第21話 失敗
ヨハンナがピンチです!!
再び風が吹き、薄くなった煙が横へ流されていく。
その場に立っていたのは、ヨハンナとブライアン、そして、ヨハンナに銃を突きつける私兵部隊の隊長の3人だけだった。
「よく頑張ったが、ここでお前達の物語は終わりだ。空手では、銃に勝てない」
隊長が不気味な笑みを浮かべて言うと、ヨハンナは首を振った。
「部下を全員やられて、よくそんなこと言えるね」
「貴様ぁ!!」
隊長は激怒し、引き金を引こうとした。
(やっぱり、おバカなんだね)
ヨハンナは相手が感情的になった隙を突き、振り返って上段蹴りをするつもりだった。
大勢を相手にしたせいで身体が疲れ始めているが、やらなければ命が危ない。
彼女は一瞬で振り向く。
その時、
「やあ、2人とも」
聞き覚えのある声と同時に何者かが駐車場の方から歩いてきた。
建物の影で、顔はよく見えない。
隊長は指を止め、その人物の方を向いた。
「何者だ!?」
「遅くなってすまない。アウラの相談に乗っていたら、いつの間にかこんな時間になった」
その人物は隊長の問いかけを無視し、そのまま前へ歩き続けた。
そして影を出て、3人の前に立つ。
サングラスをかけた黒いショートヘアの女性。
ブライアンは目を丸くした。
「先生?」
そう。彼女が、マフィアからダニエルズ父娘を助け、トゥルーデには入門の条件を出した空手家である。
(サブリナ・アンダーソン。1989年にゾンビから身を守るための流派『デスタウン流』を開いた人。今日も底知れないな)
ヨハンナがトゥルーデに彼女、サブリナ・アンダーソンを薦めたのはその実力が本物で構えも綺麗なためだが、それと同時に少し不気味さも感じていた。
しかし、その複雑な気持ちは表に出さず、ヨハンナは静かに一礼した。
「来て下さって、ありがとうございます」
「トゥルーデをこの目で確かめたくて、来てしまった。サプライズのつもりで黙ってたんだが、許してくれ。今日は――」
「貴様、俺を無視するな!!俺を誰だと思ってる!?」
隊長は2人の話を遮り、怒鳴った。
すると、サブリナはため息をついた。
「知らない。興味ない。聞きたくない。そんなことより、その物騒なもの、ヨハンナからどけようか?」
「何だとぉ・・・・・・!!舐めるなっ!!」
サブリナの挑発で、隊長の銃は彼女の方へ向けられた。
ヨハンナは焦り、隊長の手をつかもうとしたが、サブリナはその前に動いた。
突然、隊長に向かって一直線に走ったのだ。
「やる気かっ!!」
隊長は震えた手で発砲した。
しかし、それとほぼ同時にヨハンナは銃弾を避ける。
「「は??」」
ヨハンナと隊長の声が重なる。
隊長は何度もサブリナに発砲したが、どれも避けられ、気づくと至近距離まで近づかれていた。
「このぉ・・・・・・!」
隊長は深呼吸すると、今度はしっかりサブリナの頭に狙いを定めた。
引き金を引く。
カチッ。・・・・・・カチカチカチカチッ。
しかし、発砲できない。
弾切れだ。
「クソッ。なら、ダガーだっ!!」
隊長は銃を投げ捨て、ダガーナイフを腰のポケットから取り出した。
だが、既に遅かった。
サブリナは目の前で止まり、回転していた。
「な・・・・・・っ!!」
「回し蹴り」
サブリナは隊長の頭に回し蹴りを食らわせ、彼をダガーナイフごと茂みに飛ばした。
「あがががが、が」
隊長はうめいていたが、しばらくして動かなくなった。
「脳震盪かな。まあ、どうでも良いか」
サブリナは腰に手を当て、息をついた。
ヨハンナは唾を飲んだ。
(すごい。銃を持った相手にあんな動きを。私はブライアンの逃走用の煙玉を頼らなきゃ、銃を持った相手と戦えなかったのに、サブリナ先生は正面から立ち向かって勝った。やっぱり、実力がはるかに違う)
ブライアンはヨハンナとサブリナの方に歩み寄った。
「2人とも、お怪我はありませんか?」
「え?ああ・・・・・・、大丈夫」
「もちろん。それより、早く行こう」
サブリナは弾んだ声で言った。
ヨハンナはサブリナにその強さの秘密をききたくなったが、劇が間もなく始まるため、今はやめておくことにした。
「ええ。行きましょう」
ヨハンナとブライアン、そしてサブリナの3人は、地面に倒れている私兵部隊を放置してホールへ入っていった。
◆
(クソッ!もう少しで俺が狼になれたのにっ!これも全部あのキルス女のせいだ!!)
ドロススは衣装の枝をプルプル揺らした。
「ドロスス様、大丈夫ですか?」
岩の衣装を着せられた取り巻きの1人が心配してきいたが、苛立っているドロススはギロリと睨む。
「大丈夫に見えるのか?お前は!!」
「ひっ!ごめんなさいごめんなさい!!」
取り巻きは泣いて謝り始めた。
それを横で見ていたニナはため息をついた。
「いい加減にして。もうすぐ本番なんだから。真面目にやらないと、ボクがキミをお仕置きすることになるよ」
「ニナァ、誰に向かってそんなこと!」
「ただのボンボンに」
「なっ!?」
「言っておくけど、ボクはキルス教徒の奴らと違って甘くないよ。次、あんなことしたり、ふざけたりしたら、本当にお仕置きね」
「ぐぅ・・・・・・!」
ドロススはニナに脅され、黙ってしまった。
(この俺によくもそんな口を・・・・・・!)
そんなことを思っていても、口には出せなかった。
何故なら、「キミに人を見下せるほどの力なんかあるの?」と返されるのが怖いから。
ドロススは劇の役を決める話し合いの際、最初に猟師役に挙手した。
赤ずきん役のシャーロットを救う役として活躍することで、彼女に良いところを見せたかったのだ。
しかし、ほぼ同時に挙手し、競うことになったニナの方が演技力が高かった。
父親の力があるにも関わらず、演技で勝負した結果、ドロススはニナに猟師役を取られてしまった。
それなら名悪役として活躍しようと狼役を希望したが、それも、「特別な理由」によってトゥルーデに取られてしまった。
ドロススは「嘘つきの害虫なら上手くできるな!譲ってやる!」と負け惜しみを言ったが、そんな彼に残されていたのは木の役だけだった。
そのため、トゥルーデのことを一番恨んでいるが、同時に、最初に役を奪い、同じドゥールー教徒でありながら自分の味方をしないニナのことも恨んでいる。
しかし、実力がないのはドロスス本人が最もわかっているので、親の力で劇を私物化する陰謀を企てていたし、今もニナに言い返されるのを怖がって黙ってしまうのだ。
(だが、今はそれどころじゃねーな。計画は失敗しちまった。その上、トゥルーデの奴は、クラスの連中を味方につけた。ニナまで生意気なことを平然と言いやがる。このままじゃ、やばい。やばすぎる。私兵共、ちゃんと計画が失敗した場合のプランをやってくれるだろうな?)
ドロススは冷や汗をかいた。
その時、幕が上がった。
ついに劇が始まる。
「スーーーッ。ハーーーーッ!」
トゥルーデは深呼吸し、客席の方を向いた。
そんな彼女の背中を、哀れな木はただ睨むことしかできなかった。
◆
『昔、かわいい女の子がいました。彼女はおばあちゃんからもらった赤い頭巾をいつもかぶり、とても似合っていたので、赤ずきんと呼ばれました・・・・・・』
ナレーターのライリーがあらすじを読み、劇が進んでいく。
「おばあちゃん、待っててね!今、お見舞いに行くから!」
赤い頭巾を被ったシャーロットがクルクル回りながらセリフを言う。
そこへ、狼の衣装を着たトゥルーデが段ボールから現れた。
「うわ、狼さん!」
「可愛いお嬢さん。どこへ行くんだい?」
「おばあちゃんちにお見舞いに行くの!」
狼と赤ずきんが話しているタイミングで、ヨハンナとブライアン、サブリナの3人がホールに入り、空いている席に座った。
ヨハンナ達は息をついたが、狼の左頬を見て、青ざめた。
そのことに気づかず、狼と赤ずきんは話を続ける。
赤ずきんは、狼にペラペラと話した。自分のことも、おばあさんの家の場所も。
それを聞いた狼は静かに笑みを浮かべた。
「そうなのかい?それなら、向こうの場所にお花が咲いてるから、持って行ってあげなさい」
「でも、寄り道したらダメだって・・・・・・」
「おばあちゃん、喜ぶだろうなぁ?」
「そ、そうだね。ありがとう!」
赤ずきんは寄り道をしに、脇道へスキップしていく。
赤ずきんが寄り道している間に狼はおばあさんの家へ行き、おばあさんを食べてしまう。
そして狼はおばあさんに変装すると、赤ずきんの到着を待つ。
狼はボロボロの毛布を被り、以前と同じように静かに待つ。
再び登場した赤ずきんがおばあさんの家に到着すると、「おばあさん」に3つの質問をする。
「おばあちゃんのお耳は、どうしてそんなに大きいの?」
「お前の声をよく聞くためだよ」
「おばあちゃんのおめめは、どうしてそんなに大きいの?」
「それは、お前のお顔をよく見るためだよ」
「どうして、おばあちゃんのお口はそんなに大きいの?」
最後の質問がきたタイミングで、狼は毛布をつかんだ。
「それはね・・・・・・、お前を食べるためだ・・・・・・!」
狼が勢いよく飛び出した。
見えるのは、慈悲など感じられない「怪物」の表情。
狼が飛び出したのと同時に、赤ずきんの悲鳴が響く。
それと同時にホールは真っ暗になった。
しばらくして照明がつくと、狼が膨らんだお腹をさすっていた。
その後、通りかかったニナ演じる猟師に赤ずきんとおばあさんが助け出され、赤ずきんが道草をしないと誓った場面で劇が終わった。
幕が下りると、観客席から大きな拍手が送られた。
その中には、ビデオカメラを構えているヨハンナ達の姿も。
「トゥルーデ、よく頑張ったね・・・・・・!」
「シャーロットも、素敵な笑顔だったと思いますよ」
「2人とも、良い演技だったよ。色々妨害されただろうに、諦めず、疲れも見せず、全力でやり遂げた。特にトゥルーデ・・・・・・」
サブリナがそう言うと、ヨハンナとブライアンが彼女の方を向いた。
それに気づくと、サブリナも2人の方を向いた。
「あのガーゼ・・・・・・、左頬を怪我したということだ。顔が痛いはずなのに、そんな様子も見せなかった。諦めず、疲れも、痛みも見せない。心と体が強い子だな」
「そ、そうですね。でも、一体、何が・・・・・・」
ヨハンナはカメラを下ろし、不安そうに言った。
サブリナはフッと笑った。
「本当に娘みたいに思ってるんだね」
「へあ!?は、はい」
「良いことだと思うよ。大切にしなさい」
「もちろんです!」
ブライアンは、ヨハンナとサブリナの話を聞きながらゆっくりとカメラを止めた。
そして、悔しそうに口から漏らす。
「娘・・・・・・」
それは、シャーロットに向けた言葉か、それとも・・・・・・。
ブライアン・・・・・・?
どうしたのでしょう?




