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デスタウン  作者: 天園風太郎
第1章 自由の夜明け
30/35

第30話 運命の夜

ヨハンは今日も最低です。

いえ、もっと酷いかもしれません。

トゥルーデは生き残れるのでしょうか?

 「買ってきたビールはどうした!?酒を出せ~!!」


 ヨハンはそう叫び、手当たり次第に物を蹴り壊している。

 トゥルーデは2階の物置部屋にこもり、震えていた。

 ドアノブに椅子を立て掛けた後、アルバムを抱いて段ボール箱の山の隅に移動して座っているのだ。


 「父さん・・・・・・、母さん・・・・・・、ヨハンナねえさん。神様・・・・・・!」


 もう限界だった。

 ヨハンは飲酒すると、いつも酔っ払って本性を現す。

 その度に殺されかけるのはトゥルーデなのだ。

 いや、今度は本当に殺されるかもしれない。

 この日は、誕生日から1週間後の10月8日。

 トゥルーデはジェイコブから渡されたヨハンナの腕時計を警察に提出しようとしたが、「また嘘をつくのか!?」と拒否されてしまい、更に尾行していたヨハンに首を絞められてしまった。

 幸いにも、近くを通ったブライアンが助けてくれたことで死なずに済んだ。

 だが、それで終わらなかった。

 タイミングが悪いことに、それとほぼ同時にジェイコブが突然自首し、ヨハンはますます機嫌が悪くなったのだ。

 夕方にはブライアンだけではなく、忙しい中サブリナも来てヨハンを厳しく注意してくれたが、ヨハンには効果がない。

 彼らが帰った後、ヨハンはお酒をたくさん飲んで暴れ出し、今に至る。

 トゥルーデは勇気をもらおうと、アルバムを開いた。

 すると、そのページから1枚の写真が剥がれて落ちた。

 トゥルーデは慌てて拾い、その写真を見てみると、そこには赤子の頃のトゥルーデを抱くセシリアと、その隣でセシリアの肩を抱くサイラスの3人が写っていた。


 「・・・・・・父さんも母さんも、ルシファーに殺された。私も、あいつに殺される?それとも、下のあいつに?」


 トゥルーデはそう言った後、ハッと気づいて首を振った。


 「やばいやばい。またネガティブになっちゃった。負けるもんか。絶対、負けるもんか!」


 その次の瞬間、彼女を更に追い詰める声が響いた。


 「あれ!?パンも!?・・・・・・トゥルーデェェ~!!」


 それと同時に、ガシャン!!バリン!!と物を壊す音も聞こえてきた。

 また2階に来る。

 正直怖い。心臓の音が大きくなる。

 だが・・・・・・、だが!

 負けたくない。あんな奴に負けたくない。

 これ以上、心も、遺品も渡したくない。

 ここであの男に負けたら、ルシファーにも負ける。

 大切な人達も守れない。

 トゥルーデは写真をアルバムに挟み、呪文を唱えるようにつぶやいた。


 「絶対、負けない!!」


 気持ちを奮い立たせ、隠れ続ける。

 それでこの夜を生き残る。

 それしかない。





 一方、リリディアはダミアンと今後のことについて話し合うため、江東区北部の『日の丸カフェ』という店で待ち合わせをした。

 何故一緒に行かないのかというと、リリディアとダミアンは先週の依頼を成功させたが、それ以降、しつこく襲われるようになったので、別々のルートで移動しているのだ。

 リリディアはサングラスをかけて急いで日の丸カフェへ向かった。

 その途中、倭寇会の構成員が10人現れ、足止めを食らった。

 集団の先頭にいる青い瞳の男が叫ぶ。


 「リリディアァア〜〜!!」

 「邪魔っ!!」


 何故かその男はリリディアの本名を知っていたが、時間がないのでリリディアは躊躇なく殴った。

 リリディアは、先頭の男を含めて全員拳で叩きのめして返り討ちにし、待ち合わせ場所へまっすぐ向かった。

 角を曲がると、


 『日の丸カフェ』


 という立派な看板と、レトロな雰囲気の大きな窓のある店が見えた。

 あそこだ。

 見つけたその時、遠くから鬱陶しい演説が聞こえてきた。


 『偉大なる帝王が東アジアを統一されてから約1年!!争いが激減し、この地域は静かになった!!しかし、まだ終わらない!!この世界に真の平和をもたらすため、我々は更に東へ進む!!さあ、アジアの勇者達よ、混乱を終わらせるため、倭寇会に加われ!!!!』


 倭寇会の構成員を集めるための勧誘だろう。

 リリディアはため息をつくと、日の丸カフェの前に立った。


 チャラン♪カラン♪


 店内に入ると、髪を金色に染めた店長が爽やかに挨拶してきた。


 「いらっしゃいませ♪」


 見た目は派手だが、実直そうだ。

 だが、それと同時に気色悪い、妙な視線が客達から向けられた。

 これは、外国人に向ける好奇心の目とは違う。


 (もしかして、罠か?)


 リリディアはそう思ったが、口には出さなかった。


 「あ、リッチーさん!こちらです!」


 声がする方を向くと、窓際の席から満面の笑みで手を振るダミアンがいた。

 つけ髭をしているが、全く似合っていない。

 それに、あの顔、この妙な感じに気づいていないのではないだろうか?

 ・・・・・・仕方ない。


 (俺がカバーするしかなさそうだ)


 「ああ、今行く」


 リリディアはダミアンの向かい側に座った。


 「悪いな。倭寇会の奴らが襲ってきたから、ギリギリになっちまった」

 「いえ、大丈夫です!さっき、『グレートバナナパフェ』を頼んだところですから!」

 「・・・・・・そうか」


 昨日、ダミアンはお気に入りのこの店で人気スイーツの『グレートバナナパフェ』の割引券を2人分もらい、せっかくだからこの店で話し合いをしようと言ってきた。

 あまりの熱に押されてしまったが、都合の良すぎるこの展開には怪しさを感じる。

 リリディアはニコリと笑った。


 「それじゃあ、待っている間に始めてしまおうか」

 「はい」


 ダミアンは笑顔でうなずいた。

 しかし、話し合いが始まると、2人から笑顔が消えた。

 リリディアはリュックから封筒を出してダミアンに渡し、中の書類を確認させた。


 「これは・・・・・・!?」

 「あの子の今の様子について、仲間の1人に調査してもらった。優しい上に影が薄い奴だから、彼女を怖がらせずに調べてもらえると思って任せたんだ。そしたら・・・・・・、一昨日、こんな状況だっていう報告が届いた」


 書類には、ヨハンナが突然行方不明になってヨハンがトゥルーデの保護者になったこと、そして、ヨハンがトゥルーデに虐待を行っていることについて、写真を添えて書かれていた。

 トゥルーデが酷い目に遭っていることについての報告書だ。

 写真には、傷だらけになったまま屋敷を出るトゥルーデの姿が写っていた。


 「この方が・・・・・・。あのクズは、こんな小さい子に、平手打ちして、何度も蹴りを!?」

 「ああ。報告書には、今まで肋骨骨折しなかったのが奇跡だと書かれている。だが、そんなの奇跡じゃない。今も、あの子はあのクズの屋敷で痛めつけられている。最悪の場合、死ぬぞ」

 「死・・・・・・!?」


 ダミアンは青ざめた。


 「倭寇会にしつこく攻撃されている件は問題ない。奴らを何度も返り討ちにして、心を折ってやればいいだけだからな」

 「でも、この方はこのままだと、いずれ殺されると?」

 「ああ。わかっているじゃないか。だから、一旦あの故郷に戻ろうと思っている。こっそりクズをやっつけて、あの子を親父に預けた方が良い。デビルズはどうする?」


 リリディアはダミアンを偽名で呼び、彼にきいた。

 これが本題だ。

 普通は悩むところだが、ダミアンは即答した。


 「もちろん、ついて行きます」

 「・・・・・・そうか」


 リリディアは息をついた。

 ほっとしたような、そんな様子だ。

 話し合いは、あっさり終わってしまった。


 「後であの人にも色々話しておかないとな」

 「そうですね」


 ダミアンがそう言った直後、店員が2人分のグレートバナナパフェを運んできた。

 細長いグラスに盛りつけられたバナナもクリームもビッグだ。

 確かに、グレートである。


 「お待たせ致しました。グレートバナナパフェで〜す♪」

 「ありがとうございます!」

 「ありがとう。店員さん」


 リリディアは、店員がグレートバナナパフェをテーブルに置くのを見た後、ふと店内を見渡した。


 ・・・・・・信じられない。

 いつの間にか、客がほとんどいなくなっている。

 店内には店長と店員、そしてリリディア達の4人しかいない。

 店員はペコリとお辞儀すると、レジの方を向いて歩き出した。


 「あ、おい。ちょっと待ってくれ」


 リリディアは店員に声をかけたが、店員は振り返らず、そのままレジのそばまで行ってしまった。

 彼は首をかしげた。


 「何だ?あいつ」


 すると、店長がその様子に気づいてリリディア達のテーブルの前に来た。


 「お客様、どうされました?」

 「店長さん。あの店員さんは―—」

 「お!お客様、気になっちゃいます?彼女、生き別れの家族を探してアメリカから日本へ来たらしいんですよ。デリケートな子なので、ナンパはご遠慮下さい!まあ、お気持ちはわかりますけど!」


 店長は笑顔でそう言った。

 そんなことを聞きたい訳ではなかったのだが、そういう質問をされることが多いのだろうか?

 確かに麗しい容姿だし、彼女が持つ金色の髪は目立つだろう。

 しかし、彼女を口説きたい訳ではなく、何故さっき無視したのかを・・・・・・と、そう思っていたその時、店員がこちらを向いて冷たい眼差しを向けてきた。


 「な!?まさか!?」


 店員はポケットからトランシーバーを出すと、ニヤリと笑って何か話し始めた。

 嫌な予感がする。





 「畜生!!トゥルーデの奴、どこへ行きやがった!?」


 ヨハンは2階に上がると、そんなことを喚きながらドアを1枚1枚乱暴に開け閉めして進んだ。


 ギィッ、バタン!!ギィギ、バタン!!ギィッ、バタタン!!


 階段の手前からこの奥の部屋へ、ゆっくりと音が近づいてくる。

 両親を亡くしたあの日と状況が似ていて、トゥルーデは息が苦しくなった。


 「ハァ・・・・・・ハァ!ハァ・・・・・・ハァ・・・・・・!!」


 絶対負けるもんか、と言ったばかりなのに。


 (父さん、母さん、・・・・・・ヨハンナねえさん。リベルル様。私を見守っていて下さい!)


 トゥルーデは心の中でお祈りをしながら深呼吸し、何とか落ち着いた。

 しばらくして、とうとうヨハンが物置部屋のドアの前に立った。


 「お仕置き・・・・・・しなくちゃ!」


 ヨハンはそう言うと、ドアノブを回した。

 しかし、椅子のせいでドアは開かない。

 2、3回繰り返しても、同じだった。

 開かない。

 ヨハンはドアを激しく叩いた。


 ドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドン!!!!


 だが、トゥルーデは気にせず、近くのソファの後ろに隠れた。

 ヨハンが入って来たとしても、彼が動く度に彼から見えない場所へすぐに移動すれば見つからない。

 朝になって彼が倒れるまで、それで生き残るのだ。


 「そうかぁ。わかった。うおおおおおおっ!!!」


 ヨハンは奇声を上げ、ドアを蹴破った。

 ドアの破片が部屋の床に散らばる。


 「トゥルーデ、どこにいるぅ?ヨハンパパが板チョコを持ってきてやったぞ」


 ヨハンは甘い声を出しながら部屋に入った。

 しかし、廊下の電灯の光でヨハンの影が床に差すと、彼の言うことが嘘だとわかった。

 影の形からして、彼が手に持っているのは板チョコではなく、鉄パイプだ。

 ヨハンが入った直後、出入口の左側に置かれている古時計が午後10時を知らせた。


 ゴーン。ゴーン。

ああ、どうなってしまうのでしょうか!?

悲しいですが、今年はここまでです。

今年もお世話になりました。来年もよろしくお願い致します。

良いお年をお迎えください!

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