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デスタウン  作者: 天園風太郎
第1章 自由の夜明け
20/35

第20話 本気(マジ)

ドロススの悪意が、人々を傷つけます。

 「トゥルーデに、何するのっ!!」


 また蛮行をしたドロススに、シャーロットは怒りの飛び蹴りを食らわせた。

 その威力でドロススは床に倒され、蹴りが当たったお腹を押さえた。


 「ぐああああーーーっ!?」

 「「ドロスス様ああ!!?」」


 取り巻き達はドロススに駆け寄ったが、それ以外のドゥールー教徒の園児達は冷たい視線を向けていた。


 「そんな芝居はいらないから、さっさとお着替えしろよ」


 ニナが代弁するようにつぶやく。

 シャーロットやキルス教徒の園児達はトゥルーデに駆け寄った。


 「トゥルーデ、大丈夫!?」

 「お怪我は!??」

 「あー、ちょっと痛いかも」


 トゥルーデは笑っているが、殴られた左頬はやや赤く腫れている。

 シャーロット達は青ざめた。


 「「全然大丈夫じゃない!!」」


 トゥルーデは目を丸くした。


 「そこまで酷い?」

 「うん!早く冷やさないと!」


 シャーロットがそう言って走ろうとするのを見たトゥルーデは、とっさに彼女の手をつかんだ。

 良いことを思いついたようだ。


 「待って。その前に先生に言いつけに行ってくれないかな?」

 「え!?で、でも」

 「確かにドロススは小さな貴族様だけど、こんなギリギリのタイミングでまた問題を起こしちゃったんだから、さすがに先生も庇えないよ。衣装を切り裂いた時と違って、目撃者もたくさんいるし」

 「そうだね。でも、アタシの話、信じてくれるかな?」

 「もちろん。シャーロットは皆の人気者でしょ?私の自慢の大親友にしか、こんなこと頼めない」

 「・・・・・・!わかった!待っててね!」


 シャーロットはコクリとうなずき、大急ぎで走っていった。

 ドロススはそれを見て、慌てて立ち上がった。


 「待て、シャーロット!!」


 しかし、シャーロットがドロススなどのために止まる訳がなく、既に彼女はいなくなっていた。


 「シャーロットォ・・・・・・!」


 ドロススは目に涙を浮かべた。

 しかし、同情している余裕がないトゥルーデ達はそれを気にしない。


 「はいはい。そーいうのは良いから、さっさと着替えて。あなたの衣装だよ?」


 ニナは、衣装部屋から持ってきたドロススの衣装を指さした。

 そう。あの「木の衣装」である。


 「感謝して。キルス教徒にベタベタ触らせないように、皆で持ってきてあげたんだから」


 ニナ達ドゥールー教徒の園児にできる最大限の配慮。

 だが、今のドロススにはそれが別のものに見えていたようだ。


 「バカにしやがってぇえええええ!」


 ドロススは周りの迷惑も考えずに叫ぶと、袖に隠していたナイフを瞬時に出した。

 宗教に関係なく、その場にいた園児のほとんどが悲鳴を上げる。


 「なっ!?マジでバカだった?」

 「そんなダサいやつ!!ズタズタにしてやる!!」


 涙と鼻水をまき散らしながらナイフを手に突進するドロスス。

 だが、トゥルーデに横から押し倒され、ナイフを持っている手を押さえられた。


 「は、離せ!!穢れるっ!!」

 「嫌だ」


 トゥルーデがそう言うと、ニナが声をかけた。


 「トゥルーデ・キルス」

 「ニナ。どうしたの?」

 「その・・・・・・、ありがとう」

 「え・・・・・・?」

 「それより、今はそこのボンボンに本当の衣装を着せなきゃ。ボク達が後はやるよ。早く自分の手当てして」

 「うん」


 トゥルーデはドロススをくすぐってナイフを落とさせると、ニナ達にドロススを渡した。

 そして、ドゥールー教徒の園児達が代わりにドロススの監視と着替えの手伝いをしてくれている間に、トゥルーデは椅子に座り、左頬を濡らしたタオルで冷やした。

 ピーターは大量のタオルと水を倉庫から運んでくると、トゥルーデの前でため息をついた。


 「さっきは庇ってくれてありがとうございます。でも、トゥルーデさん、どうして2度も無茶を?」

 「ごめん。でも、見捨てるなんてできないよ。ピーターは友達だし。それに・・・・・・」

 「それに?」

 「・・・・・・ううん。何でもない。今はそれより、劇に集中しよう?証拠のナイフも見つかったし、もう心配することはないじゃん」


 トゥルーデはニコリと笑った。

 ナイフはハンカチで包んで、近くのテーブルの上に置いてある。

 ナイフには丁寧にドロススの名前が刻まれており、また、彼がそれを出してニナを襲おうとしたところをクラスのほぼ全員が目撃している。

 誤魔化せるはずがない。


 「・・・・・・そうですね。でも、無茶はなるべくやめて下さい。トゥルーデさんのことを大切に思う人だっているんですから」

 「わかってるよ」

 「絶対ですからね?」


 ピーターは念押しした。

 トゥルーデは苦笑いした。

 ピーターの言葉が、あの夜の両親のものと重なる。


 ――あまり無茶しないでね。トゥルーデが優しいのはわかるけど、それで怪我でもされたら、母さん達泣いちゃう。


 ――誰かを助けるなら、あまり無茶をしないってことを覚えておきなさい。お利口さんなトゥルーデは、できるかな?


 トゥルーデは天井を見上げた。


 「難しいなぁ・・・・・・」



 しばらくして、シャーロットが担任を連れて戻って来た。

 手には救急箱を抱えている。


 「お待たせ!!」

 「これは・・・・・・、本当に!?」


 担任は唖然とした。

 トゥルーデは腫れた左頬を押さえており、一方のドロススは木の衣装に着替えさせられた後も暴れてドゥールー教徒の園児達に取り押さえられている。

 そして、テーブルにはハンカチで包まれたドロススの名前入りのナイフ。

 誰から見ても、トラブルが起きたのは間違いなかった。

 シャーロットから話を聞いた時は、あのドロススとはいえ、さすがにこんなタイミングでまた暴走しないだろうと疑っていたようだが、実際は庇えないレベルで酷い状況だった。

 担任は園児達から改めて話を聞くと、すぐにドロススから新品の狼の衣装を取り上げ、自分の本来の役に専念するように厳しく注意した。

 ピーターは、シャーロットにガーゼを貼ってもらっているトゥルーデの方を向いた。


 「・・・・・・本当に良かったんですか?あいつ、サイテーないじめっ子ですよ?」

 「そうだね。でも、劇を成功させるには必要なの」


 トゥルーデはそう言った。

 空手を習うためには、「お遊戯会で起こる妨害を上手く乗り越える柔軟さと体力」を見せることが条件だ。

 ドロススからの妨害を乗り越えたが、まだお遊戯会は終わっていない。

 ドロススを参加させてでも成功させなければならない。

 もちろん理由はそれだけではなく、劇を何事もなく成功させて家族に喜んでもらいたいというのもあるが。


 「皆で成功させよう。絶対に」


 トゥルーデの言葉に、シャーロットとピーターはコクリとうなずいた。





 『こうして、大英雄ロジャー・クルーティー様はデスタウン市を築き、皆で幸せに暮らしました。めでたしめでたし』


 隣のクラスの人形劇が終わると、観客席の保護者達は喝采の拍手を送った。

 しかし、その場にヨハンナやブライアンはまだいない。

 こんな時にどこへ行ったのか?

 それは――。



 「おい、止まれ!!俺は本気だぞ!?」

 「私も、マジだよ。マジでキレてるの」


 ヨハンナはブライアンを連れて、ホールの外に出ていた。

 早くトゥルーデ達の劇を観に行きたいが、目の前で銃を構えているこの不審者達を止めなければ、子供達が危険に晒されてしまう。

 ブライアンはかがんで、足元でいびきをかいている男を指さした。


 「朝に教室から出てきたボンボンと密会していた彼から全て聞きました。トゥルーデの衣装をナイフで切り裂き、彼女が傷ついて独りになったところで、あなた方私兵部隊に拉致させる。そうすれば、確実に狼役は自分のものに。それがあのボンボンの陰謀だと」

 「本当に最低。大人が手伝って良いことじゃないでしょ」


 ヨハンナは私兵部隊の男達をギロリと睨んだ。

 朝にトゥルーデを送った後、ブライアンと合流して幼稚園を密かに監視していたら、陰謀の内容を知ることになった。

 何かを企んでいることはブライアンから教えてもらっていたが、ここまで乱暴なことを準備していたとは!

 絶対に通す訳にはいかない。


 「黙れっ!!坊ちゃんのご命令は絶対なのだ!!合図を送るはずのそいつが捕まり、その上、キルス女が衣装を直してしまったために計画は失敗したが、まだチャンスはある!テロリストのふりをして侵入し、あの穢れた虫けらを射殺すれば――」

 「それ以上喋ったら、腕をへし折る」

 「・・・・・・!!」


 ヨハンナは、勝手にベラベラ喋ってきた私兵を黙らせた。

 命令なら仕方ないなどという言い訳は通用しないと今、彼が教えてくれた。

 これで容赦なく対応しても、心が痛むことはない。

 その場が静まり返り、ヒューッと風が吹く。

 緊張した空気が支配する。

 しばらくして、お知らせが入った。


 『お次は、「赤ずきん」の劇――』


 それと同時に、ヨハンナは口を開いた。


 「ブライアン!今!」

 「はい」


 ブライアンは立ち上がると、懐から何かを出して、地面に叩きつけた。

 すると、それの中から煙があふれ出す。

 煙は煙幕となって、瞬く間に辺りを包み込んだ。


 「な、何だ!?ゴォホッ!!」

 「見えねーぞ!?」


 私兵部隊から動揺の声が上がる。

 しかし、ヨハンナは反対に冷静だ。


 「いっくよーー?」


 煙の中からマスクをしたヨハンナが現れ、私兵の腕に蹴りを入れた。


 「ギャーーーッ!!?」


 バンッ!!という銃声と共に響く悲鳴。

 私兵達は固まって動こうとしたが、既に遅い。


 「逃がさない」


 ヨハンナは次々と私兵1人1人の間合いに入り、突きや蹴りを繰り出していく。

 一瞬で至近距離に移動してしまえば、銃で撃つよりも速く敵の体を破壊できる。


 「何やってる!?撃ちまくれば当たるだろ!?」

 「し、しかし、それでは味方にも犠牲が!!」

 「気にしている場合か!?」

 「隊長!!」


 私兵部隊の隊長と側近が言い争う声がする。

 ヨハンナはその声が聞こえる方へ走り、飛び蹴りをしようとした。

 しかし、そのタイミングで煙が薄くなり始めた。

 2人の影がはっきり見え始めたが、裏を返せば、相手からも自分の影が見えているということだ。

 だが、ここまで来たなら、最後まで行くしかない。


 「あ!!このぉ!!」


 隊長の側近が接近するヨハンナに気づき、発砲する。

 何発も飛んでくる銃弾。

 さすがのヨハンナも狙われて撃たれる銃弾は避けられず、左右に動いて対応するしかないが、それによって走りにくくなり、スピードが落ちる。

 側近はニチャアッと笑った。


 「これで終わりだ!!」

 「あなたがね」


 彼の背後から声が。

 現れたのは、気配を消して潜んでいたブライアンだ。

 ブライアンは隊長の側近に強く抱きつく。


 「貴様ぁぁあーーーーーっ!!!」

 「ありがとう、ブライアン!」


 ヨハンナは勢いよくジャンプし、飛び蹴りを食らわせた。

 彼女の足は側近のみぞおちに入り、側近は気絶してしまった。

 ヨハンナは地面に立つと、隊長の側近を寝かせるブライアンの方を向いた。


 「ブライアン、大丈夫?」

 「ええ。この男のおかげでダメージは軽減されています」


 ブライアンはニコリと笑った。

 ヨハンナは胸をなで下ろす。

 しかし、その直後、背後から銃を突きつけられた。


 「そこまでだ」

ドロススをやっと大人しくさせたと思ったら・・・・・・!

ドロススの家の私兵達も、ドロススに負けない位性格が悪いですね。

ヨハンナとブライアンは無事に劇を観ることができるのでしょうか?

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