第24話 最強ペア
今回はしつこい人達が登場します。
苦手な方はご注意下さい。
週明けの朝。
ヨハンナは車を幼稚園の駐車場に停めた。
そして、いつもの確認を始める。
「ボブ」
「わかってる。怪しい奴が来ないよう、遠くから見守る」
「トゥルーデ」
「今日も元気に頑張る!」
「良し。それじゃあ、行こうか」
ヨハンナはそう言うと、3人で車を降りた。
ボブがいつも通りどこかへ消えた後、トゥルーデとヨハンナは園庭に入った。
「トゥルーデ!おはよう!」
「おはようございます!トゥルーデさん!」
園庭に入った直後、シャーロットとピーターがトゥルーデに挨拶してくれた。
「おはよう!」
トゥルーデも元気に挨拶を返す。
シャーロットとピーターはヨハンナにも挨拶した後、トゥルーデの方を向いて、あることに気づいた。
「あ、あれ?」
「そういえば、トゥルーデさん。左のほっぺが・・・・・・」
「うん。治ったの!」
トゥルーデは笑顔で言った。
そう。トゥルーデの左頬の腫れが治ったのである。
お遊戯会の次の日にヨハンナが病院に連れて行った際、医師からは症状が治まるまでに数週間かかると言われたが、たった数日で跡も残らず治ってしまった。
おかげでガーゼを貼り続ける必要もない。
「良かったね!」
シャーロットはトゥルーデに抱きついた。
「あれ?ちょっと太った?」
「え?そう?」
「うん。早速鬼ごっこした方が良いかも」
「やる!」
トゥルーデはうなずいた。
「僕もやります!じゃんけんしましょう!」
ピーターも鬼ごっこに参加するようだ。
他のキルス教徒の園児達もその様子に気づくと、トゥルーデ達の周りに集まり始めた。
いつの間にか、大きな「輪」ができている。
ヨハンナはそれを見て微笑み、トゥルーデとシャーロット達に挨拶してから園庭を出た。
(トゥルーデ、人気者になったなぁ。まあ、あんなに格好良かったら、当然か)
彼女はそう思いながら自分の車に向かった。
すると、そのタイミングで突然、大男が8名も周囲の車の陰から現れ、一瞬でヨハンナを取り囲んだ。
ヨハンナは舌打ちすると、腕組みした。
「・・・・・・何?邪魔」
この動きはただのならず者集団ではない。
何か目的があって動かされている、統制された集団だ。
「ヨハンナ・グレゴリィー。お前は選択を間違えたぞぉ」
正面の大男の背後にある高級車から白スーツの男性が降りてきた。
喋り方がねっとりしていて、やや低い声だ。
「俺達父子に逆らうことは、ルクレール家に逆らうことと同じぃ。つまり、ここでリンチされても文句は言えないという訳だぁ」
「・・・・・・あ~。あなた、ドロススの父親か」
よく見ると、白スーツの男性の顔は息子のドロススに似て、整った顔だが、表情は醜い。
心の醜さが表に出てしまうタイプである。
「そうだぁ。お前は、グレゴリー家の血を引く者でありながら穢れた害虫を甘やかし、俺の息子がそいつに恥をかかされるのを止めなかったぁ。許せんんんん」
「うちの子をいじめたのは、あなたの息子さんの方なんですけど?」
「黙れぇええええええええっ!!キルス家の血を引く虫ケラなど、踏まれて当然の存在ぃ!!まずはお前をリンチして殺しぃ、それを見て絶望したあのキルス女をじっくり可愛がってやるぅ。その次は、あの探偵もどきの番だぁああ」
「うわあ。イカれてるねぇ」
ヨハンナは引いてしまった。
やはり正気ではない。
「正気じゃないのはそっちだぁ。六大名族の中ではぁ、グレゴリー家よりも、ルクレール家の方が上なのに、そのルクレール家の会社の幹部一族に恥をかかせるなんてぇ」
白スーツの男性、いや、白スーツ男はにんまりと笑った。
しかし、ヨハンナは落ち着いたままだ。
「うわあ。可哀想だね」
「はぁ?」
「だって、そんな大事な部下とその息子が恥をかかされたのに、ルクレール家の当主はこの場に来てくれなかったでしょ?」
「・・・・・・!!」
白スーツ男の顔は真っ赤になった。
ヨハンナはそれを見て、冷たい笑みを浮かべた。
「本当に私達、ルクレール家を敵にしちゃったのかな?」
「黙れぇ」
「本当は、あの社長さんはさぁ」
「黙れぇ!」
「あなたみたいな小物、全然気にしてないんじゃない?」
「黙れぇええええええええええ!!!!!」
白スーツ男はヨハンナからの度重なる挑発で、最初の冷静さを失ってしまった。
彼女の狙い通りに。
「本当にあなた達は・・・・・・、おバカなんだね」
ヨハンナは右手を上げ、指をパチンッと鳴らした。
すると、白スーツ男の背後からボブがぬっと現れ、彼の頭にナイフを突きつけた。
「ヒィイイイィイーーーッ!!?」
白スーツ男が情けない悲鳴を上げる。
大男達はそれに反応して白スーツ男の方を向き、青ざめた。
「ああ!?ボス!!」
「何てことしやがる!?」
「クソッ!!」
ヨハンナは静かにボブへきいた。
「ねえ、ボブ。そこの白スーツ、何て言ってた?」
「・・・・・・お前をリンチして殺した後、トゥルーデも『可愛がる』と」
「その通り。これからするお・し・お・き、手伝ってくれる?」
「もちろんだ」
ボブはうなずいた。
「まぁ、待てぇ!!」
白スーツ男が叫んだが、ヨハンナとボブは聞かなかった。
「いっくよーー?」
ヨハンナはそう言うと、早速目の前でよそ見をしていた正面の大男の間合いに入る。
そして、下段蹴りを食らわせた。
「んっ!?んんんああああああああっ!!?」
大男は悲鳴を上げて膝を抱える。
ボブに注意を向けてしまったことで油断してしまい、まともにダメージを食らった。
ヨハンナはそれを見ても容赦なく蹴りを繰り返し、地面に倒した。
「あと7人」
ヨハンナがそうつぶやくと、今度はヨハンナの方に注意が向いた。
「舐めやがって・・・・・・!!」
「予定通り、リンチしてやんよ!!」
「ま、待て!まずはボスの救出を――」
大男達の意見が分かれる。
その隙を突き、ボブは持っていたナイフを白スーツ男の太ももに刺した。
「あぎゃあああああ!!」
白いスラックスが真っ赤に染まる。
大男達は再び「ボス」の方を向いて叫ぶ。
「ボスゥうううう!?」
「こちらに人質がいることを忘れるな」
「卑怯だぞ、貴様ぁあ!!」
「大人数で女をリンチしようとしてるお前達がそれを言うのか?クズ共が」
「ぐうう・・・・・・!」
「ハッ!笑える」
ボブはそう言うと、白スーツ男の太ももから勢いよくナイフを抜いた。
「うおおおお!?」
「大人しく俺達に殴られてくれるなら、このクズスーツ野郎は解放してやる。だが、抵抗する気なら・・・・・・、入院する奴がもう1人増えることになる」
叫ぶ白スーツ男を無視し、そう脅すボブ。
大男達は一瞬戸惑ったが、
「た、助けてぇ!!こいつぅ、まともじゃないぃいい!!」
と叫ぶ白スーツ男を見て、すぐに決断した。
「二手に分かれるぞ。俺と弟達の4人でボスを助ける。他の3人は全力であの女を殺せ」
リーダーの男がそう言うと、他のメンバー達は無言でうなずき、同時に動いた。
リーダーと彼の弟達の4名はボブと白スーツ男の方へ、一方、他の3名はヨハンナの方へそれぞれ走っていく。
ボブはそれを見て、ため息をついた。
「バカな上に、クズ。本当に救いようがない」
彼はそう言うと、ポケットからたくさんのビー玉を出し、地面にばらまいた。
勢いよく前のめりに走るリーダー達4兄弟はうっかりビー玉を踏んでしまい、足を滑らせた。
「「「うわっ!??」」」
転んだリーダー達は駐車場のアスファルトに頭をぶつけ、動かなくなった。
「チョロいな」
「チョロい!!」
ボブとヨハンナの声が重なる。
ヨハンナも大男3名を相手に勇敢に戦い、それぞれ急所に打撃を与えてダウンさせている。
「・・・・・・さすがだ」
ボブはつぶやく。
すると、そのタイミングで、ゆっくりと大男のリーダーが立ち上がった。
額からは血がダラダラと流れ、顔が真っ赤に見える。
「まああだあああだぁあああああ!!」
「フン」
ボブは動揺せず、彼の方を向いて静かに構えた。
「ボスぅううう!!」
リーダーがボブと白スーツ男の方へ近づいて来る。
「石頭が」
ボブはそう言うと、突然白スーツ男を前へ突き飛ばした。
「なっ!?」
「欲しいならくれてやるよ」
白スーツ男がリーダーの方に倒れ、リーダーは慌てて彼を支えた。
「だ、大丈夫――」
「もうお前らは一緒の病院に行くからな」
ボブは白スーツ男とリーダーを蹴り飛ばし、再び立ち上がろうとしたリーダーの首を押さえ、手首を切りつけた。
「んんんん!???」
「怖いか?覚えておけ。これが命を失うかもしれない恐怖だ」
2名が動かなくなった所で、ボブはナイフを拭いてシースにしまった。
その直後、
「ボブ、こっちは終わったよ」
ヨハンナが駆け寄ってくる。
ボブはそれを見て、笑顔になった。
「そうか。怪我は?」
「ない!」
「良かった。こちらも終わった。さて、今回の敵は一応大物らしいから、救急車呼んでやるか」
「そうだね」
「ん?ところで、時間は?」
「時間?あ!」
ヨハンナはボブに言われて、自分の黒い腕時計を見た。
彼女の顔が真っ青になっていく。
「遅刻するぅうううう!!」
「ハアァ・・・・・・。早く行け。後はやっておく」
「ごめん!お願い!」
ヨハンナは慌てて車に乗り、駐車場から去っていった。
ボブはそれを見送ると、静かに振り返った。
トゥルーデ達は遊びに夢中で、彼を見ていない。
一方、白スーツ男は彼に目を向けている。
「甘いな・・・・・・」
ボブはそう言うと、ゆっくり歩き出した。
◆
週末。
トゥルーデ、ヨハンナ、ボブの3名は、かつてキルス一家が住んでいた家に来た。
家の前には、どっさりと段ボール箱が積まれていた。トゥルーデが3歳の頃に登っていた木に届きそうな高さだ。
いや、大木より高いかもしれない。
トゥルーデは車から降りて、段ボール箱の山とアイビー公園の大木を見比べてみた。
・・・・・・あの大木よりは低いようだ。
「ほんっと、信じられない!こんないい加減な積み方するなんて!この街はどれだけ腐ってるの!?」
ヨハンナはトゥルーデの後に降りると、バタンッ!と車のドアを閉めた。
「落ち着け。トゥルーデが聞いているぞ」
最後に降りたボブがそう言った。
実は、ヨハンナは遺品整理業者に手伝いをお願いして、事前に遺品がどのような状態か確認してもらっていたのだが、当日に来てみると、勝手に段ボール箱に遺品を詰められた上に、雑に積まれていたのだ。
ヨハンナが怒るのは当然である。
「あ・・・・・・。うん、わかった」
ヨハンナは深呼吸すると、笑顔を浮かべてトゥルーデの頭に手を置いた。
「大丈夫。すぐに業者さんが手伝いに来てくれるから。それまで頑張ろう」
「うん!」
そして、早速遺品整理が始まった。
ヨハンナは車に積めそうな段ボール箱だけ選んで芝生の上に並べ、1個ずつ中身を確認していった。
トゥルーデとボブもその作業に参加し、特にトゥルーデは目的であるアルバムを見つけるため、慎重に段ボール箱を探した。
すると、意外とすぐに「アルバム」と書かれた段ボール箱を見つけた。
トゥルーデは目を輝かせた。
「アル・・・・・・バム!?」
良かったね、トゥルーデ!
このまま何事もなければ・・・・・・、いえ、何でもないです。




