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デスタウン  作者: 天園風太郎
第1章 自由の夜明け
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第28話 ハッピーバースデー

ヨハンナがいなくなったことにより、状況はより酷いものになっていきます。

ご注意下さい。

 1994年11月某日、ヨハンナがどこかへ拉致される事件が発生。

 それと同時にロン大聖堂が襲われる事件が発生したため、ヨハンナが拉致された報告を受けていないジョシュアはトゥルーデ達を守らせるため、ミハイルを代わりに行かせた。

 ミハイルはジョシュアに渡された「袖の下」で壁から出ると、急いでヨハンナの屋敷に向かったが、留守だった。

 だが留守であることを知った直後、ヨハンナにあることを知らせようと走って来たキルス教徒の市民から話を聞くことになった。

 それは、「トゥルーデがグレゴリー家の当主に連れ去られそうになっているのを目撃した」というものだった。

 ミハイルはその話を聞いて更に速く走り、キルス一家が住んでいたあの家を目指した。

 その結果、家の庭で襲われそうになっていたトゥルーデとダニエルズ父娘を守ることには成功した。

 しかし、その時には既にヨハンナが拉致されてしまっていたことを、後でブライアンから聞かされた。

 その日の内に、ロン大聖堂を襲っていたマフィア「ソドム・ハンマー」は撃退され、混乱の中で逃げ出したゾンビも捕獲されたが、ヨハンナだけは戻ってこなかった。

 そのため、ブライアンの提案通り、トゥルーデはジョシュアに預けられることになった。

 ただし、ヨハンナが見つかるまでという条件付きで。





 あの後、珍しくデスタウン市警は本気を出してヨハンナの捜索を行った。

 グレゴリー家出身の公務員が突然「行方不明」になったためだ。

 トゥルーデはデスタウン市警には思うところがあるが、ヨハンナの安全を考え、捜索に協力し、ヨハンとジェイコブの蛮行についても正直に証言した。

 最初はあの頃のように「嘘」と決めつけられそうになった。

 だが、物的証拠が現場やその周辺にいくつもあり、その上、ブライアンが例の写真を提供したため、ヨハン達は一時的に事情聴取された。

 逮捕されることはなかったが、証拠が多かったため、彼らは無関係を装うことはできず、「あの場にいた」ことは認めることになった。

 デスタウン市警がこんなに真剣なら、ヨハンナの発見も時間の問題だと思えた。

 しかし、どこを捜しても、ヨハンナは見つからず、捜索は打ち切りになってしまった。

 更にそのタイミングで、ソドム区の「不衛生な環境」を理由にヨハンがトゥルーデを引き取ると言い出し、裁判所がそれに賛成した。

 結局ヨハンの思惑通り、トゥルーデはヨハンに引き取られた。

 トゥルーデが住むことになったヨハンの屋敷は、ヨハンナの屋敷と同じ大きさで、ダミー区の小さな湖のほとりにあった。

 外から見ると、荘厳な屋敷だ。

 だが、中は汚い。

 缶ビールの空き缶と、酒瓶のカケラで床が埋め尽くされている。

 臭すぎて、病気になりそうだ。

 更に、虫も出る。

 古い屋敷なので、ハエやクモをよく見かけるが、それは平気だった。

 ただし、ゴ・・・・・・から始まる()()()は別だ。

 あれが洗面所を走っているのを見た途端、トゥルーデは叫んでしまった。

 あの虫だけは、慣れない。

 その上、あの虫よりも醜い存在ヨハンからの虐待もあった。

 ヨハンは、ほぼ毎日平手打ちしたり、蹴ったりしてくる。

 嫌がらせで、酒臭い床を掃除させられることもある。

 食事の際も、トゥルーデにはわずかな残飯しか出ず、ヨハンだけ高級な肉料理を食べるのは当たり前。

 彼が飲酒した時は更に酷い。

 また、ヨハンは横取りした遺品を2階の奥の物置部屋に全部押し込み、その中のいくつかを勝手に売っている。

 トゥルーデはアルバムを守り続けているが、いつまで奪われずに済むかわからない。

 そんな生き地獄の屋敷で暮らしているせいで、以前と比べて痩せ細ってしまった。

 それだけでも涙が出るが、一番悲しいのは、ヨハンナに会えないことだ。


 (会いたい。会いたいよ、ヨハンナねえさん・・・・・・!)


 トゥルーデは暗闇の中で、涙を流した。



 コツン。


 「大丈夫?トゥルーデ」


 額に温かい額が当たった。

 この声は、シャーロットだ。

 前を向いても、目隠しをされているため、彼女の顔は見えないが、はっきりとわかる。


 「シャ、シャーロット・・・・・・!ごめん」

 「何で謝るの?今日はトゥルーデが主役なんだから、堂々としないと!ほら、来て!これを見たら、きっと元気になるから!」


 あれから約1年が経った。

 この日は、10月1日。トゥルーデの誕生日である。

 ヨハンも幼稚園の大人達も誕生日を祝ってくれなかったが、シャーロットはトゥルーデを家に招待してくれたのだ。

 シャーロットは「フフ!」と笑って額を離すと、トゥルーデの手を引いて一緒に明るい部屋に入った。


 「うん。良いよ!」


 シャーロットがトゥルーデの目隠しを外した。

 その次の瞬間、


 パーーーンッ!!


 とクラッカーが鳴った。


 「「ハッピーバースデー!!」」


 迎えてくれたのは、ブライアンとメイベルだった。

 ここは、ダニエルズ家のリビングだ。

 そして、2人の隣のテーブルには、何とチョコレートケーキが!!


 「わああ・・・・・・!!ありがとう!」


 トゥルーデは久しぶりに笑顔になり、お礼を言った。

 先程までネガティブな気持ちだったのに、今はとても胸が温かい。


 「ほら、座って座って!」


 トゥルーデはシャーロットに促されて席に着いた。


 「パパとメイベルさんも!早く早く!」

 「うん。今座る」

 「はいはい」


 メイベルはケーキのロウソクに火をつけると、リビングの電気を消した。

 そして、シャーロットとブライアン、メイベルの3人もトゥルーデに続いて席に着いた。

 3人は座った直後、「ハッピーバースデートゥーユー」を歌ってくれた。

 トゥルーデは再び泣いた。

 歌を歌い終わると、シャーロットは不思議そうにトゥルーデの名前を呼んだ。


 「トゥルーデ・・・・・・?」

 「あ。何でもない!」


 トゥルーデは涙を拭いた。


 「ほら!願い事して、火を消して!」

 「うん!」


 シャーロットに促され、トゥルーデはゆっくり息を吸った。

 トゥルーデの願い事。

 それは・・・・・・、


 (目の前の皆が、命を落としませんように)


 それだけだ。


 「フーーッ!!」


 トゥルーデは願いを込めて、ロウソクの火に息を吹きかけた。

 しかし、息が弱すぎて、6本のロウソクの内、前の3本しか火が消えなかった。


 「やば!」


 トゥルーデは再び息を吹きかけ、やっと全ての火を消した。

 シャーロット達3人は大きな拍手を送ってくれた。


 「「「おめでとーーーーーう!!!」」」


 メイベルは電気をつけると、チョコレートケーキからロウソクを取り除いて四等分した。

 そして、素早く丁寧にケーキを一切れずつ皿に移してくれた。


 「ありがとうございます!メイベルさんが作ってくれたんですよね?」

 「はい。しかし、シャーロットお嬢様も手伝って下さいました」

 「大親友のためだもん!」

 「・・・・・・!2人ともありがとう!」


 トゥルーデはシャーロットとメイベルに重ねてお礼を言った。

 しばらくして、それぞれに一切れずつケーキが渡された。

 トゥルーデは早速フォークで一口分すくって食べてみた。


 「・・・・・・!!」

 「どう?」

 「お、美味しい!!外が固くて、中が柔らかいのも最高!!」


 予想を裏切らない美味しさで、食感も最高だった。

 シャーロットとメイベルはトゥルーデの感想を聞いて、ハイタッチした。


 「良かった~~。プレゼントも用意してるから、まだまだ楽しんで!」

 「え!?それはさすがに・・・・・・」

 「遠慮しちゃダメ!年に1度の誕生日なんだよ!?」


 シャーロットがそう言うと、ブライアンがうなずいた。


 「シャーロットの言う通り。私達には遠慮なく頼ってくれ」


 彼は笑顔だったが、目は真剣だった。





 トゥルーデはシャーロット達からもらったプレゼントを袋に入れて抱え、外に出た。

 日は沈み、星が見えていた。


 「綺麗・・・・・・!」


 トゥルーデがそう言った直後、ダニエルズ父娘が続いて出てきた。


 「トゥルーデ、送っていくよ」

 「アタシも行く!」

 「ブライアンさん。シャーロット」


 トゥルーデは振り向いてお礼を言おうとした。

 しかしその次の瞬間、


 「ダニエルズさん、こんばんは」


 と不快な声が聞こえ、すぐに前を向いた。

 その先には、停めた高級車に寄りかかっているジェイコブの姿が。


 「「「ジェイコブっ!!!」」」


 トゥルーデとダニエルズ父娘は思わず大声を出してしまった。

 楽しい気持ちで出てきたのに、台無しだ。


 「うわ~。怖いなぁ☆」

 「よくここに来れましたね。犯罪者が」

 「ダニエルズさん、トゥルーデの誕生日を祝ってくれて、ありがとうございます。私があの屋敷まで送るので、ご安心下さい」


 ジェイコブはブライアンの悪口を聞き流し、ニコリと笑う。

 不気味な男である。


 「いいえ、私が送ります。自分の叔母にナイフを投げるような野蛮な方にトゥルーデを預けるなど、ありえません」

 「おや、聞いていたんですね」


 ジェイコブはトゥルーデに視線を向けた。

 ブライアンはそれを見てトゥルーデを庇うと、ジェイコブを睨んだ。


 「私が頼んで聞かせてもらったんです。もしも『お仕置き』なんて考えているなら・・・・・・」

 「そんなことしませんよ!話したいことがあるだけです」

 「お前なんか信用できる訳ないだろ?」


 ブライアンとジェイコブが話している中、トゥルーデはこっそりジェイコブの方を見た。


 (一体、何が目的なの?・・・・・・ん?)


 すると、彼が着けている「ある物」が目に入った。


 「あれ・・・・・・。もしかして!」


 それを見たトゥルーデは、深呼吸すると、ブライアンの裾を引っ張った。

 ブライアンはジェイコブとの会話を止め、トゥルーデの方を向いた。


 「どうした?」

 「ブライアンさん、私、ジェイコブの車に乗ります」

 「トゥルーデ。あの男は、ヨハンと同じ位狂ってる人だぞ?危ないよ」

 「わかってます。でも、確かめたいことがあるんです。お願いします」


 トゥルーデはブライアンの目を見つめながら言った。

 ブライアンはため息をついた。


 「ハア。仕方ない」


 そしてそう言うと、再びジェイコブの方を向いた。


 「ジェイコブ。トゥルーデが一緒に乗ってくれるそうだ。だが、妙なことはするな。もしもそんなことをすれば・・・・・・・」

 「しませんよ。そんなこと」


 もう丁寧に話すこともしなくなったブライアンに、ジェイコブは苦笑いしながら言った。


 「それじゃあ、またね。今日は本当にありがとう!」

 「また今度ね!」

 「いつでも相談してくれ」


 トゥルーデはダニエルズ父娘に挨拶した後、ジェイコブと高級車に乗った。

 高級車が出発すると、トゥルーデはダニエルズ父娘に手を振った。

 ダニエルズ父娘は心配そうな目で見ながらも、手を振り返してくれた。

 角を曲がって2人が見えなくなると、トゥルーデは振っていた手を再び袋に添えた。


 「・・・・・・ジェイコブ。それで、話って何?その腕時計のこと?」


 彼女の視線の先には、ジェイコブが着けている物―—「黒い腕時計」があった。

 トゥルーデはそれに見覚えがある。


 「やはり、気づいたか。さすがトゥルーデ」


 ジェイコブは前を向いたままニヤリと笑った。

ジェイコブは一体、何を考えているのでしょう?

わからないことが多いですね。

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