第23話 ご褒美
久しぶりの穏やかな回・・・・・・かも?
さあ、始まりますよ!
「ボーーブ♡何か言うことない?」
ヨハンナは笑顔を浮かべて、ボブにきいた。
ここは階段の前だ。
脇の奥のリビングには、アニメを観ているトゥルーデがいる。
何故ヨハンナとブライアンが2人でこんな所にいるのかというと、お遊戯会の日の件についてヨハンナがきこうとしているためだ。
数日前のお遊戯会でボブが急用ができたという理由で突然休んだため、ヨハンナはブライアンと2人で私兵部隊と戦う羽目になった。
サブリナが助けてくれなかったら、疲労のせいで負けていたかもしれない。
理由は聞いておく必要がある。
また、トゥルーデが聞いたらショックを受ける恐れがあるので、このタイミングのこの場所で話を聞くことにした。
「あの時はすまない。傭兵として、良くない行為だった・・・・・・」
「うん。そうだね。でも、私が聞きたいのは、り・ゆ・うなんだけどな?」
ボブはヨハンナの顔を見た。
笑顔だが、目は笑っていない。
ボブは口を開いた。
「・・・・・・娘のためだ」
「へ?娘?」
「ああ。俺の娘が病気で入院中なのは知っているな?」
「?もちろん」
知らない訳がない。
ヨハンナは、ボブからほぼ毎日彼の娘の話を聞かされており、入院についての話も知っていた。
「それが何か・・・・・・あ!?もしかして、何かあった?」
「あの日の前日に娘の容体が急変したんだ。このままじゃ、命も危ないって言われた」
「え、えええ!?やばいじゃん!」
「幸いなことに、峠は越えたが・・・・・・、またいつ急変するかわからん。だから、お遊戯会の日は休ませてもらったんだ」
ボブはそう言った。
ヨハンナは胸をなで下ろした。
「そうだったんだ。でも、水くさいな。何で事情を教えてくれなかったの?」
「トゥルーデがあのボンボンに狙われていた状況だぞ?言えない」
「はあああああ・・・・・・」
彼女は大きなため息をつくと、ボブの手をつかんだ。
「ヨ、ヨハンナ!?な、な、何を?」
ボブは頬を赤くした。
「私達の仲で、そんな遠慮は要らない。次からはちゃんと事情も話して。配慮できなくなるでしょ」
「す、すまなかった」
「本当にわかってるのかねえ・・・・・・」
ヨハンナは静かに手を離した。
「さあ、ボブも来て」
「え?」
「え、じゃない。板チョコを出すの手伝ってよ。段ボール箱にいっぱい詰めてあるから、運んで!」
「傭兵は雑用係じゃないと何度言ったら・・・・・・」
ボブは苦笑いしたが、結局うなずいた。
「わかったよ」
ヨハンナはボブを連れて、リビングに向かった。
◆
『カラテ仮面、またお前か!!』
『このカラテ仮面に、恐れるものなど何もないゾっ!!』
テレビから、奇妙な会話が。
仮面の上に黒いマスクをした不審者のような格好のヒーロー『カラテ仮面』が強盗達の前に立ちはだかり、強盗達と何かを言い合っているのだ。
今流れているのは、TVアニメ『カラテ仮面』。
いじめられっ子だった少年が空手を習って強くなり、ヒーローとして街を守る物語である。
「すごい!すごい!何で怖くないの!?」
トゥルーデはテレビの前に座り、興奮しながら言った。
治安の悪いデスタウンで人気が高いアニメは、この作品のことだ。
『食らうんだゾ!!台風回し蹴りぃいいいいいっ!!』
『ぎゃあああああーーーー!!!!!』
カラテ仮面はコマのように速く回転しながら強盗達を蹴り倒し、拳銃やナイフを地面に落とさせた。
強盗達は素早く立ち上がり、抵抗しようとするが、どの攻撃も防がれ、疲れ始めたところでみぞおちへの突きを入れられてダウンしてしまった。
『今日も、正義は守られたゾ!』
カラテ仮面は山のように積まれた強盗達の前でポーズを決めた。
その直後、後ろから老人が歩いてきた。
『おお、元気にやっとるのぉ』
老人が現れた瞬間、トゥルーデとカラテ仮面がほぼ同時に叫んだ。
「師匠さん!」
『師匠!!』
そう。彼がカラテ仮面に空手を教えた師範。
そのため、カラテ仮面からは「師匠」と呼ばれている。
トゥルーデがサブリナのことを「先生」ではなく、「師匠」と呼ぶことにしたのはそれに影響を受けたからだ。
『今日も、悪党共をやっつけられて偉いな。これで街の平和は守られた』
『押忍!!師匠の教えのおかげです!』
『嬉しいのぉ。どうだ?今夜は、かつ丼でもおごるぞ?』
『え、良いんですか!?』
『もちろんだ。ホホホホホッ』
『ありがとうございます!!』
カラテ仮面は警察に強盗達を渡した後、師範と一緒に歩き出した。
そのタイミングでエンディングに入り、トゥルーデは笑った。
「良いなぁ、強くて。あんなやばそうな人達相手でも、怖がってなかったし」
ある意味、ヨハンナに似ている。
そう思ったその時、突然ニュースが入り、速報のテロップが流れた。
『リリディア・キルス受刑者、国外逃亡の可能性。デビルズランド市警が協力者を逮捕』
トゥルーデは目を丸くした。
「え・・・・・・?」
一瞬リリディア本人が逮捕されたと思ったが、テロップを読んで、すぐに彼の協力者が逮捕されたのだとわかり、息をついた。
喜んでいいのかはわからない。
逃亡している限り、誤解されている状況はずっと続く。
だが、リリディアにとって良くないニュースを聞くことになるのも、嫌だ。
リリディアの正当防衛が認められたというニュースなら、心から喜ぶことができるのに。
『先程、デビルズランド市警がリリディア・キルス受刑者の逃亡を手助けした協力者を逮捕したと発表しました。その協力者の家に保管されていた資料を押収した際、リリディア・キルス受刑者への偽造パスポートに関する記録も発見され、キルス受刑者が国外逃亡した可能性が出てきています』
アナウンサーの声がテレビから聞こえる。
トゥルーデは先程まで楽しんでいたが、今は複雑な気持ちになってしまった。
しかし、その直後、
「トゥルーデ、お待ちかねのご褒美タイムだよ!」
ヨハンナがボブと共にリビングに入ってくるのを見て、自然と笑顔になった。
「ありがとう」
トゥルーデはリモコンを取って、テレビを消した。
ドンッ。
テーブルの上に、段ボール箱が置かれた。
ヨハンナに促されて開けてみる。
入っていたのは、何十枚もの板チョコだ。
トゥルーデは目を輝かせた。
「こ、これが、板チョコ・・・・・・・!」
ヨハンナはニコリと笑い、トゥルーデに板チョコを手渡した。
「はい、どうぞ。ご褒美」
「ありがとう!」
トゥルーデは笑顔でお礼を言った。
ヨハンナはボブの方を向き、彼にも板チョコを差し出した。
「はい、ボブにも」
「い、良いのか?」
「休憩しなさいよ」
「・・・・・・ありがとな」
ボブは板チョコを受け取ると、お礼を言った。
その後、ヨハンナは3人分のカップにココアを入れ、テーブルに置いた。
「ヨハンナねえさんは食べないの?」
「私はお腹すいてないからね~。トゥルーデの顔を見ながらココア飲んでれば、満足だよ」
「え~~!?もったいない!」
ヨハンナはクスッと笑い、3人で座った。
「さあ、食べて」
「はーい」
「ああ」
トゥルーデとボブは包み紙を剥がして、茶色く光る、いや、光っているように見える板チョコをパキッとかじった。
「ほわ・・・・・・!」
「これは」
「・・・・・・さ」
トゥルーデは震えた。
そして、
「さいこーーーーーーーーーーーーっ!!!!」
気づくと、叫んでいた。
とろけるような甘さと噛んだ時の心地よい食感が素晴らしく、一口食べただけで虜になった。
ボブも、トゥルーデの言葉にうなずいた。
「確かにそうだな。美味い」
「でしょ?いい所から買ったからね。トゥルーデが頑張ったご褒美だから」
ヨハンナは微笑みながらココアを飲んだ。
「フーウゥ・・・・・・ッ。お遊戯会では本当にすごかったよ。トゥルーデは母親に似てお芝居が上手なんだね」
「母さん・・・・・・。ヨハンナねえさんは、母さんの演技観たことある?」
「もちろんだよ。あの子は・・・・・・、トゥルーデのお母さんは昔からお芝居してた。多分、会った時から、ね」
「会った時から?」
トゥルーデはヨハンナの言葉に首をかしげた。
「多分だよ。あの子は不思議ちゃんだから」
「私、母さんの話、あまり聞いたことなかったかも。ヨハンナねえさん、お話してくれるかな?」
「うーん。良いけど・・・・・・、小さい子にはちょっと長く感じるかも。・・・・・・あ!」
ヨハンナはもう片方の手の指をパッチンと鳴らした。
「今度あの家の遺品整理に行くんだけど、トゥルーデも来る?あの家に確か、アルバムがあったはず。・・・・・・あったよね?」
「あ・・・・・・!ある!」
トゥルーデはうなずいた。
昔、サイラスが青い表紙のアルバムを見せてくれていた。
今もあの家にあるはず。
「あのアルバムの写真を見ながら話を聞けば、そこまで長くは感じないんじゃないかな?トゥルーデ、どう?」
「OK!」
「良かった!来週の週末、ついてきてね!」
「はーい!」
トゥルーデは元気よく返事した。
すると、そのタイミングでボブが言った。
「待て、2人とも。何か忘れていないか?」
「な、何?」
「忘れていること??」
トゥルーデとヨハンナは首をかしげた。
何か大事なことを忘れてしまっていただろうか?
ボブは黙り込んでココアを飲むと、しばらくして口を開いた。
「俺は・・・・・・、トゥルーデのお芝居を観ていない」
トゥルーデとヨハンナはそれを聞いて拍子抜けした。
「ビックリさせないでよ、ボブさん」
「私が撮っておいたビデオがあるから、それを観なさい」
「ありがとう!」
ボブは笑顔を浮かべてお礼を言った。
「全く。・・・・・・ほら、トゥルーデも、ココア飲んで。板チョコとの組み合わせがすごいから」
「本当?・・・・・・おおおおお!」
トゥルーデが板チョコに続いてココアを味わい、幸せそうな表情を浮かべる。
ボブはそれを見て、静かにカップを置くと、胸に手を当てた。
「・・・・・・」
おおお・・・・・・。
今回は珍しく何も事件が起きませんでしたね。
・・・・・・今回は、ね。




