを増やしていくと、一部のドゥールー教徒はソドム区へ恐ろしい攻撃を始めた。
ゾンビの死体やゾンビネズミをソドム区の学校に投げ込んだのだ。
ジョシュア、サイモン、ルシファーの3人は、アースマン達の宇宙船でほぼ毎日訓練を重ねながら、ドゥールー教徒の攻撃からソドム区を守るために行動した。
最初は大作戦の時のように疲れてしまうことが多かったが、数か月経つ頃には問題なく動き続けることができるようになった。
また、アースマン達がレイラ達を守ると誓い、実際にドゥールー教徒のグループが襲撃してきた時に彼らを撃退してくれたため、安心して集中することができた。
いつからか、ジョシュアは父親達を信用するようになっていった。
やがて、問題なく迫害者達を撃退することができるようになったが、別の問題が起きた。
ルシファーが変わり始めたのだ。
冬のある日、いつものように襲撃者達が小学校を襲ってきたので、ジョシュア達は駆けつけ、防衛したのだが・・・・・・。
「やめろ、ルシファー!!もういい!」
「・・・・・・」
ルシファーは防衛に成功した後も襲撃者への攻撃をやめず、別の襲撃者を操って彼らを全滅させようとしていた。
ジョシュアとサイモンはルシファーを止めようと肩をつかんだが、彼女は力を使い続けていた。
2人は力尽くで止めるか悩んだが、その直後、後ろの壁に隠れて見守っていたローレルが彼女に抱きついて止めてくれた。
「ダメ!!」
「お母様?」
「今すぐやめて!」
「はい」
ルシファーは能力を解除した。
それと同時に襲撃者達は情けない悲鳴を上げて逃げて行った。
「ルシファー、あなたらしくないやり方ね。どうしたの?」
「私もお母様達を守れるってところを見せたくて・・・・・・。それに」
「それに?」
「お父様が昨日仰ったんです。襲撃してくるような奴らは恩知らずなクズで虫以下の存在だから、殺しても構わないって」
「え・・・・・・?」
ローレルは目を丸くしたが、ジョシュアも驚いてしまった。
ダークン、あの男、何てことを教えたんだ!?
「私、いけないことをしましたか?」
「・・・・・・ルシファー。いつも私達を守ろうとしてくれて本当に感謝している。でも、可能ならあなたには人を殺してほしくないかな」
「何故です?教えのルールを破ることになるから?」
「それもあるけど、ルシファーが大切だから、そんなことしてほしくないの!」
「・・・・・・わかりました。殺さないように頑張ります」
ルシファーがそう言うと、ローレルはニコリと笑った。
「約束よ!」
ルシファーとローレルは抱き合った。
ルシファーが危ない方へ行きそうになったのをこの時は止められた。
いや、止めてもらえた。彼女の母ローレルに。
ジョシュアは、後でダークンに「ルシファーに変なこと吹き込まないで下さい!!」と言うことしかできなかった。
ルシファーはローレルに止められてからは特にそういうことをしなくなった。
その時は問題は解決したと思ったのだが、それから更に数か月後。
ルシファーを完全に変えてしまうような事件が起きてしまった。
1959年10月30日。
ゾンビへの対処のルールや、ゾンビを操る者への義務を定めた「対ゾンビ関連条例」が成立したのとほぼ同じ時期に、その事件は起きた。
花屋の店長をしていたローレルは早朝に開店準備をしていたが、その時、デビルズランドから来た脱獄犯に包丁で殺害されてしまったのだ。
脱獄犯は薬物中毒の危険人物で、デスタウン市民を逆恨みしていたが、そんな人物が侵入してもデスタウンはソドム区を守らなかった。
その後、自警団によって犯人は捕まった。
ルシファーは、母の死を知って取り乱した。
父親達は、「皇帝」に呼ばれていたせいでそれを止められなかったと、後から知らされた。
しかし、それは本当なのだろうか・・・・・・?
アースマンはわざとローレルを見捨てることはしないだろうが、彼の兄はどうだろう?
証拠はないが、ルシファーに吹き込んだことを考えれば、十分怪しい。
ジョシュアはそう考えながらも口には出さず、静かにルシファーに寄り添った。
11月にローレルの葬儀が行われた。
ルシファーは葬儀が始まるまでずっと泣いていたが、葬儀中は静かだった。
彼女の眼差しからは本来の温かさが消えて、氷のような冷たさしか感じられなくなった。
別人を演じているというより、ジョシュアが知っている彼女ではなくなってしまったようだった。
葬儀が終わると、ルシファーはジョシュアの方を向いた。
「ジョシュア。私は、悪魔になるわ」
彼女からそう言われた時は、意味がわからなかった。
しかし、今は・・・・・・。
とうとう悪魔が誕生してしまいました。
ここから3人の運命は狂っていきます。




