第36話 使命
ジョシュア達の戦いが始まります。
大作戦当日。
ジョシュア達ソドム区出身者で構成される部隊「ソドム義勇隊」は、ゾンビが多い通りや、ゾンビが占領している建物を回ってゾンビを拘束していき、市庁舎前の広場に運ぶという任務を与えられた。
全員ドゥールー教徒だった警察の部隊と連携してゾンビ達を捕まえていくことになっていたが、彼らからは一方的に敵視されていたため、ジョシュアは正直難しいのではないかと感じていた。
しかし、やるしかない。
最善を尽くさなければ、皆死んでしまう。
作戦開始の合図で太鼓が鳴らされると、ソドム義勇隊は早速動いた。
回った通りや建物でゾンビ達を包囲し、特殊能力を使って動けなくした上でロープで拘束していった。
そして、ゾンビ達を広場までトラックで運んだ。
ゾンビの数が多すぎるところは無線で警察を呼び、力を合わせた。
意外なことに警察の部隊から酷いことはされず、そんな余裕がない位危険な状況であることがわかった。
ある程度順調だったが、ピンチになることも少なくなかった。
ジョシュアの特殊能力が効くのは視界に入っているゾンビだけで、見えない場所から飛びかかってきたゾンビに反撃するのが遅れてしまうこともあった。
また、何度もゾンビを操っているせいで疲れてしまい、時間が経つにつれて集中力が切れてしまうことも多くなっていった。
その度にゾンビがすぐ暴れ出し、慌てて止めるということもあった。
しかし、仲間達、特にサイモンやルシファーが持っていた棒でゾンビ達を叩いてくれたおかげでそれらのピンチから救われた。
そういう戦いを続けている中で、不思議なことが起きた。
サイモンやルシファーにも、特殊能力が目覚めたのだ。
サイモンの力は、「自分の身体能力を強化することができる特殊能力」。
ジョシュアに飛びかかってきたゾンビを捕まえ、投げ飛ばそうとした時に覚醒した。
そして、ルシファーの力は、「自然血族以外の人間を精神操作で操る特殊能力」。
屋根の上から落ちてきたゾンビの下にいた仲間の1人にとっさに「避けて!」と叫んだ時、覚醒した。
ルシファーの場合は相手が視界に入らなくなっても集中力が続いていれば力を使い続けることができるようで、彼女に操られた人物は遠くでも指示通りの行動をしていた。
この大作戦での戦いを通してサイモンとルシファーも覚醒した訳だが、ジョシュアはこれが偶然とは思えず、何か恐ろしいものを感じた。
大作戦は早朝から日没まで続き、ダミー区の高校に侵入していた最後のゾンビを捕まえたところで作戦成功の合図で再び太鼓が鳴らされた。
大作戦が成功したことを知り、街中が喜びに包まれた。
負傷者は少なくなかったが、幸いにも犠牲者は出なかった。
ジョシュアは仲間達と抱き合いながら、周りの光景を眺めた。
キルス教徒も、ドゥールー教徒も、異教徒も涙を流して喜んでいた。
(普段から皆仲良くすれば良いのに)
ジョシュアはそう思った。
解散してソドム区に帰ると、ロンをはじめとしたキルス教の聖職者達や、多くの住民が拍手してくれた。
その直後、レイラとローレルがジョシュア達に駆け寄ってきた。
レイラはジョシュアとサイモンを、ローレルはルシファーをギュッと抱きしめた。
「「母さん!?」」
「お母様!?」
ジョシュア達は突然抱きしめられて驚いたが、母親達が肩を震わせて泣いているのを見て、どれだけ心配されていたか気づいた。
最善だとわかっていても、心の中では行かせたくなかっただろう。
「大丈夫だよ。大丈夫」
ジョシュアはそう言った。
翌朝、ジョシュアとサイモンは目を覚ました。
帰ってすぐに寝たおかげで、疲れが取れた。
「「おはよう」」
ジョシュアとサイモンはベッドから降りて靴を履くと、リビングへ向かった。
朝食の準備をしなければ。
やっと、いつもの日常が戻ってきた。
ジョシュアはそう思った。
しかし、リビングに入ると、ジョシュアとサイモンは目を丸くした。
「「なっ!?」」
リビングには、何と明らかに普通の人間ではない人物がいたのだ。
灰色の肌、大きく黒い目、白い瞳、そしてスラリとした体形の体。
何故か地球のスーツを着ている。
立派な髭と髪がないところ以外は光の神リベルルに似ている。
その人物は、レイラの隣に立っていた。
「母さんから離れろ!!」
「クズが」
神に似ている相手だが、母の安全のため、ジョシュアとサイモンはとっさに構えた。
すると、レイラが慌てて止めた。
「ま、待って!!この人は敵じゃないよ!!」
「どういうこと?」
「えっとね、この人は・・・・・・」
レイラが説明しようとすると、その神に似た人物が彼女の肩に手を置いた。
「レイラ、私が話す」
「わ、わかったよ」
「ありがとう」
その人物は、ジョシュアとサイモンの方を向いた。
「私は、アースマン・リベルル。君達の父親だ」
ジョシュアとサイモンはその言葉に衝撃を受けた。
「は?ええ??」
「う、嘘だ。母さん、嘘だよね?」
サイモンがきくと、レイラは首を振った。
「嘘じゃないよ。彼が、ジョシュアとサイモンの父さんだ」
ジョシュアとサイモンは動揺した。
母を疑う訳にはいかない。
しかし、突然そんなことを言われても・・・・・・。
「気持ちはわかる。でも、事実なんだ」
レイラは2人を見て言った。
ジョシュアとサイモンは、母の眼差しを見て、結局受け入れた。
ジョシュア達は朝食を作ってテーブルに並べると、4人で椅子に座り、お祈りをした。
そして、朝食をとりながら、父アースマンから詳しい話を聞いた。
「それで?あなたは何故今更ここに?」
サイモンがきくと、アースマンは答えた。
「君達にあることを頼みたいから来た」
彼がその後語ったことは、衝撃的なものだった。
アースマンと仲間達は、とある使命を与えられて、遠い惑星から地球へ来たという。
その使命とは・・・・・・、「地球征服」。
武力侵攻による植民地化を嫌うアースマン達は、傀儡の組織を利用して内部から征服する方法を選び、その中心となる者達を「創造」することにした。
その使命のために創造されたのが、ジョシュア、サイモン、そしてルシファーの3人だったのだ。
ジョシュアとサイモンは再び動揺した。
「俺達が生まれたのは、地球征服に利用されるためだった・・・・・・!?」
「やっぱり、クズじゃん」
「そ、そのことをルシファーにも話した?」
ジョシュアがきくと、アースマンはうなずいた。
「ああ。今頃兄が話しているはずだ」
「兄?」
「私の兄ダークン・リベルルだ。ルシファーにとっては、実の父親だな」
「ルシファー・・・・・・」
ジョシュアはルシファーを心配した。
突然「実の父親」を名乗る男が家に現れ、訳がわからない話を聞かせてくるのだ。
怖くなって泣いてしまっているのではないか?
そう思いながら、ジョシュアはアースマンの目を見た。
「わかった。つまり、地球征服を一緒にやってほしいってことか」
「そうだ」
「ふざけるなっ!!」
突然サイモンが叫んだ。
「今まで母さん達を放っておいて、何が使命だ!!」
「サイモン」
「帰れっ!!二度と戻ってくるな!!」
「サイモン!!」
ジョシュアはサイモンを叱った。
サイモンの気持ちはわかるが、止めないといけないと考えたのだ。
ジョシュアはアースマンに、「もう少し考える時間がほしい」と伝え、1週間待ってもらうことにした。
そして、朝食が終わった後に帰ってもらった。
サイモンは怒った。
「兄さん!何で止めた!?」
ジョシュアは冷静に言った。
「母さん達が人質に取られているようなものだからだ。ここで騒げば、あの男は母さん達に何をしただろうか?今は大人しくするしかない」
「・・・・・・!確かに」
サイモンも、ジョシュアの話を聞いて冷静になった。
ジョシュアはため息をついた。
「それに、ルシファーのことも心配だ。泣いているかもしれない」
「そ、そうだな。一度見に行くか?」
サイモンがそうきくと、ジョシュアはうなずいた。
「ああ。母さん、行ってくる」
「ええ・・・・・・」
レイラは複雑そうな表情で息子達を見つめていた。
ジョシュアはサイモンと一緒にルシファー達の家を訪れた。
しかし、泣いている声は聞こえない。
ルシファーに会うと、彼女の顔が別人のようになっていた。
「ル、ルシファー。大丈夫か?変な人が来ただろう?」
「大丈夫。大丈夫だよ」
ルシファーはニコリと笑った。
「大丈夫な訳ないだろ。父親を名乗る男が家に侵入してきたっていうのに」
サイモンはそう言った。
「サイモンも、いや、2人も、お会いしたの?」
「ああ」
「そう・・・・・・」
「ルシファー、何があった?」
「お父様を名乗る人がいらっしゃったから、おもてなししたの。その時に、使命のことを教えてもらった」
ジョシュアはきいた。
「ルシファー、お前、使命を果たすつもりか?」
「どうしよう。わからない。でも、使命を果たさなかったら、お母様達は・・・・・・!」
ルシファーは目に涙を浮かべた。
やはり、我慢していたようだ。
ジョシュアはため息をついたが、その直後、あることを思いついた。
「使命を果たすふりをしよう。今の俺達は、ゾンビ達を捕まえるのが限界で、母さん達を守れるほど強くない。だから、一旦従うふりをして、力をつけるんだ。どうだ?」
ルシファーの「演技」を見て思いついたことだった。
サイモンとルシファーはそれしか良い方法はないと考え、うなずいた。
あの日、使命を果たすふりをすると決めたが、罪のない人を傷つけるつもりは全くなかった。
ジョシュアは、サイモンやルシファーと一緒に話し合い、こうすることにした。
警備会社を設立して、それぞれの特殊能力を活かして規模を大きくし、平和的に「征服」する・・・・・・。
世界各地で戦争が起きている上に、いつ外の世界にもゾンビが現れるかわからない時代。
ジョシュア達のような「力」を持った者達が中心の警備会社なら、すぐに使命を果たすことができただろう。
ここまで決まったところで、ジョシュアはふと思った。
自分達の特殊能力が目覚めたのは、こうさせるためなのかと。
特殊能力は「リベルル様からの贈り物」ということになっていたが、父親達が進んだ文明の異星人だとわかった以上、疑わない訳にはいかなかった。
ジョシュアは、頼みを聞くことを伝えた後にアースマンに直接きいてみることにした。
1週間後、ジョシュア、サイモン、ルシファーの3人はリベルル兄弟の宇宙船に連れて来られた。
ジョシュアが代表して「頼みを聞く」と伝えると、アースマンは微笑んだ。
「良かった。本当に・・・・・・」
「そうだな」
アースマンの隣の男性がうなずいた。
男性の身長は約2m超えで、白地に向日葵色の美しい刺繍が施された服を着ていた。
彼はアースマンと顔が似ており、アースマンから「兄」と紹介された。
彼が、ルシファーの父ダークン・リベルルだ。
「本当に良かった。無駄にならなくて」
ジョシュアはダークンの言葉に嫌なものを感じたが、その時は指摘しなかった。
その後、彼はアースマンに特殊能力のことをきいた。
ルシファーは、まだ変わっていないように見えます。
しかし、これから・・・・・・。




