第33話 ソドム・ハンマー
ついに、ソドム区へ!
今はどんな感じなのでしょう?
リリディアはヨハンの部屋に向かった。
死なれたら困るから、何が必要かきかなければ。
リリディアはヨハンの部屋の前に立ち、ドアをノックした。
トントン。
「おーい、開けるぞ」
「あががが!!ンゴォぁあああっ」
中から聞こえてきたのは、返事ではなく、人間とは思えないような奇声。
リリディアは急いでドアを開けた。
「大丈夫か、ヨハン!?」
「ががががががっ!!」
ヨハンは椅子と一緒に震えていた。
リリディアはヨハンに駆け寄った。
「一体、どうした!?」
「ハ、ハエ!ハエがぁああああ!!」
「ハエ?口に入ったのか!?クソ!」
リリディアはロープを解いて、何度もヨハンの背中を叩いた。
すると、ヨハンの口からハエが出てきて、どこかへ飛んで行った。
リリディアは息をついた。
「フ~・・・・・・。危なかったな」
「ゲホゲホ!・・・・・・その、ありがとな」
ヨハンは落ち着くと、リリディアにお礼を言った。
リリディアは目を丸くした。
「あ、ああ。ところで、何か必要な物はあるか?」
「俺の携帯を・・・・・・。あと、パンも」
「携帯とパン、な。どうする気だ?」
「職場に、今日は休むと・・・・・・。その後、パンを食う」
「そうか。わかった。持ってきてやる」
お仕置きの時に、ヨハンの物がどこにあるのかはもう聞いてある。
見つけるのは簡単だ。
リリディアはキッチンに行ってパンを出すと、それを持ってヨハンの部屋に戻り、携帯電話も棚の上から取ってヨハンに渡した。
「ほらよ」
「すまないな」
「あ、そうだ」
リリディアはヨハンの携帯電話を見て、思いついた。
「後で、携帯を貸してくれ。親父にかける」
「ジョシュア・キルスに?」
「ああ。会って、話したいことがあるんだ」
「・・・・・・わかった」
ヨハンはうなずくと、早速電話をかけた。
リリディアはヨハンが職場に連絡するのを、静かに見つめた。
ヨハンは狂った男だ。
しかし、彼は生まれた時からこんな男だったのだろうか?
この街の闇は、どこまでも深い。
エプロンの洗濯も終わり、ついに時間になった。
ソドム区へ瞬間移動する時だ。
リリディアは地図を持って、リビングに入った。
「ダミアン、大丈夫そうか?」
「はい。問題ありません」
ダミアンはそう言って、ソファから降りた。
「行きましょう。ソドム区へ」
「ああ。頼むぞ」
ダミアンはローブのポケットから、杖・・・・・・ではなく、方位磁針を出して手のひらにのせた。
リリディアは地図を彼に見せた。
ただの地図ではない。
1992年に作られた地図だ。
ヨハンが広報部の副部長だった時に買ったらしい。
「外の世界にあるのは1950年代の古いやつばかりだからな。最近のやつがここにあって良かった!」
「この南東部の地区が、ソドム区ですよね?」
「そうだぞ。そして、その地区の真ん中にロン大聖堂がある。だが、人目を避けるため、近くの空き地に瞬間移動してもらう。その後、大聖堂前の広場『キルラ広場』に向かうぞ」
「中には入らないんですね」
「・・・・・・ああ。俺は人を殺しちまったからな」
「リリディアさん・・・・・・」
「良し!イメージできたか?」
「は、はい」
ダミアンは目をつぶった。
瞬間移動には、これから行く場所のイメージと、十分な魔力が必要になる。
今回は、問題ない。
「リリディアさん、そろそろ」
「わかった!」
リリディアは地図を畳んでポケットに入れると、ダミアンの肩に手を置いた。
そしてもう片方の手で、上着の胸ポケットに入れていたサングラスを出し、顔にかけた。
「後は、そうだ!ヨハン!」
リリディアはヨハンの部屋がある方を向いた。
「ヨハン!!ローブは解いてやっただろう?しばらく屋敷で待っていろ!!」
「あ、お・・・・・・」
リビングの外から、不気味な声が聞こえてくるが、返事とは言えない。
リリディアは更に大声を出した。
「返事は!!?」
「は、はい!!」
今度はちゃんと返事が聞こえた。
リリディアは満足そうにうなずくと、再び前を向いた。
「始めてくれ!」
「はい!」
ダミアンは呪文を唱えた。
「スペス・スペース・スペペペス。望む場所へ!!」
その直後、真っ白な光が周りを包み、リビングが見えなくなった。
そして気づくと光は消えて、空き地に立っていた。
リリディアはつぶやいた。
「久しぶりだな・・・・・・」
ここは11年前、研究施設から脱走したゾンビ達を巨大な落とし穴に落とした場所だ。
ゾンビ達の脱走は、キルス教徒を逆恨みする過激派グループ・アーラのテロが原因だったが、リリディアが率いるアルバイト部隊の活躍により、ゾンビ達は捕獲された。
その際、リリディアと仲間の1人は、空き地にあった落とし穴に、脱走したゾンビ20体の内9体を落としたのだ。
現在は落とし穴はなくなり、普通の空き地と変わらないが、この風景を見ていると、懐かしさを感じる。
しかし、今は懐かしんでいる場合ではない。
リリディアはダミアンを偽名で呼んだ。
「デビルズ。すぐ移動するぞ。きついと思うが、頑張れ!」
「は、はい。リッチーさん」
ダミアンは返事をした後、方位磁針をポケットにしまった。
空き地から大聖堂までの距離は10m。
つまり、急いで歩けば、すぐにキルラ広場に着くのだ。
2人は歩き出した。
しかしその次の瞬間、
バンっ!!
と背後から銃声が響いた。
リリディアはとっさにダミアンを抱きしめ、地面に伏せた。
「ダ、じゃなかった!デビルズ!大丈夫か!?」
「はい!!あ、ありがとうございます!」
ダミアンはお礼を言った。
リリディアは状況を確かめるため、少し顔を上げた。
すると、目の前の壁に銃痕ができているのが見えた。
彼は目を丸くし、ふと後ろを向くと、そこには高級スーツに身を包んだ男性が拳銃をこちらに向けて立っていた。
男性は黒髪で、サングラスをかけている。
「不思議な光が見えたので来てみれば、面白い方と出会えました」
「お、お前は?」
「動くと撃ちますよ?大人しく待っていて下さい」
男性はリリディアと会話しようとせずに、もう片方の手を懐に入れて笛を出し、それをピーッと吹いた。
その直後、武装した男達がぞろぞろと現れ、リリディアとダミアンを包囲した。
「よくやった。やはり、お前が一番役に立つ」
男達の中から、スキンヘッドの男性が現れ、先程の高級スーツの男性に言った。
「ありがとうございます。ボス」
どうやら、このスキンヘッドの男性が集団のボスらしい。
彼は黒いジャケットの下に赤シャツを着ており、左耳だけにピアスをしている。
スキンヘッドの男性、いや、ボスはリリディアの方を見た。
「初めましてだな。リリディア・キルス」
「・・・・・・は?俺はそんな名前じゃないが?俺はリッチー・ヒルだ」
「とぼけるのが上手いな。キルス家の奴は!まあ、良い。俺はリヴェラーナ。この地区のマフィアであるソドム・ハンマーのボスをしている」
ボスはリヴェラーナと名乗ると、側近達の紹介も始めた。
「もう会ったと思うが、隣のこいつはデスティニー。唯一まともで、役に立つ俺の側近だ」
「デスティニーです。お見知りおきください」
デスティニーはリリディアにお辞儀した。
リヴェラーナは紹介を続けた。
「次にラリー。こいつは・・・・・・」
その途中で突然、顔に複数の傷跡がある男性が飛び出してきた。
彼は、人々が火の中にいるデザインのシャツを着ている。
「お前、強そうだなっ!俺とバトルしろぉおおおおおーー!!!」
「・・・・・・こういう奴だ」
リヴェラーナはため息をついた。
いつものことらしい。
リリディアはしばらく話を聞いていたが、少し経ってから口を開いた。
「リヴェラーナ。何故突然紹介を?」
「リヴェラーナ『様』だ。様をつけろ」
「なあ、リヴェラーナ」
「・・・・・・ハア。お前は、知らない奴らに突然どこかへ連れて行かれることに不満はないのか?あるだろ?だから、俺達がこうして・・・・・・」
「は!?意味がわからん」
リリディアは首を振った。
しかし、別のことはわかっていた。
「待てよ・・・・・・。連れて行く?どこへだ??」
「教える訳ないだろ、バカが」
リヴェラーナは苛立ちながらしゃがむと、リリディアの髪をつかんだ。
「良いから黙って従え」
彼の目は、図鑑で見た恐竜のようだった。
美しいが、恐ろしい。
「ボス。彼のサングラスを取って、本人か確かめては?そうすれば、彼もとぼけられなくなるでしょう」
「おお、デスティニー!さすがだな。そうしよう!」
リヴェラーナはリリディアの髪を離して立ち上がると、デスティニーの提案にうなずいた。
リリディアは何か言おうとしたが、その直後、突然サイレンが聞こえてきた。
すると、ソドム・ハンマーの構成員達の顔色がみるみる変わっていく。
「管理局だぁ~!逃げろ!」
大半の構成員は包囲をやめ、逃げ惑った。
それを見たリリディアはニヤリと笑った。
(これはチャンス)
リヴェラーナは叫んだ。
「バカ!こいつらを連れて行くんだ!せっかくのチャンスなのに!」
「おい」
リリディアはゆっくり立ち上がった。
そして、リヴェラーナが振り向くと、彼に腰の入ったパンチを食らわせた。
リヴェラーナは地面に倒れ、気絶してしまった。
「悪く思うな」
余計なことを言われては困る。
リリディアはダミアンを立たせると、この機に乗じてキルラ広場に向かおうとした。
しかしその時、背後から拳の気配が。
「食らえ~!!」
リリディアはとっさにパンチを避けた。
襲ってきたのは、何とラリーだ。
「お前、やる。そうでなきゃ、面白くない!」
リヴェラーナを助けようとしたのかと思ったが、違うようだ。
「悪いが、遊んでいる暇はない」
「バトルしなきゃ、そこのつけ髭野郎も殺す!!」
「・・・・・・何?」
リリディアはラリーを睨んだ。
挑発とわかっていても、聞き流すことはできなかった。
「デビルズに手を出す気なら、俺がお前を地獄に送ってやるよ」
リリディアはそう言うと、懐からデスナイフを出してシースから抜いた。
リュックに入れずに持ち歩いていて良かった。
「リリ、リッチーさん!」
「シース、持っていてくれ」
リリディアはダミアンにシースを預けると、ラリーにデスナイフを向けた。
ダミアンはリリディアの思いに気づき、空き地から出て遠くから彼を見守った。
「来い」
「やったああああ!!」
ラリーは大喜びし、ポケットからメリケンサックを出してはめ、リリディアに飛びかかった。
リリディアはそれをあっさり避ける。
しかし、ラリーは諦めず振り返り、リリディアに1発、2発とパンチを繰り出す。
リリディアはそのパンチをする間の隙をつき、デスナイフを振った。
ラリーもそれを避ける。
だが、その避ける際の隙もリリディアは見逃さず、ラリーのお腹に容赦なく強い蹴りを入れた。
「ウゲええ!!」
ラリーは膝をついた。
リリディアは息をついた。
だが、終わってなどいない。
ラリーは笑うと、ゆっくり立ち上がった。
「やっぱり、最高だぜ!!」
リリディアはとっさに構えたが、途中で意外な人物がラリーを止めた。
「行きますよ、ラリー」
「え!?」
ラリーを止めた人物は一体・・・・・・?




