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デスタウン  作者: 天園風太郎
第1章 自由の夜明け
29/35

第29話 東京のリリディア

ジェイコブの「話」とは、一体?

 トゥルーデは高級車の中で、ジェイコブが着けている黒い腕時計を見つめた。


 「前は着けてなかった。まさか!」

 「そうだよ。ヨハンナ叔母さんからいただいた」

 「嘘だ!!」


 トゥルーデは思わず叫んだ。


 「何故そう思う?」


 ジェイコブにそうきかれると、トゥルーデはまた深呼吸して、静かに言った。


 「その腕時計はヨハンナねえさんが、母さんとお揃いで買った大切な物だよ。誰かに渡すなんて絶対にありえない」

 「・・・・・・わかってるじゃないか」


 ジェイコブはそう言うと、ため息をついた。

 そして次の瞬間、耳を疑う言葉を口にした。


 「ヨハンナ叔母さんは渡してない。僕が奪ったんだよ。死ぬ前の彼女から」


 トゥルーデは動揺した。

 信じられない。


 「え?し、死ぬ前の?ヨハンナねえさんは死んだの?」

 「ああ。ほぼ間違いない。ドゥールー山に掘った穴に放置してきたからな。飢え死にしているか、蛇の餌になっているか、大量の出血で死んだかのどれかだろう」


 ジェイコブは淡々と言った。

 自分で殺したと言っている人物とは思えない。


 「信じない。私にそんな嘘を言って、何を企んでるの!?」

 「じゃあ、何故叔母さんの腕時計を僕が持っている?さっき、お前が言ったばかりじゃないか。誰かに渡すなんて絶対ありえないって」

 「く・・・・・・っ!」


 否定できなかった。

 本当に、ヨハンナはこの世からいなくなってしまったのか。


 「・・・・・・腕時計を見せたのは、ヨハンナねえさんが死んだことを教えるためなの?」

 「半分正解だな」

 「残りの半分は?」

 「知ってほしいんだ。僕の気持ちを」

 「あなたの気持ち?」


 トゥルーデがきくと、そのタイミングで高級車が一時停止した。

 信号が赤になっている。

 ジェイコブは言った。


 「僕も、父さんが大嫌いなんだ」


 トゥルーデは目を丸くした。


 「・・・・・・え?」


 あんなにヨハンのご機嫌取りをしていたジェイコブがそんなことを言うとは。


 「罠?」

 「そんな訳ないだろ。こんな話をしているのがバレたら、跡取り息子の俺でもマジで殺される」

 「確かに」


 トゥルーデはうなずいた。

 信号が青になり、再び高級車が発進する。


 「僕は、父のそういう狂ったところが嫌いだってことだ。あんな奴はグレゴリー家当主にふさわしくない。だから、今日この腕時計を着けて、お前を迎えに来たんだよ。僕が父さんの命令に従って叔母さんを殺したのを教えて、父さんが不利になるようにするために」

 「最低・・・・・・」


 トゥルーデはつぶやいた。

 ヨハンが嫌いなら、何故ヨハンナにナイフを投げつけたのか。

 ヨハンが怖いからだろう。

 結局は自分のことしか考えていないのだ。


 「ああ、最低だ。だが、それが大人の生き方だ。あの時、父さんに従わなかったら・・・・・・」

 「あの時ヨハンが言ってた『見送る』って、あの世に送るって意味だったんだね」

 「そんなこと言ってたか?」

 「言ったよ!!」


 トゥルーデは思わず怒鳴った。

 そのヨハンの命令に従ったのはジェイコブなのに、何故忘れているのか。

 ジェイコブは慌てて言った。


 「そんなに怒るなって。悪かったよ。だが、あの時父さんに従わなかったら、僕も殺されていた。毎日虐待されているお前ならわかるだろ?」

 「・・・・・・ハア」


 トゥルーデはため息をついた。


 「そうだね。一生許せないけど」

 「いいか?取引しよう。お互いに力を合わせるんだ。そうすれば、僕は、グレゴリー家の当主の地位をあの男から奪える。お前は、あいつから自由になれる。悪い話じゃないだろ?」


 ジェイコブは笑みを浮かべてそう言った。

 確かに悪い話ではない。

 だが、相手を信用できない。


 「嫌だ。悪魔とは取引しないもん」

 「チッ」


 ジェイコブは舌打ちした。

 しかし、トゥルーデは怖くなかった。

 舌打ちなら、あのヨハンの屋敷でいっぱい聞いている。



 しばらくの間、気まずい空気が車内を支配した。

 トゥルーデは冷静になり、まずいことに気づいた。


 (あれ?もしかして、このままだと、私もドゥールー山に?嘘つけば良かったかな?でも、私、そういうの上手くないしな・・・・・・)


 彼女が不安に思っていると、高級車が停まった。


 「・・・・・・着いたぞ」

 「ドゥールー山に?」

 「は?何言ってる?父さんの屋敷に決まっているだろ」


 ジェイコブの言葉を聞き、トゥルーデは窓の外を見た。

 小さな湖と、そのほとりにある荘厳な屋敷。

 トゥルーデは静かにお礼を言った。


 「・・・・・・ありがとう」


 ジェイコブは一旦車から降りると、後部座席のドアを開け、チャイルドシートのベルトを外した。

 そして、


 「お前は幼稚園児にしては頭が良い。正しい道を選んでくれよ」


 と言って、黒い腕時計を外し、トゥルーデに渡した。


 「え?これは」

 「安心しろ。罪をなすりつけたい訳じゃない。これを持って、警察か、あの探偵さんにさっきの話を教えてやれ」

 「本当に・・・・・・、あいつを裏切る気なんだね」

 「当たり前だ。僕は父が大嫌いだと言っているだろ?それに、僕は建設会社の社長だから、逮捕されても助けてくれる人がいっぱいいる。この街で、建設会社が潰れちゃ困るからね。父とは違う」

 「・・・・・・」


 ずるい人だ。

 一瞬そう思った。

 しかし、ジェイコブに怒る余裕はなく、トゥルーデは大人しく車から降りた。

 ジェイコブはニヤリと笑って、ドアを閉めると、運転席に戻った。

 その直後、運転席の窓が開く。


 「僕と力を合わせないのは構わない。だが、叔母さんのことを思うなら、その証拠を持って行け」

 「・・・・・・またね」

 「ああ、またな。トゥルーデ」


 ジェイコブはそう言うと、高級車を発進させ、走り去った。

 トゥルーデは黒い腕時計を見つめた。

 間違いなくヨハンナが持っていたブランドのものだ。


 「ヨハンナねえさん・・・・・・!」


 トゥルーデの目から涙があふれる。

 トゥルーデはすすり泣きながら腕時計を袋に入れ、屋敷の方へ歩き出した。





 トゥルーデがすすり泣きながら歩いている。

 大きな袋を持って、辛そうだ。

 前に会った時よりは大きくなったが、同い年の子供に比べればやや小柄で、痩せすぎているように見える。

 トゥルーデは荘厳な屋敷のドアの前に立つと、一旦横に袋を置いて、庭のブロックを持ってきた。

 そして、上着のポケットから鍵を出し、ブロックに乗って鍵を開けた。

 彼女はジャンプしてブロックから降り、庭にそれを戻すと、鍵をポケットに入れて静かにドアを開けた。

 中は汚く、缶ビールの空き缶と、酒瓶のカケラで床が埋め尽くされている。

 トゥルーデが嫌そうな顔でそれを見た。

 こちらも見ていて同じ気持ちになる。

 トゥルーデは背中でドアを支え、袋を再び抱えると、中に入った。


 「ぐおおおおおおお、ぴいいいいいいいいっ!!」


 リビングからは大きないびきが聞こえてくる。


 バンっ。


 ドアが閉じても、いびきが止まる様子はない。

 トゥルーデは物音を立てないようにつま先で歩き、隅を移動した。

 そして、階段を上り、奥の部屋に入った。

 そこの床には空き缶やカケラは一切なく、段ボール箱や箱が丁寧に積まれている。

 トゥルーデはボロボロなマットの上で靴を拭くと、段ボール箱の山の後ろにある金庫のそばに、そっと袋を置いた。


 「ここで待っててね」


 彼女はそう言うと、涙を拭いた。

 そして部屋を出ようと、ドアに向かった―—その次の瞬間、


 「トゥルーーーーーーーーーーーデェええええええええ!!!!」


 と、下の階から怒鳴り声が響いた。

 トゥルーデはそれを聞いて青ざめ、慌てて部屋を出た。


 「何故ダニエルズについて行ったぁあああ!??」


 階段をダダダダッ!と大きな音を出して上る音。

 その直後に階段から現れたのは、不気味な雰囲気の不潔な男。

 顔は真っ赤で、酔っ払っていることがわかる。

 この顔は・・・・・・、まさか、ヨハン・グレゴリー!?


 「ご、ごめんなさい。でも、私、誕生日くらい皆と楽しみたかったの!」


 トゥルーデは震えながらも、ヨハンの目を見てはっきりと言った。


 「言い訳するな!!クズの娘が!!」


 ヨハンはそう言うと、突然トゥルーデに平手打ちした。

 そしてトゥルーデが倒れると、追い打ちをかけるように、何度も彼女に蹴りを入れた。


 「お前は、俺の物だ!!俺の所有物だ!!勝手は許さない!!!!」


 トゥルーデは丸まって、ひたすら耐えていた。

 見ていて、不快な光景だった。

 トゥルーデのことを助けたかった。

 しかし、自分には何もできない。

 こんな悔しいことがあるだろうか。





 「トゥルーデっ!!」


 リリディアは汗だくで目を覚ました。

 酷い夢だった。

 いや、あれは本当に夢なのか?


 「リリディアさん、大丈夫ですか?」


 ダミアンの声と同時に部屋が明るくなった。

 ここは、ダミアンと2人で暮らしているアパートの部屋だ。

 昔デスタウンで冤罪で捕まった日本人の資本家を助けた縁で、日本の東京に匿ってもらえることになり、リリディアとダミアンは現在、とあるアパートで暮らしながら便利屋としてその資本家の手伝いをしている。


 「最悪な気分だ。何故あんな夢を?」


 リリディアはそう言って、体を起こした。

 腕には、トゥルーデが作ってくれた熊のぬいぐるみが抱かれている。


 「また悪夢ですか?トゥルーデさんがゴミに虐待されているっていう」


 ダミアンはそう言うと、呪文を唱えながら指揮棒と同じ位の大きさの杖を振った。

 杖が振られた瞬間、棚から皿が次々と飛んでテーブルに並べられていく。


 「ああ。トゥルーデの保護者はヨハンナのはずなのに、おかしいよな。でも、ただの夢にしてはリアルでな。何度も似たような内容のものを見るし。何か胸騒ぎがするんだ。ダミアン、魔法でトゥルーデの様子を見ることはできるか?」

 「う~ん。それは難しいかと」

 「何故だ?」

 「この前の戦闘で水晶玉が壊れてしまって、今知り合いのドワーフに直してもらっているんですよ。直るまでに1か月位かかるので、その間は遠くを見るとか、未来予知とかは無理ですね」

 「チッ。この前のあいつらとの戦いでか」


 リリディアは悔しそうに言った。

 もしもあの夢で起きたことが本当なら、すぐに助けに行きたいのに。

 ダミアンはリリディアの方を向いた。


 「リリディアさん。お気持ちはわかりますが、今日も仕事です。早く身支度を」

 「わかっている」


 リリディアはうなずいてぬいぐるみを静かに横へ置くと、布団から出て洗面所へ向かった。



 リリディアとダミアンは身支度を整えると、事務所には向かわず、中央区にあるビルに移動し、昨夜設置した罠の確認を行った。

 昔助けた資本家からの直接の依頼で、この日の午後に行われる襲撃から、ビルを防衛することになったのだ。

 彼が設立した、予防ワクチンの研究・開発を目的とした組織「救世協会」の本部はこのビルであり、破壊される訳にはいかなかった。

 普通は警察に頼るべきだが、襲撃してくる組織が裏で支配するようになったため、期待できなくなっている。

 そう。襲撃してくる組織とは、中国マフィア・倭寇会だ。

 罠に異常がないことを確認すると、リリディアとダミアンは屋上に上って倭寇会の襲撃を待った。


 「今日もやるぞ」

 「はい」


 2人は、屋上から見える東京タワーの前でグータッチした。

リリディアがトゥルーデのピンチに気づくまで、あと少しです。

しばらくお待ち下さい。

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