第2話 家族の絆
お久しぶりです。
梅雨に入り、大変なことも多いですが、頑張って執筆していきます!
トゥルーデとシャーロットが出会ってから数日後のハロウィン前日の夜。
キルス一家は家の2階のベッドで横になっていた。
寝室のベッドの上ではサイラスとセシリアがトゥルーデを挟んでいる。
更に、寝室は8畳とやや広く、置かれているベッドはふかふかで柔らかい。ここで3人で寝る時が一番落ち着く時間だ。
しかし、ハロウィン前夜だからか、トゥルーデは眠れずにいた。
布団の中で、ついもぞもぞと動いてしまう。
セシリアはそれに気づくと、クスッと笑った。
「シャーロットとのお出かけが楽しみなのね」
「うぇ!?か、かあさん!?」
トゥルーデは思わず目を開けた。
サイラスも2人の声を聞いて目を覚ました。
「ドキドキして眠れないのか?」
「とうさん!?」
トゥルーデの気持ちは、両親にはお見通しだった。
セシリアはトゥルーデの頭を優しくなでた。
「そうよね。楽しみで眠れないわよね」
「だが、早く寝ないと具合が悪くなっちゃうぞ」
サイラスは微笑みながら言った。
ハロウィン当日は、キルス一家とダニエルズ父娘で仮装して、お菓子をもらいに回る予定だ。
ブライアンとの相談の結果、キルス家への差別意識がない家を回ることになっており、回った先で急に痛めつけられる心配はない。
そのため、それまでのハロウィン前と違い、こんな普通のお喋りができる。
しかし、3歳の子供に夜更かしはきつい。すぐに寝かせないと翌朝が大変だ。
「子守り歌は・・・・・・、あまり知らないから、『シンデレラ』はどうかしら?母さんね、昔は演劇部員だったの。リアルな読み聞かせ、してあげられるわよ?」
セシリアはトゥルーデに提案した。
しかし、トゥルーデは首を振った。
「ううん」
「え?父さんの子守り歌の方が良かった?悔しいけど、上手いからね」
セシリアは残念そうに言った。
すると、トゥルーデが両手を広げた。
「ハグしてくれれば・・・・・・いいの」
「まあ・・・・・・!甘えん坊さん!」
セシリアはギュッとトゥルーデをハグした。
「でも、そんなトゥルーデが大好きよ。あなたは母さんと父さんの一番の宝物」
サイラスは妻のあんまりな言い草に苦笑いしながらも、その言葉にはうなずいた。
「その通り」
セシリアは微笑んだ。
「ねえ、トゥルーデ」
「なに?」
「あまり無茶しないでね。トゥルーデが優しいのはわかるけど、それで怪我でもされたら、母さん達泣いちゃう」
「え!?な、なかないで!」
トゥルーデは慌てて言った。
サイラスはその様子を見て、クスッと笑った。
「母さんの言う通り、父さん似なんだな、トゥルーデ。父さんは嬉しいぞ。だがな、無茶をすれば、誰でも助けられるとは限らない。逆に周りを危ない目に遭わせることもあるんだ」
「そうなの?」
「父さんが実際に経験したことさ。誰かを助けるなら、あまり無茶をしないってことを覚えておきなさい。お利口さんなトゥルーデは、できるかな?」
「はい!できます!」
トゥルーデははっきりと返事をした。
「良し。トゥルーデは良い子だな」
「そうね。とても良い子」
サイラスとセシリアはトゥルーデの頭にキスをした。
トゥルーデはくすぐったくて笑ってしまう。
これでは、眠ろうとしても眠れない。
しかし、3人にとっては幸せな夜だった。
◆
「にゃ?」
シャーロットは寝室の向こうから聞こえる物音で目を覚ました。
体を起こすと、隣で添い寝してくれていたはずの父がいなくなっていた。
「パパ・・・・・・?」
シャーロットは寂しくなり、ベッドから降りて寝室を出た。
寝室の向かい側には、ブライアンの書斎がある。
部屋のドアの隙間からは光が漏れており、ブライアンがここにいるのは明らかだった。
シャーロットはドアをすぐ開けようとジャンプしようとしたが、以前「入る前にドアをノックすることがマナーだよ」と父に教えられたことを思い出し、普通にドアを叩いた。
トントントン。
可愛らしいノックの音に気がついたブライアンはドアを開けた。
「シャーロット・・・・・・?もう寝たんじゃなかったのか?」
「パパ、よるにガサガサなにやってたの?」
「ああ、起こしてしまったか。ごめんな。明日はハロウィンだというのに」
シャーロットに謝ると、彼は脇に抱いた古い本を指差した。
「パパは、勉強していたんだ。」
「おべんきょう?」
「そうだよ。デスタウンの昔のことについてね」
本には、『デスタウン史』と題名が書かれている。
1896年に街が創設されてから半世紀後に編纂された歴史書であり、参考にする上で重要な史料である。
シャーロットは首を傾げた。
「どうしてそんなこと、おべんきょうするの?」
「キルス家が何であそこまでドゥールー教徒に嫌われているのか、詳しく知っておこうと思ったんだ。そうすれば、もっと力になれることもあるかもしれない」
シャーロットはブライアンの答えを聞いて、トゥルーデが罵られていたあの光景を思い出した。
「そうなんだ・・・・・・」
その様子を見たブライアンは、シャーロットにきいた。
「シャーロットは、トゥルーデ達がいじめられるのは当たり前だと思う?」
「ううん」
シャーロットはブンブンと大きく首を振った。
ブライアンは優しく微笑んだ。
「その心を、ずっと忘れないでな。シャーロット」
「わかった!」
シャーロットは明るく返事をした。
その直後、ブライアンの背後の窓が白く光った。
「なっ!?」
ブライアンはそれに気づくと、とっさにシャーロットを抱えて床に伏せた。
「パ、パパ?」
「シッ!爆発か何かかもしれない」
ブライアンの表情は先程と違い、険しくなっていた。
ブライアンは愛娘を抱えたまま何分も様子を見た。
しかし、どれだけ時間が経っても、爆発音どころか車の音すら聞こえない。
ブライアンは不思議に思い、シャーロットを下ろすと、静かに窓のそばに寄り、外を覗いた。
「何だ・・・・・・?」
外を見た彼は何かを「目撃」し、つぶやいた。
「パパ、どうしたの?」
シャーロットが不安そうにきいた。
ブライアンは窓の方を見たまま冷や汗を流した。
「私達のお隣さんが危ないかもしれない」
◆
サイラスとセシリアは、自分達の間で眠りについたトゥルーデを見て、自然と笑顔になった。
「笑い疲れて寝ちゃったな。可愛い奴」
「本当に天使みたい」
トゥルーデの寝顔はまるで天使のようだった。
トゥルーデは長い黒髪に青い瞳、くりっとした目、可愛らしい顔立ちをした女の子。
髪や瞳の色は父親から受け継いでいるが、目の形や顔立ちは母親に似ており、一目見ただけで可愛がりたくなるような容姿をしている。
「天使か。確か、セシリアが最初に任された役も天使役だったな」
「あー・・・・・・。あのボロ布を着せられたアレね。予算不足だったとか説明されたけど、他の部員は良い衣装着せてもらってたし、絶対いじめだったよね」
「でも、あの劇の中では誰よりも輝いていた。本当に天から舞い降りたかのようだった。俺はあの日から君に夢中になったんだよ」
「・・・・・・!真顔でそういうこと言うの、ずるい」
セシリアはサイラスの発言で頬を赤くした。
素で口説き文句を言うのは相変わらずだ。
「トゥルーデも、母親に似て美人に育つはず。楽しみだな」
「で、でも!そうなったら、サイラスに似た変わり者の男に好かれてすぐ結婚!・・・・・・て、ことにならない?」
「あ、それは困るな。ハハハ。俺は意外とわがままかも」
サイラスは笑って言った。
しかし、そんな「わがまま」も、彼の魅力だろう。
「・・・・・・でも、トゥルーデが本気で望んでいるなら、俺はそれを受け入れるよ。トゥルーデの幸せな未来のために、今まで頑張ってきたんだから」
「偉いわ、サイラス。工場での例の計画もあと少し。来るかもしれない未来のために、私達も親として、工場の経営者としてこれからも頑張りましょう」
「そうだな」
サイラスとセシリアはうなずき合うと、静かにキスを交わした。
「明日も大忙しだ。そろそろ寝よう」
「そうね。おやすみ、私のダーリン」
「おやすみ、ハニー」
2人は蜂蜜のように甘い眠りの挨拶をして、ゆっくりとまぶたを閉じた。
◆
トゥルーデは懐かしい夢を見ていた。
数か月前、サイラスの膝の上に座り、アルバムを見せてもらった時の夢だ。
「見てごらん、トゥルーデ」
サイラスは青い表紙のアルバムを開いて言った。
最初に見せてもらったのは、トゥルーデが生まれた日の写真だった。写真の下には、『10/1/1989』と日付が書かれている。
「可愛いだろう?赤ん坊の頃のトゥルーデだ」
写真には、病院のベッドで赤子の頃のトゥルーデを抱くセシリアと、彼女の隣に座って寄り添っているサイラスの3人が写っていた。
「病院が中立の立場だから、こうして無事に出産できたんだよなぁ・・・・・・。ありがたやありがたや」
サイラスは微笑みながらそう言った。
幼いトゥルーデにはその言葉の意味はあまりわからなかったが、父が喜んでいることははっきりとわかった。
「とうさんは・・・・・・、わたしがうまれてうれしかった?」
「もちろん!!人生で一番嬉しかったぞ。母さんもそうだ」
「え!?エヘヘヘ・・・・・・。そっか。そうなんだー」
トゥルーデはサイラスに即答され、照れ笑いした。
「・・・・・・リリディアにも、この時見せてあげたかったな」
「リリディア?」
「紹介してなかったっけ?父さんのいとこだよ。ちょっと目つきが悪くて、悪ぶってる困った大人だが、本当は強くて優しい良いお兄さんだ。誤解されやすいけど、悪い奴なんかじゃない」
サイラスはそう言って、アルバムのページをめくった。
その後、リリディアの写真も見せてもらった――はずなのだが、そこでトゥルーデは夢から覚めてしまった。
窓ガラスが割れる不快な音によって。
◆
バリーンッ!!
「えぇ・・・・・・っ!?」
トゥルーデは驚いて体を起こした。
下の階からは、窓が割れた音に続いて、何者かが侵入し、床がギィッと踏まれる音が響いた。
ハロウィン前夜に、演出したかのような侵入。不気味だ。
一体、何者だろう?
この後の展開を思うと辛いですが、最後まで書きますよ!