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デスタウン  作者: 天園風太郎
第1章 自由の夜明け
32/35

第32話 新しい朝

もうすぐ平日です!

トゥルーデも、頑張りますよ。

 窓から朝日が差して、トゥルーデは目を覚ました。

 久しぶりによく眠れた気がする。

 トゥルーデは体を起こすと、自分に水色の毛布がかけられていることに気づいた。


 「これは・・・・・・!」


 ヨハンにこのような心遣いはできない。

 リリディアが毛布をかけてくれたのだ。

 昨夜のことは、都合の良い夢ではない。

 そう思うと嬉しくなった。

 その時、ふとアルバムのことが気になり、体を起こした。


 (一旦預かってもらったけど、あの後どうなったんだっけ?)


 辺りを見回すと、近くの箱の上にアルバムが置いてあるのを見つけた。

 トゥルーデは胸をなで下ろした。


 「良かったぁ・・・・・・!」


 あのアルバムは大切な物だ。

 リリディアはそのことを知っているから、近くに置いたのだろう。


 「待っててね」


 トゥルーデはそう言ってソファから降りてアルバムを取ると、段ボール箱の山の後ろにある「アルバム」と書かれた段ボール箱にアルバムをしまった。

 物置部屋に遺品が全部押し込まれた時、ヨハンはアルバムもこの段ボール箱もテレビ局に持っていこうとした。

 だが、トゥルーデが段ボール箱にしがみついて抵抗し、その上、ボブがヨハンに何か話をした結果、しばらくはこの部屋に放置しておくと決めた。

 しかし、相手はヨハンなので、トゥルーデはいつ彼の気が変わってもおかしくないと思い、常に警戒していた。

 ブライアンの提案で、時々アルバムをダニエルズ家に預かってもらうこともあった。

 トゥルーデは息をつくと、古時計を見て時間を確認した。


 「えーと、8時・・・・・・。え、8時!?」


 彼女は青ざめた。

 登園時間まで30分しかない。

 まだ身支度を整えていない。

 すぐに準備を始めないと。

 トゥルーデは慌てて出入口に向かい、ドアノブに手を――かけようとした。


 「嘘、何で?」


 部屋を出る直前、目の前にありえないものがあることに気づき、首をかしげた。

 出入口にドアがついているのだ。

 昨夜、ヨハンによって蹴破られたはずなのに。

 よく見ると、接着などで修理された跡はなく、床には破片も落ちていない。

 まるで、最初から壊されていなかったかのようだ。

 しかし、それを気にしている場合ではないことを思い出して首を振り、トゥルーデはドアを開けた。

 すると、更に不思議な光景を目にした。

 廊下には、缶ビールの空き缶や酒瓶のカケラがなく、更に、フード付きの黒いローブを着た男性が壁に寄りかかって寝ている。

 昨日から不思議なことばかりだ。


 「・・・・・・ん?ああ、おはようございます」


 男性はトゥルーデがドアを開けた直後、目を覚まして彼女に挨拶した。


 「お、おはようございます。あなたは誰ですか?」

 「私はダミアン・ヘル。ダミアンとお呼び下さい。ドアはどうですか?前より綺麗にしたつもりですが・・・・・・」

 「え?このドア、ダミアンさんが!?」

 「はい。魔法で直しました。私は魔法を使えるので!」


 ダミアンは親指を立てて言った。


 「ま、魔法?・・・・・・あ、昨日、リリディアおじさんがここに来れたのも魔法!?」

 「はい」

 「お~・・・・・・!ダミアンさん、すごい人なんですね!」


 トゥルーデは微笑んだ。

 以前なら「魔法」の存在は信じられなかったが、今なら、信じられる。

 ダミアンは少し照れてしまった。


 「そ、そうでしょうか?」

 「はい!リリディアおじさんが生きて帰ってこれたのは、ダミアンさんのおかげなんですよね?ありがとうございます!私、トゥルーデ・キルス!よろしくお願いします!」

 「あ、いや、その」


 ダミアンは何か言おうとした。

 その次の瞬間、リリディアが階段を上ってきた。


 「おー、起きたか。ダミアン。トゥルーデ」

 「おはようございます」

 「リリディアおじさん!」


 ダミアンはリリディアにも挨拶し、トゥルーデはリリディアに駆け寄った。


 「おはよう。昨日は、助けてくれてありがとう!」

 「当たり前のことをしただけだ。それより、準備は良いのか?お前の年齢だと、幼稚園あるだろう?早くしないと」

 「そうだった!」


 トゥルーデはリリディアに言われて時間のことを思い出し、階段を駆け下りた。



 15分後。

 色々大変だったが、何とか着替えまで終わった。

 髪が少し気になるが、我慢するしかない。

 トゥルーデは洗面所から出ると、リビングに移動した。

 あと10分で朝食をとらなくてはいけないが、また残飯を食べると思うと、胃が少し痛くなった。


 (嫌だなぁ)


 しかし、リビングに入った途端、良い匂いがした。

 トゥルーデは驚いた。

 何と、テーブルには既に朝食が並べられているのだ。

 パン、卵シチュー、ヨーグルトが3人分ある。

 更に、リビングも綺麗になっていた。

 床は鏡のように輝き、空気は清浄だ。


 「おう、トゥルーデ。飯にするか?」


 リリディアがキッチンから出てきた。

 エプロンをつけている。


 「これ、リリディアおじさんが?」

 「ああ」

 「すごい!でも、ヨハンがパンはなかったって言ってたのに、どこから?」

 「仲間がくれたんだ。さあ、食おう」


 リリディアはそう言うと、廊下の方を向いた。


 「おーい、ダミアン!飯だ!」

 「はーい!」


 ダミアンの声と同時にドアが開く音がした。

 その直後、ヨハンの叫び声が聞こえてきた。


 「ごめんなさい!ごめんなさい!許して!許して!許して!何でもするから、あの人殺しを屋敷から追い出してくれぇええ!!」


 しかし、そんな懇願もむなしく、ドアは閉まってしまった。

 ダミアンが笑顔でリビングに入ってくる。


 「お待たせしました!」

 「さあ、座れ」

 「はい!」


 トゥルーデ、リリディア、ダミアンの3人はそれぞれの席に座った。

 リリディアはトゥルーデの向かい席、ダミアンはリリディアの隣の席だ。

 トゥルーデはヨハンの分が用意されていないことに気づいたが、優しい「リリディアおじさん」が彼に食べ物をあげない訳がないと思った。

 この後、こっそりあげるだろう。

 そう予想したため、特に心配しなかった。

 トゥルーデはお祈りを始めた。


 「光の神リベルル様。今日もあなたの慈しみと世界の恵みに感謝して、いただきます」


 お祈りが終わると、3人は食事を始めた。


 「どうかな?トゥルーデ」


 リリディアが早速感想をきいてきた。

 トゥルーデは卵シチューを飲んだ後、笑顔で言った。


 「とても美味しい!」


 いつの間にか胃の痛みはなくなっていた。



 11分後。


 「光の神リベルル様。あなたの慈しみと世界の恵みに感謝して、食事を終わります」


 朝食を済ませると、トゥルーデは忘れずにお祈りをした。

 リリディアはそれを見て驚いた。


 「すごいな、トゥルーデ。食事後のお祈りもしっかりやるなんて」

 「ジョシュア大おじさんが教えてくれたから」

 「そうか。親父が聞いたら、喜ぶぞ。俺が後で言っておいてやるよ」

 「ジョシュア大おじさんと会うの?」

 「ああ、少し相談したいことがあってな。今日向かう」

 「え!?」


 今度はトゥルーデが驚いてしまった。


 「ダメだよ!リリディアおじさん、脱獄犯なんだよ!?」

 「大丈夫だ。ダミアンの魔法で移動するから」

 「そうなんだ・・・・・・」


 トゥルーデはうつむいた。

 この後、幼稚園に行くつもりだったが、リリディアが心配になってしまう。

 瞬間移動でソドム区まで行くとしても、問題はまだある。


 「あそこでは、今、ソドム・ハンマーっていうマフィアも暴れてる。私も、一緒に行って案内した方が良いんじゃないかな?あの人達が使わない道とか知ってるし・・・・・・」

 「おいおい。何を言っているんだ。そんな連中がいるって聞いて、連れて行く訳ないだろう。お前をあまり危ない目に遭わせたくない」

 「ごめんなさい」


 トゥルーデは謝った。

 リリディアはそれを見て、フッと笑った。


 「心配してくれたんだろう?大丈夫。トゥルーデがそう思ってくれているだけで、俺は頑張れる」

 「死なない?」

 「死なない!」


 リリディアがそう言うと、トゥルーデは顔を上げた。


 「絶対だからね!」


 しばらくして、登園時間になった。

 トゥルーデは歯磨きを済ませると、自分の小さなリュックに黒い腕時計を入れて慌てて屋敷を出た。


 「行ってきます!」

 「いってらっしゃい」


 トゥルーデはリリディアとドア越しに挨拶し、近くのバス停へ向かった。

 これから、何かが変わる気がする。





 ブ~ン。


 飛んでいるハエの下では、ヨハンが椅子に縛られていた。

 自分の部屋でこんな目に遭うとは、屈辱だ。

 恐ろしいことを何時間もされて、もうトゥルーデを虐待するような考えも力も持てなくなっていたが、そういう屈辱を感じる気持ちは残っているため、地獄である。


 「ごめんごめんごめんごめんごめん」


 黙ろうとしても、止まらない。

 もう壊れかけている。

 そして、急に叫びたくなり、口を大きく開けた。


 「うあ、ゲッ!!!!」


 しかし、叫びかけたその時、ハエがヨハンの口に突っ込んできた。

 ハエは喉の中で元気に動き回った。

 ヨハンは体中の痛みに加え、ハエとの戦いにも苦しまなくてはいけなくなった。

 いつまで続くのだろう。





 リリディアはエプロンを外し、ランドリールームの洗濯機で洗い始めた。

 終わるまで約1時間。

 ダミアンの魔力が回復するまでの時間とほぼ同じだ。


 「フウ・・・・・・。これで良い」


 リリディアはリビングに戻った。

 リビングのソファには、横になっているダミアンが。


 「ダミアン、大丈夫か?」

 「やばいかもしれません・・・・・・」

 「だろうな。2回も瞬間移動をした上に、トゥルーデを守るために廊下の壁に寄りかかって寝たんだから」

 「トゥルーデさんを守らないといけませんから。あの子、いえ、あの方を狙っているのは、ヨハンだけではありません」

 「わかっている。東京にまで来たあの悪魔女のことだろう?」


 リリディアは腕を組んだ。

 東京のカフェで見たあの店員、彼女は間違いなくルシファーだった。

 髪の色のせいで気づくのが遅れた。

 ルシファーはトランシーバーで外の倭寇会の構成員に指示を出し、バズーカ砲でカフェを攻撃させた。

 リリディアはその直前にダミアンに指示を出し、店長を連れて3人で瞬間移動させた。

 広くて、隠れやすい場所・上野恩賜公園に。

 その後、公園に来ている人々の声を聞いて、カフェが攻撃を受けたことを知ったが、ルシファーがどうなったのかまではわからなかった。

 だが、あの彼女のことだ。

 死なないように上手く逃げただろう。


 「まさか、奴が倭寇会と手を組むとはな。今度はどこに現れるのか。そのことを思えば、ダミアンの心配もわかる」

 「最初に心配したようなことはなかったですがね」


 ダミアンがそう言うと、リリディアはうなずいた。


 「ヨハンと手を組んだかもっていうあれか。確かに、それが最悪の状況だった」


 あの後、店長を家に帰らせてから、どうするか考えた。

 その結果、その日の内にトゥルーデを助けに行くことに決まった。

 ヨハンがトゥルーデを虐待しているのは、もしかしてルシファーが彼女を殺しやすいように弱らせるためではないかと心配になったのだ。

 今思うとおかしなことだが、その結果、殺されかけたトゥルーデを助けられたので、後悔はない。

リリディアとダミアンは襲われた直後なのでそういう決断をしましたが、結果的には良かったですね。

本当に良かった。

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