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デスタウン  作者: 天園風太郎
第1章 自由の夜明け
22/35

第22話 大切な人達を守るために

サブリナの考えは、何なのでしょう?

 しばらくして、お遊戯会が終わったので、ヨハンナ達はトゥルーデ達のクラスへお迎えに行った。

 途中で別のクラスの子供達にサブリナが声をかけ、話を聞いた。

 どうやら、自身の道場に通う子供達にトゥルーデが実際にどんな子なのかよく見ていてほしいと事前に頼んでいたようだ。


 「思ったより、良い奴でした!」

 「何か、色々と助けてくれたよな」

 「糸でお返ししときました」


 トゥルーデの人助けで印象が変わった子が多く、その中には、荷物を落としそうになった際に支えてもらった子もいた。


 「ししょー。俺、もうあいつの悪口、やめます」

 「そっか。そう決めたなら、貫きなさい。あなたの道を、私は支えるから」


 サブリナはその子の頭を静かになでた。


 「ところで、他に何か報告することない?」

 「そういえば・・・・・・」


 トゥルーデの性格についての報告を聞き終わったサブリナは、そばで待ってくれていたヨハンナとブライアンの方に歩み寄った。


 「ごめん。待たせた」

 「左頬について知ってる子はいました?」

 「いいえ。ただ、劇が始まるまではどこも怪我してなかったのに、何で・・・・・・とは言ってた」

 「つまり、始まる直前に何かあったということですね?」


 ブライアンが鋭い質問をすると、サブリナがうなずいた。


 「その通り。何かが起きた。それは間違いない」



 3人は再び歩き出し、トゥルーデ達がいるクラスまで来た。

 ちょうど着替え終えたトゥルーデ達は、にこやかに話していた。

 トゥルーデはふと視線に気づき、ヨハンナ達の方を向いて手を振った。


 「ヨハンナねえさん!!」

 「トゥルーデ・・・・・・」


 ヨハンナは手を振り返した。

 トゥルーデがヨハンナ達のそばに駆け寄る。


 「どうだった?どうだった?私の演技!!」


 トゥルーデは目を輝かせてきいた。

 ヨハンナはトゥルーデの左頬を見た。

 ガーゼの上からわかる位腫れている。小さいが、見ていて痛そうなのは伝わってくる。

 左頬を見た後、彼女は目を合わせて言った。


 「・・・・・・良かったよ。名演技だった。とても、とっても頑張ったね。偉い」

 「本当!?」


 トゥルーデがきくと、ヨハンナはしゃがんで目線を合わせた。


 「うん。板チョコ、楽しみにしてね」

 「やった!」


 ヨハンナは喜ぶトゥルーデの頭をなでた。

 シャーロットも、トゥルーデに続いてヨハンナ達の方へ向かった。


 「パパ!!先生!!押忍!観ててくれた?」

 「ああ、最高だった。観ていて心配になるような女の子をよく演じられたな。今夜はごちそうだ」

 「いつもごちそうでしょ!!」

 「良いね。シャーロットはちょっと細いから、もっと食べなさい。フラフラしてる場面があったぞ?」

 「え!?本当ですか??」


 シャーロットは口に手を当てた。

 ブライアンは笑顔を浮かべてサブリナの方を向いた。


 「先生?」

 「な、何?改善すべき点はちゃんと言わないと、上手くならないでしょ?でも・・・・・・、そこがあまり気にならない位、大胆で良かった。兎みたいにピョンピョン飛び跳ねてるところとかね」

 「や、やっぱり、先生もそこに気づいちゃう?フフフ!そうですよねー!」


 シャーロットは息をつき、嬉しそうに笑った。


 「え、『先生』?」


 トゥルーデはシャーロットの言葉を聞いて、横を向いた。

 ブライアンの隣に、知らない女性が立っている。


 「あ、あなたは・・・・・・!」

 「ほう・・・・・・」


 サブリナは興味深そうに笑うと、トゥルーデの方を向いてしゃがんだ。


 「初めまして。私はサブリナ・アンダーソン。空手道場の師範をしている」

 「は、初めまして!トゥルーデ・キルスです!」


 トゥルーデはペコリとお辞儀した。


 「礼儀正しい子だね。ああ、お遊戯会の劇観たよ。怪我してたのに、全力でやり切ったね。素晴らしい精神と体力だった」

 「ほ、本当!?」


 トゥルーデがきくと、サブリナはうなずいた。


 「嘘ではない。あなたには、強くなる素質がある。ところで、その左頬、どうしたの?」

 「実は・・・・・・」


 トゥルーデは一瞬後ろを向いた。

 その先には、教室の隅で震えながら首を振るドロススがいた。

 彼女は再び前を向く。


 「ドロススに殴られました」

 「「えっ!?」」


 トゥルーデの言葉に、ヨハンナとブライアンは驚いた。

 ドロススが陰謀を企てていたことはわかっていたが、まさか直接殴るとは。


 「それは本当?」


 サブリナがきいた。

 すると、ピーターが手を挙げた。


 「僕はピーター・ライトといいます。少しよろしいですか?」

 「・・・・・・あ~、そっか。うん。ピーター、どうした?」

 「トゥルーデさんの言ってることは本当です。ドロススが僕を殴ろうとして、トゥルーデさんがとっさに庇ってくれたんです」

 「それは・・・・・・、劇の直前?」

 「・・・・・・!?はい」

 「やっぱりか」


 サブリナは納得したように言った。


 「またチクったのか、お前ぇえええ!!」


 ドロススは我慢できず、叫び声を上げた。


 「あいつがドロスス・・・・・・!」

 「写真で見るよりも、クズさが顔に出ていますね。反吐が出る」


 ヨハンナとブライアンはドロススの言動に眉をひそめる。

 ドロススはそのことに気づかず、トゥルーデにも矛先を向けた。


 「そもそもお前が!お前が大人しく狼役を譲ってればこんなことには!お前なんかこの世界からき――」

 「あ?」


 しかし、罵る途中でサブリナに睨まれた途端、黙り込んでしまった。

 息が苦しくなる程の「圧」だ。


 「全く。血筋しか自慢できるところがない虫けらが」


 サブリナはため息をつくと、トゥルーデの方に視線を戻した。

 不安にさせないよう、ニコリと笑顔を浮かべて。


 「大変だったね、トゥルーデ」

 「はい。大変でした!」


 トゥルーデは素直に言った。


 「フフ。ねえ、きいて良い?」

 「はい」

 「何で、先生に言いつけてそこのクズを排除させなかった?こんな怪我させて、謝るどころか悪口を言ってくる救いようのない奴なのに」

 「それは・・・・・・、あいつがいないと劇を成功させたことにならないから」

 「え?」

 「劇は、『皆』で成功させるもの。だから、ドロスス1人を仲間はずれにしたら、どんなにお客さんに褒めてもらっても、それは成功とは言えないと思ったんです。もちろん、病気とかでお休みになったとかならしょうがないですけど」

 「皆・・・・・・で?」


 サブリナが目を丸くしてきくと、隣で聞いていたシャーロットがうなずいた。


 「皆で、です!先生に新品の狼の衣装だけ取り上げてもらって、強く注意してもらう。それで、木の役として参加するしかないようにする。そうすれば、無事に皆で劇ができる。それがトゥルーデの考えた答え・・・・・・、かな?」

 「その通り!」


 シャーロットの言葉に、トゥルーデは親指を立てた。


 「なるほど。柔軟だ。しかし、無茶だなぁ・・・・・・」

 「わかってます。でも、でも!」


 クーッ。


 「は!?」


 トゥルーデが何か言おうとしたその時、彼女のお腹が鳴ってしまった。

 サブリナは吹き出しそうになった。


 「ごめん。今日のお喋りはこれで最後にするから。最後にきかせて。・・・・・・私に空手を習いたい理由を教えて」

 「はい?」

 「トゥルーデが超頑張ったのはわかった。条件の『お遊戯会で起こる妨害を上手く乗り越える柔軟さと体力』を、痛いのを我慢してまで見せてくれたし。でも、そこまでして私に空手を習いたいのは何でなのかなって」

 「それは・・・・・・」


 トゥルーデは一瞬言葉に詰まった。

 しかし、すぐに答えを言った。


 「大切な人達を守りたいからです」

 「ほう?」

 「私は・・・・・・、私は、父さんと母さんを殺した悪魔に命を狙われてます。もしもあいつが私を殺しに来たら、きっと、私のそばにいる人も、守ろうとしてくれる人も巻き添えになるかもしれない。でも、そんなの嫌なんです。あの時みたいに何もできないのは、嫌です。だから、皆を守れる位強くなることを目指したいんです。そのためには、超強いあなたに空手を習った方が良いと思いました」

 「父さんと母さん、か。・・・・・・そうか」


 サブリナはトゥルーデの話を聞いて、少しうつむいた。

 トゥルーデはその様子に気づき、首をかしげた。


 「・・・・・・サブリナさん?」

 「ん?ああ」


 サブリナはすぐにまたトゥルーデと目を合わせた。


 「わかるよ。家族を想う気持ちは、私もわかる。2度と失いたくないって気持ちもね。つまり、もうこれ以上失いたくないから、もっと強くなりたいってことかな?」

 「はい!」

 「・・・・・・わかった。良いよ。入門を認めます」

 「ほ、本当!?」

 「ただし、私のことは、『先生』か『師匠』って呼ぶこと。私から習うんだから、しっかり意識して」

 「はい、師匠!」


 トゥルーデは元気に返事した。

 その瞬間、見守っていた周囲は大きな拍手を送り、遠巻きに見ていたドゥールー教徒の園児達からも、まばらな拍手が送られた。


 「頑張れ」


 ニナの声が、拍手の中で聞こえた。

 やっとトゥルーデの努力が報われたが、本当に大変なのはここからなのだ。





 数分後。

 トゥルーデとヨハンナはシャーロット達と別れ、駐車場に入った。


 「トゥルーデ、怖かったね。あんなクズに殴られるなんて」

 「心配・・・・・・させちゃった?」

 「当たり前でしょ。ああ、もう。こんなに腫れちゃって」


 ヨハンナはため息をついた。

 トゥルーデの左頬の腫れは小さいが、それでも、ヨハンナから見ると大怪我だ。


 「そ、そんなに腫れてないよ。でも、ごめんなさい」

 「トゥルーデは悪くないよ。悪いのはあのボンボン。本当に最低っ!」


 ヨハンナはトゥルーデのために怒った。

 その顔はまるで・・・・・・。


 「・・・・・・母さん?」

 「え?・・・・・・ええ!?」

 「あ、ごめんなさい!何でもない!」


 トゥルーデは恥ずかしがりながら口を押さえた。

 ヨハンナは彼女の様子をじっと見ると、深呼吸して気持ちを落ち着かせた。


 「・・・・・・まあ、良いよ。ほら、乗ろう?」

 「うん」


 トゥルーデとヨハンナは手をつないで車まで歩いた。



 車に乗ると、トゥルーデはヨハンナにきいた。


 「ねえ、ヨハンナねえさん。ところで、そのマスク、どうしたの?」

 「え?あ!」


 ヨハンナはルームミラーを見て、叫んでしまった。

 マスクを着けたまま歩いていたのだ。


 「うう。恥ずかしすぎだよぉ・・・・・・」


 トゥルーデは首を振った。


 「恥ずかしくない!普通に格好良かったと思う!」

 「そ、そう?」

 「うん。アニメのヒーローみたいだった!」

 「ヒーロー?」

 「うん。空手で悪い奴をやっつけるヒーロー」

 「ああ、あれか。トゥルーデの好きなやつ」


 ヨハンナは笑った。

 トゥルーデが言っているアニメは、他の地域ではあまり観られていないが、治安の悪いこの街では人気が高い。

 トゥルーデもリビングで観ているのを、ヨハンナは見かけたことがある。


 「それで、そのマスクは何?」

 「えっと、これはね、ちょっと劇の直前まで『お掃除』してた時に着けたの。その後、外すのを忘れてただけ」


 彼女はマスクを外し、シートベルトを確認した。

 その後、車はゆっくり発進し、静かに駐車場を抜けた。

次回、板チョコ回が来ます!

お楽しみに!

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